感覚過敏 自閉症スペクトラム障害など、障害のある方は黄色がニガテ?

発達障害

はじめに
自閉症スペクトラム障害など、障害のある方は感覚過敏である場合が少なくないと言われています。またそれは、さまざまな感覚・知覚で起きるとも言われており、その一つに「色」があると考えられます。

ここでは、そもそも「感覚過敏とは何か?」について、そのメカニズムにも触れながら見ていきつつ、自閉症スペクトラム障害のある方が、一般的にニガテとしやすい色やその理由、また、感覚過敏である可能性を考慮した支援の視点などについて、まとめています。



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1. 障害のある方に見られる感覚過敏という問題
(1) 人の感覚・知覚と刺激の伝わり方~そのメカニズム

「図-刺激の伝わり方」
刺激の伝わり方

人は感覚を通して、世界を知覚しています。①体のさまざまな部位で、周囲の情報という刺激を受け取り、それが、②神経系を通して脳に伝わり、③脳がその刺激を情報処理して、感覚として受け取る、知覚するのです。
感覚として上げられるもののうち、その代表的なものに五感があります。

1) 視覚:目からの刺激に対するもの
2) 聴覚:耳からの刺激に対するもの
3) 触覚:皮膚などで触れることから感じる刺激に対するもの
4) 味覚:舌を中心に、口で受ける刺激に対するもの
5) 嗅覚:香り・臭いなど、鼻で受ける刺激に対するもの

なお実際には、圧覚、痛覚、冷覚・温覚、平衡感覚、運動感覚など、他にも感覚と位置づけられているものはあります。これらの感覚を通じて認識することを知覚と言います。

(2) 感覚過敏とは何か?

障害のある方は、このような知覚が鋭敏過ぎる方が少なくないと言われています。これを感覚過敏と言いますが、既に示したメカニズムでそれを見ると、「刺激の受け取り方」、「それを伝達する神経系」、「その刺激を受け取った脳の情報処理」のいずれかが過剰に働く状態であると言えるわけです。

参考
J-STAGEホームページ
感覚知覚のメカニズム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjtmsj1972/37/10/37_10_P389/_pdf

世界大百科事典
五感
https://kotobank.jp/word/%E4%BA%94%E6%84%9F-498788

2. 自閉症スペクトラム障害など、障害のある方のニガテな色の傾向
(1) 障害のある方にとっての「ニガテ」「困りごと」の意味~単なる好み以上の「好き・嫌い」

障害のある方は、その障害によって「ニガテ」や「困りごと」があるとは、よく言われることです。では、実際にその「ニガテ」や「困りごと」とは、どのレベルのものなのでしょう?

筆者の知人で、障害により感覚過敏の方がいらっしゃいます。その方は、歩くだけで、足首に強烈な痛みを感じるとのこと。また、点字ブロックの凹凸にも、つま先がひっかかるなどし、それに伴いさらに痛みを感じると言います。

もちろん、「さぞや辛かろう」と思ってはいたのですが、その辛さを本当の意味で理解したのは、筆者が足首を捻挫したときのことだったと言わざるを得ないのではないかと思います。普段ならなんともない段差で痛みを感じる。人とすれ違うときに避けられない、避けようとすると痛みを感じる。止まるのも痛い。動き出すのも痛い。

その時にこの方が言われた言葉が印象的でした。「これが毎日続くんだよ・・・」

実際に足が痛いというだけでなく、それに伴い「あらゆるものが、障害となってやってくる」毎日であり、一瞬一瞬であるということ。言葉で聞く以上の「ニガテ」や「困りごと」であることを、そして、その「ニガテ」や「困りごと」が、「好き・嫌いに影響を与えている」と考えられるということを感じていただけるのではないでしょうか。

それは、「ニガテ」や「困りごと」と言うよりは、一種の「恐怖」に近いものと言えるかもしれません。

(2) 一般的に自閉症スペクトラム障害のある方の色の好みに対する傾向

「図-自閉症スペクトラム障害のある方の色の好みに対する一般的な傾向」
自閉症スペクトラム障害のある方の色の好みに対する一般的な傾向

このような感覚過敏が色にもあるという調査結果があります。この調査は、自閉症スペクトラム障害のある方々と、同障害のない方々とで色の好感度を数値化するというものです。対象となった色は、赤、青、黄、緑、茶、ピンクの6色でした。

① 自閉症スペクトラム障害の有無に関わらず好む色

自閉症スペクトラム障害の有無に関わらず好感度の最も高い色は、赤と青でした。

② ニガテにしやすい色は?

