若年性アルツハイマー病の早期発見のためのチェック方法
はじめに
若年性認知症や、その症状の原因の半数にも及ぶと考えられる若年性アルツハイマー病に対する社会の関心が高まっています。「もしかしたら」と思われるお若い方も少なくないと推測されるものの、精密な検査を受けることにハードルの高さを感じられている方もいらっしゃると思われます。ここでは、若年性アルツハイマー病の初期の段階ではどういった症状が見られるのかといったことを踏まえながら、早期発見のために、その簡易チェック方法やその目的などを見ていきます。
1. 若年性アルツハイマー病とは?
若年性アルツハイマー病とは、65歳未満で発症するアルツハイマー病のことです。アルツハイマー病は記憶、思考、行動に問題を起こす脳の病気で、要は認知症の症状を引き起こしていくことになります。アルツハイマー病の進行に伴い見られる症状は、大きくは中核症状と行動・心理症状の2つがあります。
自分が体験した過去の出来事に関する記憶が抜け落ちてしまう障害のことです。最近のことから忘れていくという特徴があります。
日常生活の些細なことでも判断することができなくなる障害です。たとえば料理をする際、調味料をどれくらい入れたら良いかや、どんな食材を使うかなどの判断ができないといったものです。さらに症状が進行すると、手順がわからなくなって料理すること自体ができなくなります。
ある目標に向かって、計画を立てて順序よく物事をおこなうことができなくなる障害です。具体的には計画的に買い物ができなくなったり、家電製品の使い方がわからなくなったりするというような特徴があります。
時間・場所・人物や周囲の状況を正しく認識できなくなる障害です。たとえば、今日の日付がわからなくなる、時計が読めなくなるといったものです。
行動・心理症状は、感情的な変化や精神障害に見られるような言動や行動といった症状のことを言いますが、人によって個性が現れやすい症状とも言われる症状です。その症状には次のようなものがあるとされています。
① 妄想:物を盗まれたなど、事実でないことを思い込む、など
② 幻覚:見えないものが見える、聞こえないものが聞こえる、など
③ せん妄:落ち着きなく家の中をうろうろする、独り言をつぶやく、など
④ 徘徊:外に出て行き戻れなくなる、自分がどこにいるのかわからなくなる、など
⑤ 抑うつ:気分の落ち込み、無気力になる、など
⑥ 人格変化:性格が変わる、たとえば穏やかだった人が短気になる、など
⑦ 暴力行為:自分の気持ちをうまく伝えられない、感情をコントロールできずに暴力をふるう、など
⑧ 不潔行為:入力を嫌がる・風呂に入らない、排泄物をもてあそぶ、など
「図-アルツハイマー病の初期段階」
アルツハイマー病は、時を経るに従い認知症状に変化があらわれる、つまり進行型であるという点が非常に大きな問題でもあります。アルツハイマー病の初期は、次に見るように進行していくとされているのですが、特にごく初期の段階1、段階2と呼ばれる段階では、アルツハイマー病を発見することは非常に難しいとされているのです。
というのも、以下を確認いただくとおわかりのとおり、アルツハイマー病の進行に伴い見られる認知機能の問題に関する症状は、この段階では見られないか、あるいは気づきづらいと考えられるからです。
アルツハイマー病による脳の破損が始まっている段階ではあるものの、記憶能力の低下等は経験していない段階です。このタイミングでは、精密な検査をしないとアルツハイマー病を発見できないとされています。
慣れていた言葉や名前、日常的に使用するカギやメガネなどの物の置き場所を忘れるといった症状が見られる段階です。ただしこのような問題はご本人しか気づいていない場合がほとんど。健康診断等では明らかになることもないとされています。
ご家族やご友人、同僚の方々などが、「なんだかおかしい」と変化に気づき始める段階です。よってこの段階からアルツハイマー病と診断されるケースが出始めるのが一般的とされています。他にも、記憶や集中力に関する問題が認知症診断の測定などで明らかになる場合がある他、詳細な問診を経て発覚する場合もあります。
【関連記事】
若年性認知症とは?
https://jlsa-net.jp/kn/zyakunen-ninchi/
参考:
厚労省 ホームページ
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
Alzheimer’s Association
アルツハイマー病とは
https://www.alz.org/asian/about/what_is_alzheimers.asp?nL=JA&dL=JA
2. 若年性アルツハイマー病の検査方法
「図-アルツハイマー病の実際の診断」
では、アルツハイマー病かどうかを、早期の段階で診断する方法はあるのでしょうか?
