ReCODE法の研究成果 現代型の生活がアルツハイマー病の原因?
はじめに
認知症を患う方の数は、2025年には700万人にもなると言われていますが、そのうちアルツハイマー病は、認知症の原因の半数以上を占めるとされています。では、アルツハイマー病とはいったい何が原因となった疾患なのでしょうか?ここでは、アルツハイマー病にまつわるこれまでの定説と、その定説に異を唱え、ReCODE法という治療法を提唱する医師による研究成果とその治療の概要についてまとめています。
1. アルツハイマー病にまつわるこれまでの定説
「図-アルツハイマー病にまつわる従来の定説」
「アルツハイマー病は、脳内にアミロイドβペプチド(Aβ)と呼ばれるペプチドが沈着することが原因となって発症する」という仮説があります。これを「アミロイド仮説」と言い、これまでアルツハイマー病の原因として、いわば定説とされてきた仮説です。
実際アルツハイマー型認知症を患う方の脳には、老人斑というものが見られるのですが、それを構成しているのが、べとついたタンパク質の塊であるアミロイドβです。
アルツハイマー病の治療薬は数十年に渡っていくつも開発されていますが、その多くは、「アミロイドβを取り除こう」とするものであったことが、この仮説が定説言われる所以でもあります。
ところが実際の問題として、アルツハイマー病に伴う認知症、つまり、アルツハイマー型認知症は進行性で、その進行を遅らせることはできても治すことはできない、とされています。
アメリカの例で言えば、本当にアルツハイマー病の新薬と言える治療薬は2003年以来承認されておらず、現在承認されている治療薬については、物忘れや混乱症状は軽減が期待できるものの、その効果は期間限定的とされているとのこと。
それ以降も多くの新薬開発が進められているにも関わらず、治すことができないのですから、「アルツハイマー病は不治の病」とされるのも、無理からぬことと言えるのかもしれません。
このように、アミロイドβ仮説に基づく「アミロイドβを取り除く」というアプローチは、大きな治療の効果を生んでいるとは言い難い状況ではあります。
このような状況から、「アミロイドβ」を悪役として考えていくという治療アプローチ、治療薬開発のアプローチは、限界があるのかもしれないと考える研究者が出てきています。
後ほど触れるReCODE(リコード)法と呼ばれる治療法を提唱するデール・ブレデセン氏は、その第一人者とも言える医師です。
参考:
長崎大学 ゲノム創薬学研究室
研究概要
http://www.ph.nagasaki-u.ac.jp/lab/biotech/research.html
アルツハイマー病 真実と終焉、デール・ブレデセン、ソシム株式会社
2. ReCODE(リコード)法という治療法を提唱する医師の研究成果
「図-ReCODE(リコード)法というアルツハイマー病の治療法を提唱する医師の研究成果」
ブレデセン氏は、次のような研究成果を示しています。
既に見たように、これまでアルツハイマー病は、アミロイドβが作られることが原因だとする説が最有力視されてきました。しかし同氏は、「アミロイドβは、アルツハイマー病の原因ではなく、結果だ」とする研究成果を示しています。
その成果とは、「脳は炎症・栄養不足・毒素という3つの脅威にさらされると、防御反応としてアミロイドβをつくり、脳自体を守ろうとする」のだが、「炎症・栄養不足・毒素という3つの脅威が強いものであればあるほど、また、長く続けば続くほど、元々は脳を守るためにつくられたアミロイドβが過剰な状態になってしまい、結果、脳を守るはずだったアミロイドβが脳神経を破壊してしまう」というものです。
つまり、アルツハイマー病とは、脳の防御反応の結果だということです。
アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病を原因として、「記憶障害、見当識障害、理解・判断力の障害、実行機能障害」といった中核症状と「不安・焦燥、うつ状態、幻覚・妄想、徘徊、興奮・暴力、不潔行為」のような心理・行動症状が見られる認知症を引き起こすこと。
つまり、症状が見られるようになるまでに、既にアルツハイマー病は進行していると考えられます。
これを、ブレデセン氏の研究成果に照らし合わせると、「炎症・栄養不足・毒素という3つの脅威に対して、脳が防御反応を起こさなければならない状態のとき、既にアルツハイマー病の入口にいるということであり、認知症の症状が見られる頃には、脳を守るためにつくられたはずのアミロイドβが脳神経を破壊するようになっている」と言い換えることができるわけです。
脳の防御反応としてのアミロイドβが、脳神経を破壊するようになる原因について、ブレデセン氏は36の要因が特定されたとしています。その36の要因は、大別すれば次のようなものに関連するものです。
1) ApoE4という遺伝子の存在
2) 炎症(免疫システムの過剰反応)
3) 栄養状態・栄養素の不足
4) 毒素にさらされること、金属の影響
5) 睡眠の不足
6) 悪性微生物の体内繁殖 など
