精神障害のある方を支える福祉サービスと経済的支援
はじめに
精神障害のある方を支える福祉サービスは、平成25年に施行された障害者総合支援法に基づき体系化されました。精神障害を含む障害のある方を支える福祉サービスは、対象の拡大・サービスの拡充とともに、体系化が進められてきました。昨今は、社会認知の拡大などから充実が図られつつあります。また、合わせてサービス利用対象者か否かを判定する基準の見直しも行われています。
ここでは、障害福祉サービスの全体像、利用までの流れ、核となる「障害福祉サービス」の内容と経済的な面での自己負担などについてまとめました。
1. 障害者総合支援法と支援区分
精神障害を含む障害のある方を支える福祉サービスを定義する法律が、障害者総合支援法です。
「障害者総合支援法」は、それまで障害のある方を支える法律であった「障害者自立支援法」を改正・発展させた法律です。
「障害者自立支援法」が目指した「①障害者の福祉サービスの「一元化」、②障害のある方がもっと「働ける社会」になること、③地域の限られた社会資源を活用できるよう「規制緩和」すること、④公平なサービス利用のための「手続きや基準の透明化・明確化」、⑤福祉サービス等の費用を国民全員で負担し支え合うしくみ」の5つのポイントを生かしつつ、目的の改正と理念の明確化を行い、障害者の範囲を拡大、サービスの必要性を図る基準(=「障害支援区分」)の導入を行い、名称変更された法律です
「障害支援区分」は、「障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合を総合的に示すもの」と定義されています。
障害者支援区分は、非該当と区分1~6までの7つの区分が設定されており、数字が大きくなるほど(6に近づくほど)支援の必要性が高い(=支援範囲が広い)ということになります。受けたいサービスが受けられるか、は、この区分により判断されます。
【関連記事】
精神障害のある方を支える法律 ~障害者総合支援法と支援区分
https://jlsa-net.jp/sei/syougaisyasougoushienhou/
参考
厚労省ホームページ
障害者自立支援法の概要
http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0214-1a.html
障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html
2. 精神障害のある方を支える福祉サービスの全体像
障害者総合支援法に基づく福祉サービスは、以下の図のように体系化されています。
「図-障害者総合支援法に基づく福祉サービス体系」
精神障害を含む障害のある方ご自身の決定を尊重、利用される方本位でのサービス提供を基本としています。
利用者とサービスを提供する事業者は対等な関係とされており、障害のある方が自らサービスを選択、契約後にサービスを利用するしくみとなっています。自立支援給付の対象として、以下のサービスがあります。
1) 障害福祉サービス
・介護給付
・訓練給付
2) 自立支援医療
3) 相談支援事業
・計画相談支援給付
・地域相談支援給付
4) 補装具
精神障害を含む障害のある方などが、日常生活や社会生活を自立して営むことができるよう、最も身近な市町村を中心として実施される事業のことです。地域生活支援事業は、次の2つの事業で構成されています。
1) 市町村事業
2) 都道府県事業
「図-福祉サービス利用までの流れ」
障害者総合福祉法に基づく福祉サービスを受けるまでのステップは上図のとおりです。まず障害支援区分の認定を受けてからサービスを受けるという順序になるという点がポイントです。
参考:
障害福祉情報サービスかながわ ホームページ
http://www.rakuraku.or.jp/shienhi/guide/about/005.html#a005
3. 各福祉サービスの内容詳細
各福祉サービスの詳細は、以下のようになっています。なお、利用できるサービスは障害支援区分で決まりますので、必ずしもすべてのサービスが受けられるわけではありません。
自宅で、入浴・排せつ・食事の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事の他、生活面での相談や助言をするなど、生活全般にわたる援助等を行うサービスです。
②
精神障害により行動上著しい困難があり、かつ、常に介護を必要とされる方に、自宅での入浴・排せつ・食事の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事の他、生活面での相談や助言をするとともに、外出時における移動支援などを総合的に行うサービスです。
常に介護を必要とされる方に、主に日中、障害者支援施設等で、入浴・排せつ・食事の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事の他、創作的活動又は生産活動の機会を提供するサービスです。
自宅で精神障害を含む障害のある方を介護する人が、病気の場合等の際に、短期間、夜間も含め施設等で、入浴・排せつ・食事の介護等を行うサービスです。
介護の必要性が非常に高い方に、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、生活介護、短期入所、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、共同生活援助を、包括的に行うものです。
施設に入所する方に、夜間や休日、入浴・排せつ・食事の介護等を行うサービスです。
自立した日常生活又は社会生活ができるよう、一定期間、入浴・排せつ・食事等に関する生活能力の向上のために必要な訓練を行うとともに、生活等に関する相談及び助言を行うサービスです。
居室その他の設備を利用することを通じて、家事等の日常生活能力を向上の支援と、生活等に関する相談及び助言などを行うサービスです。
一般企業等への就労を希望する方に、一定期間、生産活動・職場体験その他の活動の機会を提供、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うとともに、求職活動に関する支援、その適性に応じた職場の開拓、就職後における職場への定着のために必要な相談など、社会で活躍するために必要な支援を行うサービスです。
一般企業等での就労が困難な方に、雇用契約に基づいて、生産活動その他の活動の機会の提供の他、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、その他の必要な支援を行うサービスです。
一般企業等での就労が困難な方のうち、生産活動その他の活動の機会の提供の他、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練、その他の必要な支援を行うサービスです。