残念ながら、アルツハイマー病かどうかを診断するための簡易なテストはなく、実際の診断には、家族の病歴、神経学的検査、記憶と思考を評価するための認知テスト、症状に関して他に考えられる原因を除外するための血液検査、脳画像診断が必要とされています。つまり、さまざまな検査を踏まえた医学的な評価が必要だということです。
とはいえ、いきなりアルツハイマー病であるかの診断を受けるのは、ハードルが高い面もあるでしょう。そのような場合に利用できるものとして、長谷川式簡易知能評価スケールという簡便な質問表があります。
この検査で20点以下の場合には、認知症専門医による鑑別診断(認知症の初期と他の精神神経疾患との鑑別、認知症の原因疾患の鑑別を行う)が必要とされています。
つまり、アルツハイマー病のごく初期段階の可能性までは判別できないと考えられるものの、少なくともその影響としての認知機能の低下については気づくことができると考えられるわけです。長谷川式簡易知能評価スケールの質問項目とその評価方法は次のとおりです。
認知症を扱う健康番組やドラマ等でご存知の方も多いかもしれません。
「図-認知機能に関する簡易診断方法のポイント」
いかがでしたか? 以外に難しい質問もあったかもしれませんし、間違えた質問もあったかもしれません。ただ、たとえば計算にあたるものや、ものを覚えているといったようなものは、トレーニングをくり返すうちに正解できるようになる場合もあると考えられます。
この場合は認知機能に大きな問題がないとも考えられるからです。一方で症状が進行した場合、「その問題が出ることがわかっていて、何度も見ているのに、それを覚えていられない」というようになっていくのです。
なお、各アルツハイマー病を含む認知症の簡易診断の視点は、「認知機能」の評価です。長谷川式簡易知能評価スケール以外にも評価ツールはあるようですが、いずれも、以下のような機能の評価をする質問が出されることになります。
記憶には長期記憶と短期記憶があります。認知機能に関する簡易診断で質問されるものの多くは短期記憶に関わる質問です。
注意は意外に複雑な概念で、大きく全般性注意と方向性注意とに分けられ、さらに、全般性注意は「選択」「持続」「分配」「転換」の各要素に分けられるとされています。方向性注意とは、たとえば右側だけ麻痺がある、見えないといったように、特定方向への「注意ができるかできないか」といったものです。
一方、認知機能の簡易診断での視点は、全般性注意に関するものと言えます。
選択とは、複数の刺激に対して、ある特定の刺激だけを抽出して対応できるかということ。持続とは、注意を払うことをどの程度継続できるかということ。分配とは、複数のことを同時に行えるかということで、転換とは複数のことを交互に行えるかということです。
つまり、質問に答えられるかもさることながら、ある程度の長さの診断テストに取り組めるかということ自体が、集中力の持続というある意味では評価の材料になり得ると考えられるということです。
感覚器官を通じて、受け取った刺激を見分け、その刺激の種類を意味づけすることを知覚と言います。難しい言い方をしていますが、要は五感で感じたことに対して、快・不快といった意味を与えることを知覚と言い、たとえば、熱いものを熱いと感じられるといったことを指しています。
逆に言えば、認知機能が低下した場合、本来は熱いものが熱いと感じられないといったことが起こると考えられるのですが、認知機能の簡易診断ではこれに該当するような質問は見られないようです。
質問されている内容を理解できるかといったことの他、言葉のグループ化のような質問がされるなどの形で、認知機能の診断では質問されるケースが多いようです。
たとえば、立方体の箱を積み上げた図を見せ、いくつの箱が積み上がっているかを問う問題であったり、展開図を問う問題であったりが、この空間把握能力をはかる質問として認知機能の診断では提示される場合があるようです。
論理は物事を考えていく筋道や組み立てのことですが、この最も単純な質問は簡単な計算問題です。計算は数字のルールを使って解くもので、論理の最も単純なものと言えるからです。
認知機能の側面からの診断以外にも、日常生活上できること、できないことから簡易的に診断するというアプローチもあります。以下は、東京都が作成したその質問の概要です。
質問1:財布や鍵など、物を置いた場所がわからなくなることがあるか
質問2:5分前に聞いた話を思い出せないことがあるか
質問3:周囲の方から「いつも同じことを聞く」といった指摘を受けることがあるか
質問4:今日が何月何日かわからないときがあるか
質問5:言おうとしている言葉がすぐに出てこないことがあるか
質問6:預貯金の出し入れや、家賃・公共料金の支払いなどが一人でできるか
質問7:一人で買い物に行けるか
質問8:バスや電車、自家用車などを使って一人で外出できるか
質問9:自分で掃除機などを使って掃除ができるか
質問10:電話番号を調べて電話をかけることができるか
参考:
東京都福祉保健局
若年性認知症ハンドブック
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/jakunen_handbook/pdf/jakunen_handbook.pdf
