軽度知的障害とは? ~軽度という言葉に惑わされない

軽度知的障害イメージ
知的障害

はじめに
知的障害のある方の多くは軽度知的障害と言われています。ただ、軽度であっても、障害のあることで、生活上、学習上など、さまざまな困難が生じているのも事実です。また、軽度であるが故の問題が、そこには潜んでいるという事実も見逃せません。

ここでは、軽度知的障害について、軽度知的障害とは何か、それにまつわる問題点などについてまとめています。



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1. 軽度知的障害とは?
(1) 知的障害とは?

知的障害とは、医学の分野では「精神遅滞」とほぼ同じ意味で用いられています。

【関連記事】
知的障害とは?
https://jlsa-net.jp/ti/chiteki/

精神遅滞とは、
① 知的機能の全般で、同年齢の人と比べて遅れや成長の停滞が明らかであること
② 意思伝達、自己管理、家庭生活、社会・対人技能、地域社会資源の利用、自律性、学習能力、仕事、余暇、健康、安全などの面での「適応機能」に、明らかな制限があること
③ 成長期(概ね18歳未満)の時点から見られること
とされており、精神薄弱に代わって用いられるようになりました。

(2) 軽度知的障害とは? ~知的障害を判定する2つの視点

知的障害は、その症状によって最重度・重度・中度・軽度の大きく4つに分類することになるのですが、その判定は、基本的に知的機能面と適応能力の2面から評価することになります。

「図-知的障害の区分例」
知的障害の区分例

① 軽度知的障害の知的機能面での評価 ~IQ=50~70程度が目安

知的障害の知的機能面での評価は、医学の分野では4つの区分に分けてとらえることになります。このとき、軽度知的障害は、IQが50~70程度の知的障害がある場合を言い、知的障害のある方の85%程度にあたると推計されています。

主な症状は以下のとおりですが、知的機能面だけをとっても測定値に誤差が含まれることなどから、固定されるものではないことにも注意が必要です。

また、この区分は医学の分野での区分で、福祉サービス上の区分とは異なる場合がある点も合わせて確認しておく必要があります。

<主な症状>
1)話し言葉に遅れが見られ、特に抽象的な事柄の理解が難しい状態です
2)小学校の教科学習程度になると、学習困難が見られるようになる場合が多くなります
3)衣食住を中心とした生活における行動面では自立できています
4)将来、高度な熟練技術を必要とするような業務でなければ、働くことが可能です

② 適応能力

適応能力とは、食事・着替え・排泄などの自分のことが自分でできるかという視点や、家事、社会的な対人関係の構築、読み書き・コミュニケーションなど、日常生活や社会生活上必要となる全般的な能力のことを言います。

(3) 軽度知的障害の原因
知的障害の原因は多岐に渡っています。このため、その原因が特定されないことの方がむしろ多いようですが、主な原因としては、以下のようなものがあります。

① 出生前の病因

1) 遺伝子の病気(例:遺伝子の配列変異またはコピー数多型、染色体疾患)
2) 先天性代謝異常
3) 脳形成異常
4) 母胎疾患(胎盤疾患を含む)
5) 環境の影響(例:アルコール、薬物、毒物、催奇性物質) など

② 出生後の要因

1) 低酸素性虚血性傷害
2) 外傷性脳損傷
3) 感染
4) 脱髄性疾患
5) けいれん性疾患
6) 深刻で慢性的な社会的窮乏
7) 中毒性代謝症候群や中毒(例:鉛、水銀) など

参考:
厚労省 eヘルスネット ホームページ
知的障害(精神遅滞)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html

医療法人社団ハートクリニック
軽度精神遅滞[知的障害]
http://www.e-heartclinic.com/kokoro/senmon/f70/f70_mild_mental_retardation.html

2. 軽度知的障害の特徴

「図-軽度知的障害の特徴」
軽度知的障害の特徴

(1) 軽度知的障害、そのあらわれ方に見る特徴

軽度知的障害は、空間・時間・数量の認識に典型的な特徴があります。

一方で、知的機能と適応能力にやや遅れがあるものの、身の回りのこと(食事・洗面・着衣・排泄など)は自分で行うことができます。自ら学び取る力もあり、経験を重ねることで得られる知識や学びは広がります。

また、以下で見ていくように、ある程度以上の力をつけたり、ものごとに対応するスピードを上げたりすることもできるため、まずは力をつけるためのトレーニングを十分に行うことが大切と言えるでしょう。

その上で、軽度知的障害のある方が苦手になりやすい地図を読んだり、電車の時刻表を見たり、お金の計算をしたりといった部分は、スマートフォンなどのアプリを利用するなどすれば、生活上の適応能力を高めることが可能だと言えます。