大別された要因についてよくよく見てみると、あることに気づくのではないでしょうか? それは、「遺伝子に関わる要因を除けば、いわゆる現代型の生活が、アルツハイマー病を発症する要因になっているのではないか?」ということです。
つまり、免疫システムが過剰反応するような運動不足や食生活の問題による必要栄養素の摂取不足、働く環境や住環境などでの化学物質との接触やカビ類などの多さ、睡眠時無呼吸症候群なども含む睡眠の質と量、ストレスの多い生活などが、36の要因との関連性が高いということです。
また、36の要因が考えられるということは、36の要因が複雑に絡み合って、アルツハイマー病になるということ。つまり、36の内の1つの要因だけでアルツハイマー病を発症するわけではなく、36の要因のうちのいくつか、あるいはすべてが絡み合って発症することになるわけです。
ブレデセン氏は36の要因との関係から、アルツハイマー病には3つのタイプに分類できるとしています。
炎症反応そのものは、異物の侵入に対する免疫システムの反応の一部でもあり、正常に働いている分には、生命の危険から身を守ることになります。つまり、脳が何らかの脅威にさらされた場合、炎症反応を起こすことによって脳を守ろうとするわけですが、それが過剰になった場合に、アルツハイマー病になると考えられるということです。
このタイプは、ApoE4遺伝子を保有する場合に多いとされています。実はApoE4という遺伝子は、炎症反応を亢進する遺伝子とされています。脳が炎症反応を起こし始めたときに、油を注ぐような役割を果たすために、アルツハイマー病を発症しやすいということです。
なお、このタイプの場合、その症状は新しい情報を記憶できなくなることから始まるとされています。
栄養が欠乏するタイプは、萎縮性とも表現されるようです。このタイプでは、脳の認知機能を維持するための栄養素が不足した結果起きるものとされています。
このタイプの場合、炎症性と同様新しい情報を記憶できなくなることから始まるとされていますが、その症状が見られるようになるのは炎症性よりも10年ほど遅く、ApoE4遺伝子を持たない場合は70~80代とされています(ただし、アメリカの場合のデータであり、日本でのデータはまだないようです)。
中毒性のタイプは毒物性とも表現されていることからもわかるとおり、脳が汚染されることにより症状が見られるようになるタイプです。このタイプの場合、40代後半から60代前半で、大きなストレスがきっかけとなって、会話や整理などの認知的な困難から始まるとされています。
またこのタイプの場合、脳神経の破壊が爆発的に起こるため、最近の記憶だけでなく、古い記憶も失うとされています。他にも大抵の場合、簡単な計算、発話や文字を読むこと・書くことにも大きな困難が見られるようです。
炎症性のアルツハイマー病と栄養欠乏性のアルツハイマー病とは、同時に発症することがあるとされています。このタイプは糖毒性と表現されるようです。
参考:
アルツハイマー病 真実と終焉、デール・ブレデセン、ソシム株式会社
3. ReCODE(リコード)法の基本
「図-これまでのアルツハイマー病の治療とReCODE法との違い」
既に見てきたように、ブレデセン氏の研究によれば、アルツハイマー病の原因として36の要因が特定されたとされているわけですが、36もの要因があるとすれば、アルツハイマー型認知症の症状改善には、何かひとつの要因だけに対処すればよいわけではないことが想像されます。
実際、ブレデセン氏が提唱するアルツハイマー病の治療法である「ReCODE法」は、一つの要因を想定したアプローチではなく、36の要因に対する統合的なアプローチによる治療法です。
これまでの認知症への対処は1種類の治療薬によるアプローチが中心ですが、ブレデセン氏の研究によれば、その1種類の治療薬では最大でも4つの要因にしか働きかけないことがわかっているとのこと。
つまり、その治療薬だけでアルツハイマー型認知症の治療を行うことには限界があるのではないかと考えられるということです。
このようなメカニズムでアルツハイマー病とそれに伴う認知症状があらわれることがわかったとしても、その治療法がなければ意味がありませんが、ブレデセン氏は、このメカニズムに対応したアルツハイマー病の治療法として、ReCODE法という治療法を提唱しています。
ReCODE法のコンセプトは、根本的な課題に対処するというものであるため、次のようなステップで治療をしていくことになります。
すでに見てきたとおり、アルツハイマー病には少なくとも36の要因があるとされていますが、このすべてで異常があるわけではありません。実際、認知機能の低下の症状が見られる場合、ほとんどの場合、血液化学検査で測定できる10~25項目で最適な数値状態にないことがわかっている一方で、症状がない場合は、3~5項目に過ぎないとのこと。
つまり、詳細な検査によって、どの数値に問題があるのか、つまり、36の要因のうち、どの要因によってアルツハイマー病となっているのかを特定することが、この治療法の第一歩となるのです。
なお、異常特定にあたっての精密な検査は、日本では以下の専門機関で受診が可能である他、検査項目の多くは内科、総合内科で検査が可能。ただし遺伝子、認知能力、脳容積、体内微生物の病原体の有無は、それぞれの専門医での検査が必要なようです。
