読書バリアフリー法成立 ~ 法整備の意義と今後の課題

身体障害

はじめに
 読書バリアフリー法が、2019年の通常国会で成立しました。この法律の創設は、視覚に障害のある方などを支援する団体から強い創設要望のあった法律です。

 ここではそのような読書バリアフリー法について、法律の概要やその背景にあるものなどを中心にしつつ、今後の課題と考えられることなどをまとめています。



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1. 読書バリアフリー法とは?
(1) 読書バリアフリー法とは?

「図-読書バリアフリー法とは?」
読書バリアフリー法とは?

 読書バリアフリー法とは、「視覚等の障害の有無にかかわらず、すべての方々が等しく読書を通じて、文字・活字文化からの恩恵を受けられる社会の実現」を目的に、読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進することを目指すための法律です。2019年6月、国会にて可決・成立しました。

 17条から成るこの法律は、以下のような点が、そのポイントとなっています。

① 図書館の利用に関する体制の整備

活字を読むことが困難な方のために製作されるデジタル図書の国際標準規格である「デイジー図書」に準拠した書籍や、音声読み上げ電子書籍、オーディオブックなどの充実の他、円滑な利用のための支援の充実、点字図書館の整備などのことをさします。

② インターネットを利用したサービス提供体制の充実

 対応する書籍等を幅広く利用可能とするための全国的なネットワークづくりやその運営の、整備や支援のことをさします。

③ 特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援

 出版者から製作者へのテキストデータの提供の促進などを通じて、対応する書籍を著作権法にも準拠した形で円滑に製作できるようにするための環境整備や、製作そのものの促進を支援することをさします。

④ 対応する書籍等の販売の支援

 著作権者と出版者との契約に関する情報提供のほか、技術の進歩に合わせて対応する書籍を販売できる環境整備を推進することをさします。

⑤ 外国からの対応する書籍等の入手するための環境整備

 国外で製作される書籍等の入手方法に関する相談体制の整備などをさします。

⑥ 対応する書籍等の再生などに利用する端末機器などの入手支援

 端末機器の機能等の最新の情報入手を支援することをさします。

⑦ 情報通信技術の習得支援

 対応する書籍や関連情報等を入手したり、実際に利用したりするには、インターネットなど一定の技術を利用することが想定されています。そこで、そのような技術を利用するための教育などが、支援の対象になっていることをさしています。

⑧ 先端的技術等の研究開発の推進等

⑨ 製作人材・図書館サービス人材の育成

(2) 読書バリアフリー法成立の背景にあるもの

① 活字文書の意義

「図-活字文書の意義」
活字文書の意義

読書バリアフリー法は、長年、視覚に障害がある方などを支援する団体などから強い創設要望があった法律です。と言うのも、読書には、さまざまな効果が期待できることがわかっているからです。

具体的には、「読書活動の度合いが高い児童・生徒の方が、論理的思考など、意識・行動に関する得点は高くなる」「継続的な読書習慣の有無も、子どもの意識・行動に関係してくる」、「読書活動推進に関する体制や取り組みが、在籍している学校で実施されているかということも、子どもの意識・行動に影響する」といったことが明らかになっています。

つまり、読書を含めた「活字を読む」ということは、教育効果が非常に効果の高い方法だと言えるのです。このような「読書」を、「障害が理由でできない、ということをなくしていこう」というのが、この法律の主旨ということになります。

国は、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害のある方などが、積極的に参加・貢献できる社会である「共生社会」の実現を目指しています。そのような中で、活字文化の持つ大きな教育効果を、障害の有無によらずに得られる環境の整備を目指すことは当然の成り行きだということです。

② 国際的な流れ

このような流れは、決して日本の中だけで起きているものではありません。2013年6月、視覚に障害のある方々や活字を読むことに障害のある人々のための新著作権条約の採択に向けた議論があり、「視覚に障害のある方等の出版物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」が採択され、日本も最終文書に署名しました。

この条約が成立した背景にあるのは、毎年、世界中で出版される100万冊程度の書籍のうち、視覚に障害のある方等が入手でき、形式になっている書籍は7パーセントにすぎなかったという事実です。

また、せっかく製作された視覚に障害のある方々や活字を読むことに障害のある人々が利用できる形式の書籍でも、各国内の著作権の制限下で製作されていることが理由で、各国外の対象の方が活用できるような統一した規定がなく、利用できないケースが多くありました。いわば「人為的に利用できない状況にあった」のです。

このような中で採択された「マラケシュ条約」は、「アクセシブルな形式の複製」を可能とする条約です。「アクセシブル」とは、著作物を「入手でき、利用できる」ということ。つまり、視覚等の障害がある方が、「入手でき、利用できる」ための複製は、著作権による権利を侵害しないという合意事項が生まれたと、とらえられるということです。