自閉症スペクトラム障害のない方の好感度は高いのに、自閉症スペクトラム障害のある方の好感度が低い色は、「黄色」でした。

この原因をこの調査では、「黄色があらゆる色の中で、明るさの程度をあらわす輝度が最も大きく、生理的に刺激の強い色であることと関係しているのではないか」と指摘しています。

黄色は刺激の強さという特性から、アラート機能をあらわすものとして広く活用されていますが、一方で長時間さらされると感覚疲労をおこすことが知られています。このことからこの調査では、一般に感覚過敏である場合が多いとされる自閉症スペクトラム障害のある方にとっては、その他の色の刺激も含め、「一般の方が黄色の中にいるのと同様の強い刺激に、日常的に、長時間さらされている状態」なのではないかとも指摘しています。

③ 好む傾向にある色は?

一方で、自閉症スペクトラム障害のない方に比較して、自閉症スペクトラム障害のある方の好感度が高い色は「緑色」や「茶色」で、特に「緑色」は、赤・青に次いで3位となっています。つまり、自然の色であり、生理的に柔らかい色が好まれる傾向が強いことがわかるのです。

(3) 好みは人それぞれ、という事実

このように、自閉症スペクトラム障害のある方には、一般的な傾向としては、赤・青・緑を好む傾向があり、黄色は好まないと言えます。たとえばカラーの資料を作成し、一律で配布するような場合や、大勢の方が利用するような室内の色を検討するような場合は、一般的な傾向を考慮しつつ、対応することが重要になると言えるでしょう。

ただしこれはあくまで一般的な傾向。好みは人それぞれですので、あくまでも傾向としてみる必要があることも忘れてはならないでしょう。たとえば、同じくカラーの資料を作成するような場合、そのカラーを個別化できるような場合であれば、「一人ひとりの好みに合わせてカラーを変える」といったような方法も考えられるということです。

【関連記事】
自閉症スペクトラム障害とは?https://jlsa-net.jp/zhi/z-spectrum/

参考:
埼玉県立総合教育センターホームページ
自閉症の特性と支援Q&A集
http://www.center.spec.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=7972

京都大学ホームページ
自閉症スペクトラムの子どもは黄色が苦手で緑色を好む傾向を確認
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2016/documents/161223_2/01.pdf

3. 感覚過敏は、色だけではない
(1) 感覚過敏は、自閉症スペクトラム障害のある方の感覚すべてで見られる可能性がある

自閉症スペクトラム障害のある方は、相互的な対人関係が苦手なことや、興味関心が限られているといったことが症状としてあらわれます。その一因に、障害にともなう「感覚過敏」があると考えられています。

たとえば、一般的には適度な大きさの音に対してもそれを「大きすぎる」「うるさい」と感じることや、既に見た筆者の知人の足首に感じる痛みのように少し触られるだけでも「痛い」と感じることなどが、これに当たります。この結果、周囲からするとごく普通に話しかけたつもりでも、ご本人にしてみると怒られていると感じたり、触れられることを避けようとパニックに陥ったりすることも珍しくないと考えられるわけです。

(2) 感覚過敏の具体例

色の問題以外に、感覚過敏によって見られる、自閉症スペクトラム障害のある方にとっての「困りごと」としては、次のようなものがあると考えられます。

① 色以外の視覚過敏

自閉症スペクトラム障害を含む発達障害のある方は、視覚的学習が比較的得意であると言われています。その一方で、色の他にも明るさに過敏である場合が多いとも言われています。このため、たとえば蛍光灯は新品であっても瞬いて見えるため、ワット数の低い白熱灯の部屋でないと勉強できないといった場合があります。

② 聴覚過敏

環境音や人の声などの聴覚刺激を不快に感じることが多いとも言われています。

たとえば「友だちが急に大きな声を出したり、先生が突然怒鳴ったりするといった、突然の大きな音が大きなストレスになる」という質問に対し、発達障害のある方の半数近くが「該当する」と回答したとする調査結果があります。また、「赤ちゃんの泣き声がとても苦手」という方もいらっしゃいますが、これは発達障害に特有の聴覚過敏とされてもいます。

③ 触覚過敏

服や下着、雨や風、人に触られたり抱かれたりすることが「痛いもの」ととらえられたり、砂や泥の感覚が「不快」と感じられたりすることがあることがわかっています。また、帽子やジーンズ、ブラジャーなどのしめつけ感を苦手とするなど、衣服に悩む場合も多いとされています。さらに、シャワーや洗髪、歯磨きが「痛い」と感じられる場合があり、結果的に衛生面での問題に繋がる場合があることも指摘されています。

④ 味覚過敏

味、固い食べ物、舌触りなど、触覚や嗅覚などと併せて味覚過敏が見られたり、また、あたたかい食べ物は、火傷しそうに感じられるほど過敏であったりする場合があるようです。これが、偏食につながっている場合もあると考えられています。

⑤ 嗅覚過敏

発達障害のある方の15%程度の方が「化粧品のにおいがとても苦手」、「焦げ臭いにおいにとても敏感」という調査結果があります。

特定のにおいの物を嫌う嗅覚過敏は、特に幼児によく見られるとされています。苦手なにおいには、体育館や体育用具室、接着剤や絵の具などの図工用品、給食のにおいなどもあることから、日常生活の様々な場面で不具合が生じている可能性が考えられます。

