高次脳機能障害とは?
はじめに
高次脳機能障害とは、病気や事故などのさまざまな原因で脳が部分的に損傷されたことにより、言語・思考・記憶などの知的な機能の一部に障害が起こった状態のことを言います。高次脳機能障害とは何か、どのような症状が見られるのかといったことを中心にまとめてみました。
1. 高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、病気や事故などのさまざまな原因で脳が部分的に損傷されたことにより、言語・思考・記憶などの知的な機能の一部に障害が起こった状態のことを言います。
高次機能の「高次」とは、触覚や視覚や聴覚、嗅覚などの単純な感覚ではなく、それらを統合して物事を判断するような脳の高次な機能面での障害であるということを指しています。
脳は神経組織の集まりで、知覚情報を統合し、運動反射を指揮するという重要な役割を果たしていますが、各部分ごとにそれぞれが果たす機能が分かれています。
たとえば、前頭葉、つまり脳の前の部分は遂行機能、脳の後ろ側である後頭葉は視覚、脳の左側に当たる側頭葉の左側は言語などをそれぞれ司っています。
このことは、高次脳機能障害とひと言で言ってもその症状はさまざまであることを意味します。つまり、病気や事故などで損傷を受けた脳の部位がどこかによって影響を受ける機能が異なるため、結果としてあらわれる障害が異なるということなのです。
なお、脳のどの部位が、どのような機能を司っているのかについては、以下などで確認することができます。
一般社団法人日本脳神経外科学会/日本脳神経外科コングレス 脳神経外科疾患情報ページ
脳の機能
https://square.umin.ac.jp/neuroinf/brain/005.html
高次脳機能障害のある方は、2001年度から5年間行われた高次脳機能障害支援モデル事業における調査から、すべての年齢層をあわせて全国で約27万人、そのうち18歳以上65歳未満は約7万人と推定されています。
一方、2008年に東京都で実施された調査によれば、東京都内の高次脳機能障害のある方は約49,000人と推定されており、これを元に全国換算すると約50万人となります。いずれにしても、相当数の方に高次脳機能障害があることがわかります。
高次脳機能障害は、精神・心理面での障害が中心であるがために、その症状以外に以下の3つの特徴があると言われています。つまり、「気づきにくい」あるいは「わかりにくい」障害の場合も多いということです。
① 見た目では障害があることが目立たない
② ご本人も、障害があることを十分認識できない場合がある
③ 日常生活、特に学校、職場、手続きなど社会活動をする場面であらわれやすく、診察場面や入院場面ではあらわれにくい
高次脳機能障害の原因は、約8割が脳血管障害であることがわかっています。脳血管障害とは、脳内出血、脳梗塞、くも膜下出血、もやもや病などを指します。また、約1割が頭部の外傷によるものです。その他として、脳炎などの感染症、自己免疫疾患、アルコールや薬物などの中毒性疾患などが原因となっています。
参考:
国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター
高次脳機能障害を理解する
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
よくあるご質問
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/qa/
一般社団法人日本脳神経外科学会/日本脳神経外科コングレス 脳神経外科疾患情報ページ
脳の機能
https://square.umin.ac.jp/neuroinf/brain/005.html
2. 高次脳機能障害に見られる症状と診断
「図-高次脳機能障害に見られる症状」
高次脳機能障害は、その特徴でも触れたように、身体面に関する障害は見られない、あるいは、見られた場合でもそのほとんどが軽度のものとされています。
このため、入浴や階段の昇り降り等について介助が必要となるケースもあるものの、多くの場合、日常生活上は自立しているとされています。
その一方で、脳の損傷部位により違いがあるものの、以下のような症状がみられるとされています。