Alzheimer’s Association
日本におけるアルツハイマー病と認知症
https://www.alz.org/jp/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC-%E6%97%A5%E6%9C%AC.asp
3. もしかしたら? と思ったら
これまでに見てきた簡易認知機能検査で20点以下の場合、あるいは、日常生活上での状況に関する簡易診断で複数あてはまるものがあるというような場合、アルツハイマー病の可能性を否定できません。
ただ、仮にアルツハイマー病だったとしても、適切な治療などの対応を行えば、回復させたり、認知症の発症を遅らせたりすることができる可能性が高まります。
「もしかしたら」と思うようなことがあったら、なるべく早く専門医に相談することをおすすめします。
「図-アルツハイマー病の予後」
アルツハイマー病は、精密な検査と検査結果に基づく食生活を中心とした生活習慣の改善で治せるとする研究結果も最近では見られるようになっている他、これまでもその進行は遅らせられるとされてきました。そう考えるとアルツハイマー病の予後としては、少なくとも次の3つのシナリオを描くことができると言えます。
ある段階でアルツハイマー病による認知障害が見られたとしても、その後認知機能を衰えさせず維持できれば、ある年齢にまで達する段階では、正常な範囲で認知機能が衰えた方と同程度になる可能性があるというシナリオです。
認知機能が、その年齢の方々と比較すると劣ってはいても、その後の進行は正常な範囲で認知機能が衰える方と同程度の速さにできるというシナリオです。
もっとも問題になるのは、アルツハイマー病の発症以降、認知機能の衰えが、正常な範囲にある方よりも速いスピードで進行することです。
アルツハイマー病になった時点で、既に認知機能は正常の方よりも衰えている上、その後も衰えていくのが速いというシナリオですので、このシナリオを避けるためにも、なるべく早いタイミングで専門医の診察を受け、治療にあたることが大切になると言えるのです。
【関連記事】
若年性アルツハイマー病の初期症状と早期発見・早期治療の重要性
https://jlsa-net.jp/kn/zyalzheimer-syozyo/
参考:
厚労省
若年性認知症ハンドブック
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/handbook.pdf
東京都福祉保健局
若年性認知症ハンドブック
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/jakunen_handbook/pdf/jakunen_handbook.pdf
国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf
最後に
若年性アルツハイマー病に対する社会の関心は高まりつつあります。実際に「もしかしたら」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。早期発見と適切な治療が重要であることは知りつつも、精密な検査を受けることをためらわれている方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合には、認知機能の簡易検査などを利用するのも一つの方法と言えるでしょう。ただし、この検査はあくまで簡易的なものであり、また、アルツハイマー病の段階1を発見できるようなものではないことは、しっかりと押さえておきたい点であるとも言えます。
なお、この記事に関連するサイト及び資料は下記の通りです。ご参考までにご確認ください。
参考:
厚労省 ホームページ
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
若年性認知症ハンドブック
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/handbook.pdf
東京都福祉保健局
若年性認知症ハンドブック
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/manual_text/jakunen_handbook/pdf/jakunen_handbook.pdf
国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf
Alzheimer’s Association
アルツハイマー病とは
https://www.alz.org/asian/about/what_is_alzheimers.asp?nL=JA&dL=JA
日本におけるアルツハイマー病と認知症
https://www.alz.org/jp/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87-%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC-%E6%97%A5%E6%9C%AC.asp
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