発達障害と知的障害の違い
はじめに
「発達障害と知的障害の違いがわからない」「知的障害は発達障害と言えるのではないか」といった疑問をお持ちの方が多くいらっしゃるようです。そこで、ここでは、知的障害と発達障害とがどのような関係にあるのか、その1つのとらえ方と、今後の課題を中心にまとめています。
1.発達障害は知的障害なのか? 知的障害は発達障害なのか? という疑問
「発達障害は知的障害なのか? 知的障害は発達障害なのか?」という疑問を生じさせる大きな理由の1つは、分類の仕方、分類の基準にあるのではないかと考えられます。
まず、ある基準をもとに分類したとしても、どちらか一方だけに属するような基準にはできない面があります。たとえば、それぞれをまったく異なる障害とした場合、両方の障害があるならば、2つのグループに属することになります。
また、グループ分けの目的には医療面、福祉面など、さまざまな必要を満たすことがあると考えられますが、それぞれの支援の在り方が異なることを考えると、同じ基準で語れない面があると考えることもできます。
さらにもう一つの原因として、同じ言葉であっても、異なる使い方がされているケースもある、という点にあるのではないかと考えることもできます。
日本の行政上は、発達障害、知的障害、精神障害とはそれぞれ独立したものととらえられていますが、医療の側面で見ると、発達障害も知的障害も広い意味で精神障害に含まれるそれぞれの別の障害の総称と国際的には分類されています。
つまり、広い意味での精神障害の中に、発達障害というグループと知的障害というグループとがあり、また、「狭い意味での精神障害≒精神疾患」というグループなども位置づけられています。実際、医療視点で書かれている情報においては、「精神障害」という言葉は、広い意味での精神障害を表すケースが多くなっています。
このような同じ言葉の異なる意味での利用は、発達障害と知的障害においても見られます。広い意味での発達障害には、狭い意味での発達障害と知的障害が含まれているというとらえ方もあるからです。
「図-発達障害と知的障害との関係_医学上の分類のとらえ方例」
このように見てくると、発達障害と知的障害も、ある意味では分類の仕方に過ぎないと理解した方が良いのではないかと考えることができるのではないでしょうか。
たとえば、野球やサッカーなどの球技をやるグループと、マラソンや走り幅跳びなどの陸上競技をやるグループとがあったとします。つまり、球技と陸上競技という分け方です。一方で、野球と走り幅跳び、サッカーとマラソンは、短い距離を走るというグループと、長い距離を走るグループとに分類することもできます。
いずれの場合であっても、球技も陸上競技もやるという方もいらっしゃるでしょう。このように見てくると、グループ分けの仕方は様々あることを理解できるのではないでしょうか。ただ、どのようなグルーピングであっても、スポーツをやるという大きなグループの中に属していることには変わりがありません。
同様に考えれば、障害があるという事実について、共通の認識は持てるのではないかと考えることもできそうです。つまり、「知的障害にしても発達障害にしても、社会を生きる上では非常に大きな困難を伴っており、それが何らかの支援が必要な程度大きなものである、という意味では共通している」ということです。
参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html
厚労省ホームページ 発達障害の理解のために
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm
2.発達障害と知的障害の違い
一方で、必要な支援を検討する上では、違いを確認することも必要になります。困難となることが異なると考えられ、結果、必要な支援の内容も異なると考えられるからです。
発達障害は、広い意味での精神障害の一つと医学的に位置づけられています。精神障害は、何らかの原因で、脳の一部の機能がうまく働かないことによって引き起こされると考えられています。
同じ人に複数のタイプの発達障害を見られることも珍しくなく、また、同じ障害がある人同士でも個人差が大きいという特徴があります。
「図-発達障害全体像」
発達障害には、大きくは以下の3つがあります。
1) 広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群など)
自閉症スペクトラム障害とほぼ同じ意味で使われています。(スペクトラムとは「連続体」の意味です)。自閉症スペクトラム障害は、典型的には、対人関係やコミュニケーションが困難で、興味や行動への偏りが見られるという特徴があります。
症状の強さによって、自閉症、アスペルガー症候群、そのほかの広汎性発達障害などいくつかの診断名に分類されますが、大きくは同じ1つの障害単位だと考えられています。
2) 学習障害(LD)
全般的な知的発達には問題がないのに、「読む」「書く」「話す」「計算する・推論する」など、特定のことを対象に、極めて大きな困難・障害があります。
3) 注意欠陥多動性障害(AD/HD)
発達年齢に見合わない、「不注意(活動に集中できない・気が散りやすい・物をなくしやすい・順序だてて活動に取り組めないなど)」と「多動-衝動性(じっとしていられない・静かに遊べない・待つことが苦手で他人のじゃまをしてしまうなど)」が、頻繁に、かつ、強く認められる障害です。
発達障害の兆候が表れる時期は次の通りです。
文科省が平成24年に実施した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」から、通常クラスへ通学する児童の6.5%が、何らかの発達障害があると推計されています。少々乱暴ですが、この割合を全人口に当てはめると800万人以上の方に発達障害があるという計算になります。
【関連記事】
発達障害とは?