① 空間の認識:

自分と空間の関係を「今いる場所」「何度か行った場所」「行ったことがない場所」に分類した場合、軽度知的障害のある方は、自分が「行ったことのない場所」でも、その場所が存在していることを理解することできます。

知的障害のある場合、その程度が重いほど、目に見えないものや抽象的な概念を理解することは苦手と言われていますが、軽度知的障害の場合であれば、抽象的な概念、つまり、具体的でないものであっても、ある程度までは理解できるということです。

② 時間の認識:

過去、現在、未来という概念を理解することができるため、時計を見て「ご飯を食べる時間」「寝る時間」「学校へ行く時間」などと、時間帯とやるべきことを関連づけて理解することもできます。

一方で、時間の長さを計ったり、「何時間後は何時になるか?」という計算したりといったことは、とまどう場合が多いようです。ただし、これもトレーニングを積むことである程度は解消できるようになります。

③ 数量の認識:

軽度知的障害のある場合、自分が経験してきたことを元に物事を理解していく傾向が強くなります。たとえば、「500円玉1枚で飲み物を買うことができる」というような理解の仕方です。

このため、おつりがいくらになるかなど、細かい計算を瞬時に行うことは難しい場合が多くなります。

ただし、計算のトレーニングなどを積むことで、これもある程度のスピードでできるようになります。

(2) いつ、その特徴があらわれるか

ここまででその特徴で見てきているとおり、軽度知的障害の場合、ことばや抽象的な内容の理解に遅れがみられる場合がありますが、身の回りのことはほとんど一人で行うことができます。このため、幼少期には気づかない場合も多いと言われています。

また、学業面での遅れが目立つようになりやすい小学校高学年以降であっても、不登校やひきこもりなどの問題行動があらわれているにも関わらず、軽度知的障害であることが見過ごされる場合もあるようです。

この背景に、年齢を重ねる中で考える力をつけていけることで「がんばればできる」という面が強調され過ぎる場合があることや、うつや不安障害、自閉症スペクトラム障害など、併発している他の精神障害が前面に表れていることなどが考えられます。

【関連記事】
うつ病とは?
https://jlsa-net.jp/sei/utsu/

不安障害とは?
https://jlsa-net.jp/sei/fuansyogai/

自閉症スペクトラム障害とは?
https://jlsa-net.jp/zhi/z-spectrum/

参考:
厚労省 eヘルスネット ホームページ
知的障害(精神遅滞)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html

医療法人社団ハートクリニック
軽度精神遅滞[知的障害]
http://www.e-heartclinic.com/kokoro/senmon/f70/f70_mild_mental_retardation.html

J-STAGE
軽度知的障害児の文記憶に及ぼす項目特定処理の効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/55/2/55_208/_pdf/-char/ja

富山大学学術情報リポジトリ
軽度知的障害児の安心、自信、自己肯定感の獲得に関する研究 : 児童福祉施設併設特別支援学校における実践から
https://toyama.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=690&item_no=1&page_id=32&block_id=36

3. もしかしたら軽度知的障害?と思ったら ~軽度だからといって侮ることはできない

「図-軽度知的障害にまつわる問題点」
軽度知的障害にまつわる問題点

軽度知的障害は、その症状の程度が軽度であるが故の問題が発生する可能性があります。

(1) 軽度知的障害の場合の問題点

① 軽度知的障害のある場合に見られる併存障害・2次障害

軽度知的障害のある場合、他の精神障害を併発しがちであり、また、その障害が非常に多彩であるという特徴があります。

特に、時に犯罪行為にまで至ってしまう反社会的行動をくり返す行為障害、ひきこもりなどを伴う社会不安障害、ある特定の行動を何度もくり返すという儀式的行動に縛られる強迫性障害、うつ病性障害や双極性障害を含む気分障害などが、併存障害や2次障害として多く見られると言われています。

② 問題行動や併存障害の原因

軽度の知的障害のある方は、周囲から求められることやその指示を十分に理解できなかったり、理解するのに時間がかかったりという場合が多くなります。このことが、強い不安や劣等感につながりやすくなると考えられます。

また、そのことが過剰に背伸びしたり、あるいは圧倒されて萎縮したりといったことにつながり、結果として、さまざまな精神障害や問題行動へとつながっていきやすい面があると考えられます。

③ 軽度知的障害に気づかれないという問題

軽度知的障害は、その特徴から幼少期の頃には気づかれず、一定年齢以降に明らかになる場合があります。

この場合、ご本人も保護者の方も軽度知的障害を受け入れること自体に時間がかかりやすくなり、結果、支援が不十分になったり、遅れてしまったりといった問題が起きやすくなります。

