視覚障害の方と美術を楽しむ 対話型の美術鑑賞の可能性

身体障害

はじめに
 視覚障害のある方は、「視覚を使って見る」という点で困難があるわけですが、では、視覚障害があると美術作品を楽しむことはできるのでしょうか? ここでは、視覚に障害がある方が美術を楽しむ方法のうち、特に「対話型の美術鑑賞」という手法に着目しながら、美術鑑賞の大きな可能性について考えていきます。

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1. 対話型の美術鑑賞
(1) 美術鑑賞は誰のもの?

① そもそも美術鑑賞とは?

 美術は時代精神の表れとも言われています。つまり、歴史が人間の営みによって築かれたものと考えれば、美術は広い意味で人間の個人としての、あるいは集団としての行動や、その背後にある思想や考えなどを反映しているものであり、だから歴史資料として扱うことができるということです。

よって美術は「その作品が作られた時代を知るために見る」という見方ができるわけです。

とはいえ「美術は本来自由なものだ」とする意見もあります。難しく考えず、自分の見方で自由に鑑賞するのもまた美術鑑賞の在り方です。このように美術鑑賞にも複数のとらえ方、考え方があるわけですが、後者の考え方に単純に沿うだけでも、視覚障害がある方にとっても美術は自分の見方で鑑賞できるはずだと言えることになるはずです。

② 視覚に障害があっても美術は楽しめる?

先進国において美術館が視覚障害のある方へも開かれ、実際に視覚障害のある方が美術館を訪れ、美術鑑賞を行う機会が増えたのは1970年代のことで、まず欧米にて始まり、その後日本でも始まったとのこと。この背後には視覚障害のある方の美術鑑賞が重要であるとする、次の2つの考え方があったとされています。

1) 文化的な機会の平等
一つは福祉の分野における文化的な機会の平等という観点です。特に日本では1980年代から市民団体の活動が活発化し、視覚障害のある方と美術館とを繋げる試みが広がり始めました。

2) 視覚障害のある方にとっての教育的効果
二つ目の視点は、視覚障害のある方にとっての教育的効果につなげるというものです。これは近代以降「見る」ことに特化していた美術館が、1980年代後半から「聴く」「体験する」などの活動を取り入れることで幅広い来館者を受け入れられる体制を整えてきたという、美術館側の動きとも連動するものになっています。

つまり、その幅広い来館者に視覚障害のある方も含まれたということです。このような動きをひと言で言えば、「視覚に障害があっても美術は楽しめるはずで、実際その具体的な方法を美術館側が検討し、提供し始めた」ということでしょう。

(2) 視覚障害のある方が美術を楽しむための3つの方法

「図-視覚障害のある方の美術鑑賞法」

では視覚障害のある方が美術を楽しむ方法とは、一体どのような方法なのでしょうか。少なくともこれまでに、視覚障害のある方が美術を鑑賞する方法として、以下の大きく3つの方法が考えられるようになっています。

① 彫刻作品などの立体作品に「触る」方法
② 解説員によるものや、メディアを使うものなどで、作品描写を「聞く」方法
③ 対話による方法

(3) 対話型の美術鑑賞とは?

「図-対話型の美術鑑賞とは?」・・・そのポイント

対話による方法、つまり、対話型の美術鑑賞とは、視覚に障害のある方とない方とが一つのグループになり、同じ作品について自由におしゃべりをしながら鑑賞するという方法です。以下では、その方法について、視覚障害の当事者の方が作成されたガイドラインを参考にしながら、その具体的な方法を見ていくことにします。

① 基本的なスタンスは「いっしょに楽しむ」

 対話型の美術鑑賞においては、その基本的なスタンスとして、ガイドする側・される側という関係ではなく、「作品を一緒に楽しむこと」が重要とされています。この点については後ほど、どういう意味が込められているのかを見ていきますが、まずはこれが基本だということを押さえてください。

② いっしょに歩く

同じ作品をグループで鑑賞するということは、「いっしょに歩く」ことになります。よって、初めての方の場合には自己紹介をし、視覚障害のある方のガイドの方法を確認することが必要となります。

これは「人によって歩きやすい方法が異なるから」とされていますが、要するに「どうしたらスムーズにいっしょに歩くことができるか?」ということを考えようということ。そう考えれば、視覚障害のある方がどちらの手に杖を持っているかが、大きなヒントになる場合もあるでしょう。

杖を持つ手と反対側にいた方が動きがスムーズになると考えられるからです。ただし、「その方の望む形であること」が優先されるわけですから、「聞いて確認する」ことが大切であることは言うまでもないことでしょう。