お茶の水健康長寿クリニック
https://ohlclinic.jp/
精密な検査により、最適な数値状態にない項目が判明すると、その最適化に向けた個別のプログラムを策定し、実際の治療を行うことになります。ただし、治療の中心となるのは、「食事・運動・睡眠とストレスの軽減」で、服薬は主に他疾患の治療を目的とするものが中心になる他、最終手段の位置づけとなっています。
1) 他疾患の治療
たとえば体内に本来体内にはないはずの病原菌やカビが存在するような場合や炎症が認められるような場合などは、アルツハイマー病以前にその治療が必要になるということです。
2) 生活改善
アルツハイマー病の原因が現代型の生活と言い換えられるほどであること、また、ReCODE法のコンセプトが「根本原因へのアプローチ」であることから、生活の改善がその治療の中心になることは間違いありません。くわしくは別の機会に譲りますが、ここでは主だったところのみを抜粋します。
・食生活:
食生活においては、低炭水化物の野菜中心の食事と、夕食後翌朝食まで12時間、朝食後翌昼食まで3時間空けることなどがそのポイントとされています。
なお、野菜中心とはいえ、肉・魚を食べてはいけないというわけではなく、野菜がメイン、肉・魚はサイド、というように、その役割を変えることが中心。ただ、その食品の性質によって、摂取すべきものと避けるべきものとがあるとされています。
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・運動:
1日45~60分程度のウォーキングやウェートトレーニングなどを組み合わせた運動が必要とされています。
・睡眠:
1日8時間近い睡眠を、睡眠薬の摂取なしに目指すことが大切とされています。そのためには、睡眠環境を整えることが重要になると言えるでしょう。なお、運動も、良質な睡眠を促すひとつの方法ととらえることもできます。その他にもストレスの軽減、脳トレーニングの実施などが、生活改善の方法と言えるでしょう。
3) サプリメント利用
どんなに食生活を改善しようとしても、必要栄養素が十分摂取できているとは言えない場合があります。そこで、不足分に関してはサプリメントで補うことが必要とされています。
ReCODE法は、アルツハイマー病の早期であれば9割の改善効果が認められているとされています。「認知症の症状が改善した」という具体的な事例は、ブレデセン氏の著書である「アルツハイマー病 真実と終焉」でも示されています。
しかし、ここで言う早期とは、認知症の症状が認められる早い段階という意味ではなく、アルツハイマー病という疾患の早期であるという点には注意が必要です。その意味でも、検査を通じたアルツハイマー病の早期発見と、認知症の症状発生の予防が重要であると言えるわけです。
また、ReCODE法による治療効果が見られるようになるまでには、6カ月程度かかる可能性があるとしています。つまり、一度やればそれで効果が見られるというような治療法ではない、という点を押さえておく必要があるということです。
参考:
アルツハイマー病 真実と終焉、デール・ブレデセン、ソシム株式会社
最後に
アルツハイマー病は認知症の原因の半数以上を占める疾患です。これまでアルツハイマー病は、「アミロイドβが引き起こすもの」という仮説が有力視されてきました。
これに対し、ReCODE法という治療法を提唱する医師の研究成果によれば、実は現代型の生活がアミロイドβを過剰にさせており、アミロイドβを過剰にさせる要因が少なくとも36あるという説が示されています。
この説は、「アミロイドβが過剰になるのは、原因ではなく結果である」とする点で、また、「アミロイドβの除去をターゲットにしたアプローチでは治療効果が得られない」としている点でこの説は画期的と言えます。
この説に従えば、少なくとも36の要因に対処することになるため、単一の治療アプローチではなく、統合的な治療アプローチが必要になるのですが、そのアプローチは、治療薬ベースではなく、生活改善が基本となっています。
実際そのアプローチにより、アルツハイマー病の早期であれば、その9割に治療効果が認められているとのこと。
あくまでアルツハイマー病という疾患の早期であって、早期の認知症の症状が見られる段階ではないことに注意が必要ではあるものの、認知症の症状が見られる段階でも効果が確認されているとのこと。
アルツハイマー型認知症の予防に、あるいは、アルツハイマー型認知症を発症している場合でも、検討したい治療法と言えるのではないでしょうか。
なお、この記事に関連するおススメのサイト及び資料は下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
長崎大学 ゲノム創薬学研究室
研究概要
http://www.ph.nagasaki-u.ac.jp/lab/biotech/research.html
アルツハイマー病 真実と終焉、デール・ブレデセン、ソシム株式会社
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