記憶障害とは、物の置き場所を忘れたり、新しいできごとを覚えていられなくなったりすることを言います。このため何度も同じことをくり返し質問するなどの症状が見られる場合もあります。
ぼんやりしていて、何かをするとミスばかりする、あるいは物事に集中できず、すぐに飽きてしまうというような症状を言います。他にも、2つ以上のことを同時にしようとすると混乱するといったことも注意障害の1つです。
ものごとを目的に合わせて適切にやり遂げることができなかったり、一つひとつ指示してもらわないと何もできなかったり、物事の優先順位がつけられないままに行動したりといったようなことを指します。
自分に障害があることをうまく認識できないことを言います。また、障害がないかのようにふるまったり、言ったりする場合もあります。
1) 依存性・退行
すぐに他人を頼るようなそぶりを見せたり、子どもっぽくなったりすることを言います。
2) 欲求コントロール低下
ひと言で言えば、我慢ができないということです。このため、何でも無制限に欲しがったり、好きなものを食べたり飲んだりすることばかりでなく、お金を無制限に使ってしまうというような行動が見られます。
3) 感情コントロール低下
大したことでなかったり、場違いの場面であったりしても、怒ったり、笑ったり、泣いたりするといったことが見られます。ひどい場合には、突然感情を爆発させて暴れるといったことが見られる場合もあります。
4) 対人技能拙劣
相手の立場や気持ちを思いやることができなくなることを言います。このため、人間関係を良好に保つことや、そもそも人間関係をつくること自体が難しくなる場合もあります。
5) 固執性
一つのものごとにこだわり、容易にはそれを変えられないことを言います。習慣というようなものの他、いつまでも同じことを続けることも、固執性の一つです。
6) 意欲・発動性の低下
自ら行動を起こすようなことがなく、周囲の人から何らかの指示をされないと何もできないような状態のことを言います。
高次機能障害には、ここまでに見てきたような症状がみられるため、次のような脳の障害と間違えられやすいと言われています。
注意力の散漫のような形であらわれる軽い意識障害のほか、落ち着かずに歩き回ったり、突然大声で怒鳴ったり泣いたりするような症状を伴うものです。
認知症とは、年齢を重ねることに伴う脳の病気に伴う症状のことを言います。記憶障害の他、理解・判断力障害、実行機能障害、見当識障害といった中核症状に加え、妄想・幻覚・せん妄・徘徊・抑うつ・人格変化・暴力行為・不潔行為といった、さまざまな行動・心理面での症状が見られる場合があります。
「図-高次脳機能障害が疑われる場合の診断の流れ」
高次機能障害は、以下のようなステップで診断されていくのが一般的です。高次機能障害と間違えられやすい意識障害と認知症を除外するのが最初のステップとなり、その後、高次機能障害のうち、どのような症状があるかを確認していく、という流れになります。
1) 1日の中で症状に変動が見られるなら、意識障害
2) 広く全般で障害が見られるなら、認知症
1) 失語症:滑らかに話せない、相手の話を理解できない、読み書きができない など
2) 注意障害:ミスが多い、集中力がない など
3) 記憶障害:物の置き場所を忘れる、何度も同じことを話したり質問したりする など
4) 行動と感情の障害:気分の浮き沈みが激しい、突然怒り出したり泣き出したりする など
5) 半側空間無視:片側だけ見落としやすかったり、ぶつかりやすかったりする など
6) 遂行機能障害:一つひとつ指示されないと行動できない、行き当たりばったり行動する など
7) 失行症:道具を上手く使えない、動作がぎこちなくうまくできない
8) 半側身体失認:麻痺を認めない、麻痺がないのに片側の身体を使わない など
9) 地誌的障害:自分のいる場所がわからなくなる、迷子になる など
10) 失認症:物の形や色を識別できない、人を見分けられない など
参考:
国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター
高次脳機能障害を理解する
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
よくあるご質問
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/qa/
NHK健康ch
これって高次脳機能障害?