(2) もしかしたら軽度知的障害?と思ったら

もしかしたらと思ったら、何よりも早く専門機関へ相談することをおすすめします。一つの理由は情報面、対応面など、様々な面での支援を早く、多く、得られる可能性が高まるからです。

また、仮に知的障害があるとしても、実際に支援を受けるには、各種の申請が制度ごとに必要なため、多くの事務的な負担がかかる点も見逃せません。

知的障害のある方ご本人や、保護者を含むご家族の方のみの努力だけでできることには限界があります。必要な支援は積極的に受けるという姿勢も非常に重要です。

(3) 診断方法

軽度知的障害の確定診断は臨床診断と各種検査の結果によって総合的に診断されます。

① 生育歴

産まれてから診断時点までの社会性や対人コミュニケーション、言葉の発達、幼稚園・保育園・学校での様子や1歳半健診・3歳児健診・入学時健診・その他の健診等での様子などをヒアリングします。

発達面で知的障害の疑いがありそうか、発達にどんな特性がありそうかなどを見立てていきます。

② 行動観察

遊びの場や学びの場などでのご本人の様子の観察、保護者の方へのインタビューなどを通じて行われます。

③ 知能検査・適応能力検査・脳画像診断など

知能検査で一般的なものには、田中ビネー知能検査やウェクスラー式知能検査などがあります。また2歳未満の方の場合や、医師から必要と認められた場合には、記述式の発達検査や、新版K式発達検査などの実施式の発達検査を受けることもあります。

適応能力の検査では、Vineland-Ⅱ、ASA旭出式社会適応スキル、S-M社会生活能力検査などが使われています。

(4) 軽度知的障害のある方の支援

① 支援にあたって最も重要なことは何か?

軽度知的障害のある方の支援は、診断で利用される視点でもある、「知的機能」と「適応機能」の2つの側面からとらえる必要があります。少なくとも今の医学では、ほとんどのケースで知的機能面が改善されることはないとされています。

一方で、適応機能面は、環境次第で向上する可能性が十分あり、特に早期に発見され適切な療育が施された場合、医学的にも長期的予後は改善するとされています。

つまり、「適応機能」面を中心に持てる能力を磨いていく支援が重要になるということです。具体的な方法として、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)などが考えられます。

【関連記事】
SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)とは? ~ソーシャル・スキルを効果的に身につけるために
https://jlsa-net.jp/hattatsu/sst/

② 支援機関

知的障害のある方ご本人や、保護者の方などを支援する機関に、以下のようなものがあります。

保健センター
子育て支援センター
児童相談所
発達障害者支援センター
障害者就業・生活支援センター
相談支援事業所 など

参考:
厚労省 eヘルスネット ホームページ
知的障害(精神遅滞)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html

医療法人社団ハートクリニック
軽度精神遅滞[知的障害]
http://www.e-heartclinic.com/kokoro/senmon/f70/f70_mild_mental_retardation.html

厚労省 ホームページ
障害者の範囲
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1031-10e_0001.pdf

最後に

知的障害は、知能機能面と適応能力の面を総合的に判断し、4つの区分に分けとらえていくのが一般的です。そのうち軽度知的障害は、知能検査の結果がおおむねIQ=50~70程度の方を言い、知的障害のある方の8割以上が該当すると推計されています。

「軽度」という単語が付いてはいますが、軽度知的障害のある方が、学習上や生活上の困難がないというわけではありません。

また、身のまわりのことができたり、努力をすることで相当のレベルまで能力を磨くこともできたりするため、かえってその発見が遅れがちで、支援の遅れなどにより、他の精神障害を併発してしまうリスクが高まるといった問題があります。

早く支援の体制を作れれば、このような問題の発生を未然に防ぐことにもつながります。ひょっとしたら? というようなことがあれば、なるべく早く、専門機関にご相談することが何より重要と言えるでしょう。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省 ホームページ
障害者の範囲
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1031-10e_0001.pdf
eヘルスネット ホームページ
知的障害(精神遅滞)

知的障害(精神遅滞)

医療法人社団ハートクリニック
軽度精神遅滞[知的障害]
http://www.e-heartclinic.com/kokoro/senmon/f70/f70_mild_mental_retardation.html

J-STAGE
軽度知的障害児の文記憶に及ぼす項目特定処理の効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/55/2/55_208/_pdf/-char/ja

富山大学学術情報リポジトリ
軽度知的障害児の安心、自信、自己肯定感の獲得に関する研究 : 児童福祉施設併設特別支援学校における実践から
https://toyama.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=690&item_no=1&page_id=32&block_id=36

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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