このように「いっしょに歩く」ということを少し立ち止まって考えてみると、押したり引っ張ったり、思いこみで接すると、不快感や警戒心を抱かせやすいということも理解できるのではないでしょうか。また、いっしょに歩く際に方向を示す場合の方法の一つは、時計の針の方向で示すことだと言います。

たとえば、まっすぐならば「12時の方向」、右方向であれば「3時の方向」といった方法です。ただしこちらも、ご本人がどう説明されるのがわかりやすいのか、聞いてみることでしょう。右、左、前、後といった大まかな表現でも、それで事が足りるのであればそれでよいと考えられるからです。

なお一つのグループは、説明する人が多すぎるとイメージがバラバラになってしまうとのこと。よってマン・ツー・マンが基本。慣れた人同士の複数人のグループで鑑賞する場合でも、視覚障害がある方一人に対して説明する方が3名くらいまでのグループの方が良いそうです。

③ 作品のピックアップ

作品のピックアップは、「触れられるかどうか」を基準にする必要はないとのこと。「特徴的なもの」・「印象的なもの」・「自分の好きな(あるいは、感動した)もの」・「案内しやすいもの」など、自分の力量に合わせて、視覚障害のある方と相談しながら会場内を進むことが大切とされています。

④ 作品を説明する

作品の説明をするときには、いろいろ試す中でお互いにリラックスできる形を作っていくのが良いとのこと。最初から「これが最適」という方法を考えてしまうと、「その方にとっての最適」とはならない可能性があることからも、決めつけないことが重要だということでしょう。

それでも「どう説明すればよいのか」、なかなか思いつかない場合もあるでしょう。そのような時には次のような点を意識すると良いとされています。

1) 作品を二人で語り合う
絵や写真といった平面の作品の場合、言葉による案内が主になります。このとき、見ているものが何か、感じたことは何か、連想したことは何かといったことを次々言葉にしていくことがポイントとのこと。言葉からイメージを膨らませて作品を想像していかれるからだそうです。

このとき、一方通行にならないことも押さえておきたいポイント。案内した作品について、ある程度の情報を伝えたところで、どのようなイメージを持ったか、どのような点についてより知りたいかといったことなど、問いかけることも大切になるのかもしれません。

2) 会話の流れは全体から細部
 視覚障害のある方が作品へのイメージを作りやすくするためには、全体から部分へ、また、話題が転々としないことが重要とのこと。作品の印象・描かれているもの・構図・色彩など、大きな話題ごとに話をすすめるとイメージがしやすいということでしょう。

3) 考え込んで言葉に詰まるより、どんどん話す
説明する方が考え込んで言葉に詰まると、取り残されたような寂しい感情を抱くとのこと。何より重要なことは、「会話をしている」ということだということは、忘れてはならないことでしょう

⑤ 触れられる作品の場合

直接触れられる作品について、両手で触れるようにすることが大切とのこと。ただ、「視覚障害のある方は触れば全てわかる」という思い込みには気をつける必要があるでしょう。実際、人によって「触ることによって得られるもの、その力」は異なるとのこと。やはり、想像力が高まるような会話が重要だということです。

平面の作品においても、そのサイズを知るために作品の縁(あるいは額)をなぞることは、有効な方法でもあるとのこと。触れることで、実感が持ちやすいそうです。

参考:
エイブル・アート・ジャパン
視覚障害のある人と共に楽しく鑑賞するには
http://www.ableart.org/org/mar/skill.html

立命館大学生存学研究センター
視覚障がい者の「美術鑑賞」を考える
https://www.ritsumei-arsvi.org/essay/essay-670/

ユニバーサルマナーアワード運営事業局
パナソニック株式会社 障害者向け美術鑑賞ガイドの実証実験及び普及への取組み
http://award.universal-manners.jp/company/panasonic

産経新聞
「視覚に頼らず鑑賞」美術館、案内役は視覚障害者 広がる対話型
http://www.sankei.com/life/news/180123/lif1801230016-n1.html

光村図書
美術鑑賞を楽しむ6つの手がかり
http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/c_bijutsu/kansho/index.html

2. 対話型の美術鑑賞が教えるもの

「図-対話型の美術鑑賞から得られる重要な示唆」

(1) 美術鑑賞の新たな側面

美術における「鑑賞」という体験は、「見る」行為が前提として捉えられ、語られてきたのは間違いないでしょう。一方で、「視覚障害のある方の視点で美術を鑑賞するにはどうしたらよいのか?」を考えていくと、視覚ではなく、コミュニケーションにより、それを共有できるということがわかります。