https://jlsa-net.jp/hattatsu/hattatsu0/
「図-「知的障害」の診断」
医学の分野における「知的障害」は、「精神遅滞」とほぼ同じ意味で用いられています。
精神遅滞とは、
1) 知的機能の全般で、同年齢の人と比べて遅れや成長の停滞が明らかであること(IQがおおよそ70以下)
2) 意思伝達、自己管理、家庭生活、社会・対人技能、地域社会資源の利用、自律性、学習能力、仕事、余暇、健康、安全などの面での「適応機能」に、明らかな制限があること
3) 成長期(概ね18歳未満)の時点から見られること
とされており、精神薄弱に代わって用いられるようになりました。
知的障害の原因は多岐に渡っています。このため、その原因が特定されないことの方がむしろ多いようですが、主な原因として、遺伝子の病気・先天性代謝異常・脳形成異常といった出生前の要因のものと、低酸素性虚血性傷害・外傷性脳損傷・感染・中毒性代謝症候群や中毒(例:鉛、水銀)などの出生後の要因のものとがあるとされています。
知的障害のある方の支援の柱となる法律に、知的障害者福祉法という法律があります。この法律の下に、「療育手帳」というしくみが都道府県ごとに制度化され、福祉面での支援が実施されています。
療育手帳制度上の知的障害の判定・認定、は、「知的機能」と「適応機能(介護面の必要性を含む)」との大きく2つの面から総合的になされるのが一般的で、知的機能面ではおおよそIQ70以下の方が知的障害の対象となっています。
また、障害の程度によって、重度とそれ以外とに大きくは分けられていますが、分ける基準や受けられる福祉サービスは、都道府県ごとに差がある状況です。
知的障害が判明するタイミングは、障害の程度によりバラツキが見られるようです。中程度以上の知的障害の場合、3歳児健診までに発見されることが多いと言われています。一方、程度の軽い知的障害は、小学校入学時期にわかる場合や、さらに学習内容が高度化していく中で判明する場合もあるようです。
知的障害のある方は、10年前と比較すると20万人程度増加し、全国で74.1万人と推計されています。
このうち、8割以上にあたる62.2万人が在宅の方で、年齢別に見ると、18歳未満の方が15.2万人、18歳~65歳の方が40.8万人、65歳以上の方が5.8万人、男女比は1.3:1となっています。つまり、全人口の0.6%程度にあたる方に知的障害が見られ、その数は近年徐々に増えてきているということになります。
【関連記事】
知的障害とは?
https://jlsa-net.jp/ti/chiteki/
知的障害のある方を支える福祉サービス ~ 療育手帳制度とは?
https://jlsa-net.jp/ti/chi-fservice/
参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html
厚労省ホームページ 発達障害の理解のために
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm
厚労省 eヘルスネット ホームページ
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
内閣府 平成28年版障害者白書
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h28hakusho/zenbun/index-w.html
文科省:通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm
精神遅滞児の臨床 原因・脳・心理・療育、大堂庄三
3. 発達障害と知的障害との関係 さまざまな分類
「図-発達障害と知的障害との関係_さまざまな分類」
ここまで確認してきたように、同じ発達障害、知的障害という言葉であっても、その言葉の使われ方は、情報の種類や、医療面か福祉面かなど、その文脈により変わることになります。そうなると場合によっては、発達障害があり、かつ、知的障害もあるというとらえ方になる場合もあり得ると考えられるわけです。
具体的なパターンとして、次のようなものが、その文脈上で語られることがあると考えられるのではないでしょうか。
知的障害がある
知的障害であり、広汎性発達障害である
知的障害であり、注意欠陥障害である
知的障害であり、広汎性発達障害であり、また、注意欠陥多動性障害である
一つの発達障害だけがある
複数の発達障害がある
なお、発達障害の1つである「学習障害」については、「学習障害=知的障害を伴わない、学習上の障害」と医療上定義されています。この定義に従えば、知的障害であり学習障害でもあるというパターンはないことになるはずです。
とは言え、そのことが、知的障害があることは学習上の障害を伴わないということにはならないと、とらえられます。知的障害があることに伴う学習上の障害のことを、発達障害における学習障害とは言わないと言った方が、むしろわかりやすいのかもしれません。
【関連記事】
発達障害の1つ、学習障害とは?