なお、「アクセシブルな形式の複製対象となる著作物」は、テキスト形式か音声形式かなどの形式は問われず、また、出版物かあるいはインターネットなどで公開されているものかといった「公開の方法」も問われていません。まさに、「対象となる方が読める形にすること」が、この条約で認められたのだということであり、この条約の採択を受けて、読書バリアフリー法は成立したと、言い換えることができるのです。

参考
国立国会図書館
文部科学省による「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2017/2017-063.html

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センター
マラケシュ条約の意義
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/norma1311_nomura.html

日本維新の会
視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律案(読書バリアフリー法案)概要
https://o-ishin.jp/news/2019/images/164424dcb0cd4e826e8b7ff8a47638bf1e510614.pdf

2. 読書バリアフリー法による受益者

 読書バリアフリー法の成立で、これまでより多くの方が、活字文化の恩恵を受けられることになります。その対象となるのは、大きくは視覚に障害のある方々と読字障害のある方々です。

(1) 視覚障害のある方

視覚障害とは、視覚の持つ機能、つまり、物の存在や形状を認識する能力である視力、見ることのできる範囲を示す視野、色を識別する色覚などの機能の不具合により、生活に支障を来している状態であることを言います。この視覚に障害があれば、読書に非常に多くの困難が伴うことは容易に想像がつくでしょう。

厚労省による2018年の調査によれば、視覚障害のある方は、31万人と推計されています。つまり、それだけ多くの方々が利用できる形式の活字情報が増えることになるわけです。、

(2) 識字障害のある方

 識字障害は、ディスレクシアとも呼ばれています。知能面での遅れがなく、視覚や聴覚にも障害がないのに、また、十分な教育とご本人による努力がされているのに、知的能力から期待される読字能力を獲得することに困難がある状態のことを言い、学習上の困難を伴うことになることから、「学習障害」の1つとして位置づけられています。

「文字を読むことが困難」という意味で、単に読むのがニガテということとは質的に異なります。

読字障害の方が日本でどのくらいいらっしゃるかという読字障害に絞ったデータはありません。日本語にはひらがな、カタカナ、漢字があるため、あくまで参考ですが、アルファベット語圏で3~12%と報告されています。

【関連記事】
「多様性を認める」 視覚障害の視点で考える
https://jlsa-net.jp/sin/tayousei-sikakusg/

ディスレクシア(読字障害)とは?
https://jlsa-net.jp/hattatsu/dyslexia/

参考
厚労省 e-ヘルスネット
学習障害
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-004.html

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
ディスレクシア | 子どもの病気
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/007.html

国立障害者リハビリテーションセンター
視覚障害者の理解のために
http://www.rehab.go.jp/Riryo/hk_tebiki/hk_tebiki_info7_1.htm
一般社団法人 日本ディスレクシア協会
ディスレクシアとは
http://jdyslexia.com/about.html

東京大学 バリアフリー支援室
視覚障害について、知っておいていただきたいこと
https://ds.adm.u-tokyo.ac.jp/receive-support/blind.html

立命館大学生存学研究センター arsvi.com
第15章「見えない世界で生きていく――視覚障害者の意識と感覚」
http://www.arsvi.com/1990/94051715.htm

3. 読書バリアフリー法成立後の課題

「図-これからの課題」
読書バリアフリー法成立後のこれからの課題

(1) 法の整備だけでは、ただのかけ声という現実

 法律の成立は、これまで読書の恩恵を受けられなかった方々にとって、非常に大きな意味を持つと考えられます。まさに「読書に関する障害が取り除かれる」第一歩となるからです。

 しかし、それはあくまで「第一歩」に過ぎません。法律が成立することと、実際の対応がなされることとは、イコールではないからです。むしろ「これから」の方が、つまり、「アクセシブルな環境が実際に整備されること」が重要と言えるのです。

(2) 障害の「性質」に合わせた対応の必要性

「アクセシブルな環境の整備」にあたっては、1つ大きな課題があると考えられます。それは、障害の種類に関わらず、障害は「人それぞれだ」という点です。

たとえば、ひと言で視覚障害と言っても、実際には大きな差異があるという事実があります。光を感じることもできない全盲でも、「先天的」に全盲の方と、「後天的」に全盲の方とでは、物事のとらえ方が変わるはずなのです。

先天的な全盲の方の場合、後天的な全盲の方とは異なり、視覚を通じて物を見た経験がないことになります。このため、実際に体験のしようがないもの、たとえば、「山」や「色」といったものを、視覚を通じた経験を土台にしてイメージすることはできないということになります。

つまり同じ視覚障害であっても、その程度や、それが先天的か後天的かなどによって、状況が異なると言えるわけです。よって、アクセシブルな書籍によって、同じ言葉で伝えられたとしても、同じ意味を持つかは別問題と考える必要があるということになるのです。