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_425.html
3. 高次脳機能障害の治療
高次脳機能障害は、脳が損傷を受けた結果あらわれる障害であるという点で、一つの障害としてまとめることができるものです。
いずれの脳の部位の損傷も、薬等で治すことは基本的にはできない一方で、「脳のどの部位が損傷したかによってその症状が異なる」という特徴を利用して、治療を行うことは可能です。
つまり、症状の出方に合わせたリハビリ・訓練によって、治療効果が見られたり、症状が回復したりする場合があるということです。
ただし、リハビリによる治療については、誰にでもその効果があるとは言えないことも事実です。また、一般的には、高次脳機能障害の原因となる脳の損傷を受けてから時間が経てば経つほどリハビリの効果は出にくくなります。
よって、脳に損傷を受けた場合は、なるべく早期から、リハビリをしていくことが重要になるということになります。
このように高次脳機能障害になると、まずはその症状に合わせたリハビリによる機能回復を目指すことになります。ただし、必ずしも十分その機能が回復するとは限らないことになるため、その症状に合わせたサポートが必要である、ということになります。
症状ごとの具体的なサポート例としては、次のようなものが考えられます。
言葉が出るまで急がせず、なるべく待つ。それでも出てこない場合、違う言葉やご本人の使える言葉で表現させるたり、言葉を誘導し同じ言葉を発話するよう促したりする など
ミスをしないよう行動ごとのチェックリストを用意し、点検することを習慣化するよう促す。ご本人の好きなことを通じて集中できる時間を少しずつ増やしたり、それしかやることがないような集中できる環境をつくったりする など
置き場所を固定する。その置き場所を色や形などで識別できるようにする。「使ったら戻す」「一つずつ作業する」といったことを習慣化させる。メモを取る習慣をつくる など
落ち着ける場所をつくる。「こうすれば落ち着く」というような行動や、好きな活動をいつでもできるようにしておく。そもそも行動や感情を大きく刺激しないような日常生活習慣をつくる など
片側を見落としやすいことに着目し、たとえばその側は必ず複数回見て言葉に出して確認することを習慣化させる。歩くときなど必ず同じ側を歩くことを習慣化する など
やることの順序を見える形にし、順序通りに作業することを促す など
できることについて、それをくり返す中で早くできるようにするなど負荷を少しずつ上げる。できないことについては、手順を分解し、分解した手順ごとにその行動をくり返す など
麻痺があること、あるいは、麻痺がないことを事実として見せる働きかけをする。たとえば、麻痺がある(あるいはない)側に物を置き、それを取らせるというような形で自分の状態を自覚できるように促す など
それがある場所に目印をつける。たとえば、トイレの場所を通路から見えるような形で示す。よく行く外出先などについては、そこに行くまでの目印になるものを目に見える形で示す など
複数の感覚を利用して、識別できる方法を示す。たとえば、視覚では人を識別できないような場合、声やにおいといったその方の特徴となるものとセットで識別できるようにしたり、名札をつけたりするなどして識別が可能にする など
【関連記事】
高次脳機能障害とご家族の困りごとの解決方法
https://jlsa-net.jp/sei/kouhinou-kaiketsu/
参考:
国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター
高次脳機能障害を理解する
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
よくあるご質問
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/qa/
NPO法人日本脳外傷友の会
Q&A よくある質問
http://npo-jtbia.sakura.ne.jp/contents/qanda/rehabilitation.html
最後に
高次脳機能障害とは、病気や事故などのさまざまな原因で脳が部分的に損傷されたことにより、知的な機能の一部に障害が起こった状態のことを言います。
高次脳機能障害では身体面に関する障害が見られない場合が多く、気づきにくい、わかりにくい障害の場合も多いとされています。
また、高次脳機能障害とひとくくりで表現してはいるものの、脳はその部位により司る機能が異なるため、損傷を受けた部位によってみられる症状が異なるという特徴があります。
脳は一度損傷を受けると、その損傷した部位を薬等で元に戻すことはできないとされています。このため、治療の中心は、その症状に合わせたリハビリになります。
ただし、必ずしも十分その機能が回復するとは限らないため、症状に合わせたサポートが重要になるとも言えるのです。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
国立障害者リハビリテーションセンター 高次脳機能障害情報・支援センター
高次脳機能障害を理解する
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
よくあるご質問
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/qa/
一般社団法人日本脳神経外科学会/日本脳神経外科コングレス 脳神経外科疾患情報ページ
脳の機能
https://square.umin.ac.jp/neuroinf/brain/005.html
NPO法人日本脳外傷友の会
Q&A よくある質問
http://npo-jtbia.sakura.ne.jp/contents/qanda/rehabilitation.html
NHK健康ch
これって高次脳機能障害?
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_425.html
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