https://jlsa-net.jp/hattatsu/gakusyu-syogai/
参考:発達障害の理解のために
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm
4.支援にあたって
このように考えてみても、何よりも確認しておくべきは、知的障害も発達障害は、精神障害も含めて「分類」に過ぎないという側面があるという点ではないかと考えられます。
先にスポーツの例で考えてみましたが、障害というものについても、そこには複数の種類の困難・障害があり、支援をすべきことがあるという点では、ある意味では同じなのではないかとも考えられるわけです。
支援をすべきという点で共通してはいても、支援すべきことがそれぞれ異なることを考えると、分類が必要であることもまた事実ではないでしょうか。
まずは医療的な側面での支援は必要と考えられます。発達障害にしても知的障害にしても、現時点でその障害自体をなくすような薬物療法は見つかってはいません。しかし、その症状を安定させるための薬物治療は行われていますし、その効果が認められているものもあります。
つまり、分類することで、最適な医療を提供できるだろうと考えられます。
もう一つは、どのような福祉を提供するのか、という視点です。困難・障害が異なれば、必要とされる支援も異なります。
障害のある方であっても、その方は決して福祉サービスを受けるだけの対象ではありません。「できることはやる」という自立の側面と、「その方なりの社会への貢献をする」という側面を考えても、ただ闇雲に支援策を提供すればよいというものでもないはずです。
必要とされる支援を行う、という視点に立った時、やはり分類が必要な面もあるわけです。
とはいえ、特に福祉の面について、必ずしも十分でも、わかりやすいと言える制度でもない、という現実があります。現状制度上は結果論の側面もあると考えられるからです。
そもそも障害があることが、福祉の対象としてとらえられるようになるまでには、少なからず長い時間がかかっています。と言うよりはむしろ、過去において障害者支援は、決して当たり前の考え方ではなかったと言えます。また、障害のある方を支援するしくみは拡充されてきたものです。
知的障害のある方を支える法律である「知的障害者福祉法」は昭和35年に成立したものである一方、発達障害は、最近になってようやく社会的な支援が必要な障害として認知されるようになりました。このような事情が制度の複雑さの原因となっている面もあると考えられます。
このような状況に対し、障害のある方を障害の種類に関係なく支援しようという発想で生まれたのが「障害者総合支援法」という法律です。障害者総合支援法では、障害のある方が必要とする支援について、その標準を定めつつ、より幅広い対象に支援サービスを提供することを定めています。
つまり、種類を問わず障害があることは、何らかの支援を福祉の側面から行うべきであることが、ある意味では明確にされたわけです。
このように、日本の福祉制度は、徐々にではありますが変わりつつあると言うことができます。今後は、障害の種類に拠らず共通で行うべき支援と、障害の種類に応じて行うべき支援、その困難の程度に応じて行うべき支援とで再整理していくことが、1つの課題と言えるのかもしれません。
その際の分類のアイデアを読者の方からいただきましたので、ご紹介します。
知的障害のある方:知的機能面に課題が見られ、主に福祉的支援が必要な方
精神障害のある方:明確な精神疾患が認められ、精神科医療と福祉的な支援とが必要な方
発達障害のある方:コミュニケーション面などに困難が生じていて、知的障害者にも精神障害者にもあたらないが、何らかの支援が必要な方
厚労省ホームページ 障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html
最後に
知的障害にせよ発達障害にせよ、支援するしくみを整備することは大切だと考えられます。しかし、もう1つ大切な視点があるはずです。それは、私たちの意識の問題です。
障害というものに対して、社会的には「偏見」が存在することを否定できないという点です。これをなくしていくような取り組みは、まだまだ不十分と言えるのでしょう。支援のしくみがわかりやすく整理していくことも、偏見をなくしていくことに役立つという側面もあるのかもしれません。
障害があるということは、決して他人事ではないという面もあります。たとえば、ストレスなどにより精神障害を発症することは十分ありえることですし、事故なども含め身体障害を持つことになったり、認知面での障害である認知症を患ったりすることなども考えられます。
発達障害に関しても、その障害がどういうものか、という社会的な認知の拡大に伴い、障害があることが判明するケースが増えてきています。誰もが障害と関わる可能性があるという事実を正しく理解し、自分事として障害を考えることが必要になっていると言うことができるのではないでしょうか。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
厚労省ホームページ
発達障害の理解のために
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm
障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html
厚労省 eヘルスネット ホームページ
内閣府 ホームページ 平成25年版 障害者白書
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/zenbun/index-pdf.html
文科省:通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm
東京都福祉保健局ホームページ
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/nichijo/a_techou.html
この記事へのコメントはありません。