とすれば、たとえば活字形式のものを読み上げ、音声形式にしただけでは課題解決に結びつかない可能性もあると考えられます。よって、たとえば書籍の中で扱われる単語等について、辞書的な定義の補足を加えるなどの工夫も必要になる場合があるとも言えるのではないでしょうか。

また、視覚障害や読字障害のある方で、身体障害により本を持ったり、ページをめくったり、目の焦点を合わせることができない方もいらっしゃるはず。そのような場合のことをどのように解釈し、実際に対応するのかも、課題になると考えられます。

(3) 対応できる量的な課題

 どの書籍等を優先してアクセシブルなものにしていくのかも大きな課題と考えられます。先に、「毎年、世界中で出版される書籍は100万冊程度あること」を確認しました。つまり、たった10年でも、1000万冊もの書籍があることになります。さらに、書籍ではないものの、活字の情報となっているものは、新聞、WEB、論文など、たくさんあります。

 もちろん、すべてに対応できれば良いかもしれませんが、物理的な限界があるのも事実ですし、同時にすべてアクセシブルなものにするということもできないでしょう。「手をつけないことには始まらない」のも事実ですが、やはり優先順位を決められるよう「方針にあたるもの」を持ったうえで、対応を進める必要もあると言えるのではないでしょうか。

参考
国立障害者リハビリテーションセンター
視覚障害者の理解のために
http://www.rehab.go.jp/Riryo/hk_tebiki/hk_tebiki_info7_1.htm
公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センター
マラケシュ条約の意義
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/norma1311_nomura.html

日本維新の会
視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律案(読書バリアフリー法案)概要
https://o-ishin.jp/news/2019/images/164424dcb0cd4e826e8b7ff8a47638bf1e510614.pdf

東京大学 バリアフリー支援室
視覚障害について、知っておいていただきたいこと
https://ds.adm.u-tokyo.ac.jp/receive-support/blind.html

立命館大学生存学研究センター arsvi.com
第15章「見えない世界で生きていく――視覚障害者の意識と感覚」
http://www.arsvi.com/1990/94051715.htm

最後に

2019年6月の通常国会で、読書バリアフリー法が可決・成立しました。この法律は、「視覚等の障害の有無にかかわらず、すべての方々が等しく読書を通じて、文字・活字文化からの恩恵を受けられる社会の実現」を目指すための法律で、読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進することが定められています。

この法律の創設が待ち望まれた大きな理由は、読書というものの教育効果の高さにあると考えられます。「読書活動の度合いが高い児童・生徒の方が、論理的思考など、意識・行動に関する得点は高くなる」といった効果が認められており、障害の有無によらず「読書をすることが物理的に可能な状態にすること」は、国が目指す「共生社会の実現」の中でも、非常に重要な施策と位置づけられるわけです。

とは言え、法律ができただけでは、実効性を伴わないのも事実。今後の具体的な取り組みが待ち望まれると言えますが、課題があるのも事実です。

「視覚等の障害」と言っても、それは人それぞれの面があり、具体的な対応をどこまで、どのような形式で実現するのかという課題があること、また、1年間に100万冊発刊されるとも言われる書籍を、既に発刊されているものも含めて、どのような優先順位で「アクセシブルな書籍」にしていくのか、といった現実的な問題に対処していくことが必要となるからです。

それでも、法律ができたということは非常に大きな第一歩。今後の迅速な歩みに期待したいところです。なおこの記事に関連するサイト及び資料は下記の通りです。ご参考までにご確認ください。

参考
厚労省 e-ヘルスネット
学習障害

学習障害(限局性学習症)

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
ディスレクシア | 子どもの病気
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/007.html

国立国会図書館
文部科学省による「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」
https://www.kodomo.go.jp/info/child/2017/2017-063.html

国立障害者リハビリテーションセンター
視覚障害者の理解のために
http://www.rehab.go.jp/Riryo/hk_tebiki/hk_tebiki_info7_1.htm

公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会情報センター
マラケシュ条約の意義
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/copyright/norma1311_nomura.html

一般社団法人 日本ディスレクシア協会
ディスレクシアとは
http://jdyslexia.com/about.html

日本維新の会
視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律案(読書バリアフリー法案)概要
https://o-ishin.jp/news/2019/images/164424dcb0cd4e826e8b7ff8a47638bf1e510614.pdf

東京大学 バリアフリー支援室
視覚障害について、知っておいていただきたいこと
https://ds.adm.u-tokyo.ac.jp/receive-support/blind.html

立命館大学生存学研究センター arsvi.com
第15章「見えない世界で生きていく――視覚障害者の意識と感覚」
http://www.arsvi.com/1990/94051715.htm

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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