(2) 視覚化するということの魅力と限界

 一方で、「視覚化するということの力」も実感できることと言えるかもしれません。それは、「視覚を通じて見る」ということで、短い時間で同じ情報を共有しやすいという面です。

しかし、それは同時に「視覚化の課題」に気づくきっかけにもなるのではないでしょうか? つまり、同じものを見たからといって、誰もが同じように感じるわけでも、情報を受け取るわけではないということです。実際に作品を説明すると、その説明は人によって大きく異なる可能性があります。

つまり、「見て読み取ったこと」には、人によって差異が生じているということ。逆に言えば、「見える形になっているが故の課題が発生する」ということなのかもしれません。

(3) 「見える方」にとっての学び

 対話型の美術鑑賞は、このように多くの気づきを「見える方」にも与える方法だと言えるでしょう。これをより発展させれば、「その人なりの見方とはどういうことなのか?」を、実感できる場にもなるはずです。このことは、対話型の美術鑑賞が、一方的に視覚に障害のある方を支援する美術の鑑賞の仕方でないことを示しているのではないでしょうか? 

また、だからこそ、「ガイドする側・される側」という関係ではなく、「いっしょに楽しむこと」がスタンスとして重要になるのだと考えられるわけです。

(4) 視覚障害のある方とともに美術鑑賞を楽しむには

 視覚障害のある方と美術を楽しむことを積極的に行っている美術館などには、次のようなものがあります。参考になさってください。

一般財団法人たんぽぽの家 HELP ON HELP
視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ
http://helponhelp.jp/視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ/

東京都写真美術館
ワークショップ/体験型プログラム
https://www.topmuseum.jp/contents/workshop/details-2887.html
視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ
http://topmuseum.jp/contents/workshop/details-3260.html

ギャラリーTOM
https://gallerytom.co.jp/index.html

一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ
私たちの活動と成果
http://www.dialogue-japan.org/activitylist/
対話の普及啓蒙 Dialog in the dark
http://www.dialogue-japan.org/activitylist/activity_01/#Dialog_in_the_dark
 

最後に

 視覚に障害のある方の美術鑑賞法の一つに、対話型の美術鑑賞があります。これは、視覚に障害のある方とない方とが一つのグループになり、同じ作品について自由におしゃべりをしながら鑑賞するという方法で、作品を目で見て共有するのではなく、言葉を使って共有する方法と言えるでしょう。

この鑑賞方法からわかることは、絵や写真といった平面的な作品でも、視覚に障害がある方が楽しめるということ。また、それを説明する「見える方」にとっても、新しい美術鑑賞の効果を得られるという効果があることがわかります。

つまり、見える方が説明することを通じて、視覚障害のある方からさまざまな学びができるということです。このようにとらえられると、「これはこういうものだ」とする考えをなくしていける可能性すら見えてくることに気づきます。

だからこそ、何らかの対策を考えていく際には当事者の視点というものが重要なことなのだと自信を持って言うことにつなげていけるのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:

エイブル・アート・ジャパン
視覚障害のある人と共に楽しく鑑賞するには
http://www.ableart.org/org/mar/skill.html

一般財団法人たんぽぽの家 HELP ON HELP
視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ http://helponhelp.jp/視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ/

東京都写真美術館
ワークショップ/体験型プログラム
https://www.topmuseum.jp/contents/workshop/details-2887.html
視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ 
http://topmuseum.jp/contents/workshop/details-3260.html

ギャラリーTOM
https://gallerytom.co.jp/index.html

立命館大学生存学研究センター
視覚障がい者の「美術鑑賞」を考える https://www.ritsumei-arsvi.org/essay/essay-670/

ユニバーサルマナーアワード運営事業局
パナソニック株式会社 障害者向け美術鑑賞ガイドの実証実験及び普及への取組み http://award.universal-manners.jp/company/panasonic

産経新聞
「視覚に頼らず鑑賞」美術館、案内役は視覚障害者 広がる対話型
http://www.sankei.com/life/news/180123/lif1801230016-n1.html

一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ
私たちの活動と成果 http://www.dialogue-japan.org/activitylist/
対話の普及啓蒙 Dialog in the dark http://www.dialogue-japan.org/activitylist/activity_01/#Dialog_in_the_dark

光村図書
美術鑑賞を楽しむ6つの手がかり
http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/c_bijutsu/kansho/index.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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