参考:
埼玉県立総合教育センターホームページ
自閉症の特性と支援Q&A集
http://www.center.spec.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=7972

東京大学大学院教育学研究科・教育学部ホームページ
感覚過敏に困り感を持つ発達障害児・者への支援の現状と課題
http://www.p.u-tokyo.ac.jp/shimoyama/08kaken/pdfs/2015/2015-v38-P36-P43.pdf

4. 障害のある方を支援する際に注意したいこと

「図-障害のある方を支援する際に注意したいこと」
障害のある方を支援する際に注意したいこと

(1) 「一般的に言われること」とご本人の実際の状況との違い~ステレオタイプに要注意

自閉症スペクトラム障害のある方の感覚過敏について見てきましたが、自閉症スペクトラム障害に限らず、障害のある方には、刺激に対して、いわゆる健常者とは異なる感覚を持っている方がいらっしゃるのは事実でしょう。一方で、障害がない方でも、感覚過敏である方はいらっしゃるはずです。

また、刺激に対して鈍感である感覚鈍麻と呼ばれる状態が、障害のある方に見られる場合もあると考えられます。よって、一般的な傾向を、一人ひとりの状況に無闇に当てはめてしまうことには十分注意し、避ける必要があると言えます。

(2) 一般的に言われること、の使い方 ~ 配慮した行動とは何か?を考えるきっかけとする

では、一般的な傾向は、どのように利用するのが良いのでしょう?

一つ考えられるのは、「配慮のための気づきに使う」というものです。たとえば、一般的に使われる程度に「黄色」を使った場合でも、「見にくい、疲れる」というような意見をいただいた場合には、極力使わないようにするといった配慮の仕方です。好みの色に沿っていれば、その方により正確に情報が伝わることにもつながると考えられます。

また、そもそも色の刺激が強いと感じられる方が少なからずいらっしゃることを考慮して、事前に黄色を極力避けるということも検討できるでしょう。
このように、一般的な傾向は、「配慮した行動を促すきっかけ」にしていくことができるということです。

(3) 実際の支援は、それぞれの方の状況に合わせて

実際に自閉症スペクトラム障害のある方を支援する場合は、感覚過敏である場合を考慮した支援が必要でしょう。そのためには、「感覚過敏である可能性」を考慮しつつ、ご本人の実際の状況をきちんと把握することが大切だと言えます。個別の配慮のためには、やはり会話が必要と言えます。つまり、「これを見て疲れないか?」というような、ごく自然な会話を通じて、相互の理解を深めるということです。

一般的な傾向を、コミュニケーションのポイント、視点ととらえれば、多くの会話に結びつけられるとも言えるのではないでしょうか。

【関連記事】
合理的配慮とは? ~障害のある方が普通に生活できる社会づくり
https://jlsa-net.jp/hattatsu/gouritekihairyo/

コミュニケーションハンドブックの効果的な使い方
https://jlsa-net.jp/hattatsu/kks-comhdbook/

参考
内閣府ホームページ
障害者差別解消法リーフレット
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet.html

文科省ホームページ
資料3:合理的配慮について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1297380.htm

最後に

自閉症スペクトラム障害のある方を含め、障害のある方は、さまざまな感覚過敏による「困りごと」「ニガテ」を抱えている可能性があります。その「困りごと」や「ニガテ」のレベルは、その言葉からだけでは想像しにくい種類のもので、むしろ「恐怖に近いもの」ととらえた方が、その感覚に近いのかもしれません。それほど強い困りごとである可能性がある、ということです。

このような中で私たちができることは、まずは「それだけ強い困りごとである可能性を考慮した上での配慮」と言えるのではないでしょうか。頭で理解できるレベルとその程度との間には、大きなギャップがあるのも事実でしょう。

そうではあっても、「配慮が必要かもしれないポイント・視点」が事前にわかっていれば、自然と必要なコミュニケーションを生む機会にはしていけるでしょうし、その積み重ねが、お互いの理解を深めていくことにつながっていくのではないかということです。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
内閣府ホームページ
障害者差別解消法リーフレット
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_leaflet.html

文科省ホームページ
資料3:合理的配慮について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1297380.htm

J-STAGEホームページ
感覚知覚のメカニズム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjtmsj1972/37/10/37_10_P389/_pdf

埼玉県立総合教育センターホームページ
自閉症の特性と支援Q&A集
http://www.center.spec.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=7972

京都大学ホームページ
自閉症スペクトラムの子どもは黄色が苦手で緑色を好む傾向を確認
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2016/documents/161223_2/01.pdf

東京大学大学院教育学研究科・教育学部ホームページ
感覚過敏に困り感を持つ発達障害児・者への支援の現状と課題
http://www.p.u-tokyo.ac.jp/shimoyama/08kaken/pdfs/2015/2015-v38-P36-P43.pdf

世界大百科事典
五感
https://kotobank.jp/word/%E4%BA%94%E6%84%9F-498788

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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