主に夜間や休日、共同生活を行う住居で、相談や入浴・排せつ・食事の介護などの日常生活上の援助を行うサービスです。
自立支援医療制度は、精神障害を含む障害のある方が、その障害を取り除いたり軽減したりするために必要な治療を受けることで発生する医療費について、自己負担額を軽減することを目的とした公費負担医療制度です。対象となるのは、通院による治療を続ける必要がある方です。
障害福祉サービス等を受けるためには、申請が必要です。「福祉サービス利用までの流れ」で見たように、障害支援区分が決定、支給が決定される前に、仮のサービス等利用計画を作成する必要があります。
また、支給決定後には、サービス事業者等との連絡調整等を行い、実際のサービス等利用計画の作成が必要になります。この支援を行うことを計画相談支援給付と言います。
計画相談支援給付は一時的なものではなく、支給決定されたサービス等の利用状況の検証(モニタリング)を行うこと、サービス事業者等との連絡調整など、継続的な支援を行うためのサービスとも言えます。
精神障害を含め障害がある方の地域生活への移行を進め、地域で安心して暮らすための相談支援サービスです。地域移行支援と地域定着支援があります。
厚労省ホームページ
障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html
4. 自己負担
どんなに受けたいサービスがあり、実際に支援が必要でも自己負担額があまりに多くなってしまってはサービスを受けられない、ということも考えられます。そこで、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの利用については、自己負担額が軽減されるよう配慮されています。
介護給付や職業給付といった障害福祉サービスの自己負担は、所得に応じて次の4区分で負担上限月額が設定されています。ひと月に利用したサービス量にかかわらず、それ以上の負担は生じません。
※低所得:3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象です
※一般1:収入が概ね600万円以下の世帯が対象です
※20歳以上で入所施設を利用されている方、グループホームを利用されている方で、市町村民税課税世帯の場合の区分は「一般2」となります
上記の収入を判断する世帯の範囲は次のとおりです
療養介護を利用する場合、医療費と食費の減免があり、これを医療型個別減免と言います。「療養介護を利用する方で、20歳以上の入所者の場合、低所得の方でも、少なくとも25,000円が手元に残ること」を大まかな基準に、利用者負担額が減免されます。
医療型個別減免では、福祉部分の自己負担相当額と医療費、食事療養費を合計して、上限額が設定されます。医療型個別減免の具体例は以下のとおりです。
「図-20歳以上施設入所者等の医療型個別減免例」
大きくは以下で取り上げる2つのケースが考えられます。共通しているのは、「利用される障害のある方が、費用の全額をサービス提供事業者にいったん支払い、その後申請を行うことで、保険者である市区町村から、その費用の9割分の現金の払い戻しを受けるしくみである」ということです。
このしくみの下で、経済的負担の軽減を図ろうとしています。
障害福祉サービスの負担額(介護保険も併せて利用している場合は、介護保険の負担額も含む。)の合算額が基準額を超える場合、高額障害福祉サービス等給付費が支給されます。
障害者総合支援法に基づくサービス、児童福祉法に基づく障害児通所支援、障害児入所支援のうちいずれか2つ以上のサービスを利用している場合は、利用者負担額の合算がそれぞれのいずれか高い額を超えた部分について、高額障害福祉サービス費等が支給されます。
食費等実費負担についても減免措置があります。減免措置の内容は、施設等への入所の場合と通所の場合とで異なります。
入所施設の食費・光熱水費の実費負担は、53,500円を上限に施設ごとに設定されていますが、低所得の方が食費・光熱水費の実費負担をしても、少なくとも25,000円が手元に残るよう、不足分について補足給付されます。補足給付の具体例は、以下のとおりです。
「図-20歳以上入所者の補足給付」
低所得の方、一般1の方の場合、食材料費のみの負担となり、実際にかかる実費のおおよそ3分の1が自己負担額となります。食材料費は施設により設定されていますが、22日利用の場合、概ね5,100円程度です。
グループホームを利用される方が負担する家賃については、1人当たり月額1万円を上限に補足給付されます。
以上(1)~(5)の負担軽減策をとっても、自己負担や食費等実費を負担することで生活保護の対象となる場合には、生活保護の対象とならない額まで自己負担の負担上限月額や食費等実費負担額が引き下げられます。
厚労省ホームページ
障害者の利用者負担
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/hutan1.html
最後に
精神障害を含む障害のある方を支える福祉サービスは、対象の拡大・サービスの拡充とともに、体系化が進められてきており、今後も特に社会認知の拡大などを中心に充実が図られつつあります。また、合わせてサービス利用対象者か否かを判定する基準の見直しも行われてきました。
そして、経済的な面で自己負担が過大とならないよう配慮がされるようになっています。
一方で、前身となるサービスや法律がある点、隣り合う児童向け福祉サービスや高齢者向け福祉サービスなどとのすみわけなど、わかりにくい部分もあるようです。実際のサービスの提供は市町村など各地域が担当するため、情報不足等を含め、地域差が生じやすいといった面もあるかもしれません。
とすると、どんな支援をしてもらえれば自立した生活が過ごせるか、社会に貢献できそうか、といった視点で状況を整理することも大切になると言えるでしょう。なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考
厚労省ホームページ
障害者自立支援法の概要
http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0214-1a.html
障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html
障害者の利用者負担
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/hutan1.html
障害福祉情報サービスかながわ ホームページ
http://www.rakuraku.or.jp/shienhi/guide/about/005.html#a005
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