障害者就労を支援する組織のビジネスモデル
はじめに
障害のある方が活躍できる場には、一般就労を含めさまざまな形態のものがあります。健常者の方と同様に「就労」する、「福祉サービスを利用」しつつ「就労」する、「福祉サービスの利用」の枠内で活躍するなど。ただいずれの形態であっても、その機会や場を提供する事業者は事業としてそれを運営しています。
事業として運営されているということは、その事業は「経済的な面で、その事業を成立させるしくみが備わっている」ということです。一方で、ビジネスモデルとも呼ばれるそのしくみは、それぞれの設置形態により異なってもいるのです。
ここでは、障害のある方の活躍の場が、設置形態別にどのようなビジネスモデルで運営されているのか、そのポイントとなる視点を取り上げながら、それぞれの特徴などについて整理していきます。
1. 障害のある方が社会で活躍する場
2. 各設置形態別のビジネスモデル ~ それぞれどのように事業を成立させているのか?
(1) 一般企業・公的機関で「働く」
(2) 就労支援事業所で「働く」
最後に
1. 障害のある方が社会で活躍する場
障害のある方が社会で活躍できる場、つまり、ご自身の能力を磨いたり、持てる能力を用いて働いたりする方法には、さまざまな形があります。もちろん、障害があっても、いわゆる健常者と同様、あるいはそれ以上の働き方をされている方はたくさんいらっしゃいます。
一方で、その障害の程度や障害があることによって生じる困りごとは人それぞれで多岐に渡る面があります。また、障害の有無によらず、誰もが安心して暮らしていける社会であるためには、障害があっても自立して生活していけるだけの経済的な基盤も必要です。
このような事情から、さまざまな形の施策が、複数の法律に基づき整備される形になっており、結果、障害のある方が「社会で活躍する=働く」といった場合、いわゆる一般的な働き方とは異なる形のものもあるのです。
なお、ここでは以降、「障害のある方が社会で活躍すること」を「働くこと」とし、一般的な就労以外も含めたものとして扱っていきます。
「図-障害のある方の「働き方」」
では、障害のある方の「働き方」には、どのようなものがあるのでしょう?
それを理解するには、各法律に基づく具体的な「働き方・働く場」やその「形態」以前に、その「視点」を知ったほうがわかりやすい面があります。大きくは「就労」と「福祉サービスの利用」という2つの「視点」です。
障害のない方、つまり、いわゆる健常者が「働く」という場合、アルバイトやパートなども含め、基本的には「就労」という形態になっています。一方で、障害のある方の場合、次のような大きくは3つの「働き方」があるのです。
<障害のある方の3つの「働き方」>
① 健常者の方と同様に「就労」する
② 「福祉サービスを利用」しつつ「就労」する
③ 「福祉サービスの利用」の枠内で活躍する
このような視点で分けた方がわかりやすいのは、「就労」が働く方が労働することを提供している立場であるのに対し、「福祉サービスの利用」の場合はサービスを提供される立場であるという、立場の違いがあるからです。
実はこの「立場の違い」が、障害のある方の「働く場」の設置形態別のビジネスモデルの違いを生んでいるのです。
参考:
厚労省 ホームページ
障害者の就労支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000091254.pdf
独立行政法人 福祉医療機構
就労継続支援A型(雇用型)
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-21.html
就労継続支援B型(非雇用型)
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-22.html
2. 各設置形態別のビジネスモデル ~ それぞれどのように事業を成立させているのか?
「図-障害のある方の「働く場」」
障害のある方の「働く場」、つまり設置形態には、主に上図のようなものがあります。それぞれについて、障害のある方の立場からの「働き方の特徴」と、その事業体の「ビジネスモデル」を見ていきます。
一般企業や公的機関で「働く」という方法は、いわゆる健常者と同様の働き方であり、雇用契約を結び、その対価として給与を得ることになります。
<障害のある方の3つの「働き方」>で言えば、「①健常者の方と同様に「就労」する」に該当し、他の「働き方」と比較すると、一般的に給与が多く支払われるという面があります。
ところで、障害者枠と一般枠という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
これは、障害のある方にとっては、「障害があることをオープンにして働くか、あるいは障害のあることはオープンにせずに働くか」ということですが、雇用する民間企業や公的機関にとっては、「障害のある方として雇用するか、そうでなはいとして雇用するか」ということを意味します。
企業や公的機関は、障害者雇用促進法の下、法定雇用率を満たすだけの障害のある方を雇用する義務があります。
つまり、この義務を果たしていることを証明するために、企業や公的機関は、「障害がある方を雇用していること」を、把握することが必要なのです。障害者枠、一般枠といったものが生まれる背景には、このような事情があるのです。
なお2018年4月時点の法定雇用率は、民間企業の場合で基本的には2.2%。つまり、45.5人以上の労働者を雇用する企業には、障害のある方を雇用する義務が発生します。
企業の場合、商品という形のモノやサービスを売ることで、その対価を得て活動しています。つまり、モノやサービスを提供することで収益を得て、その収益の中から、障害のある方を含む労働者の給与や賞与などを支給している、ということです。
公的機関の場合は、給与や賞与などが税金で賄われることになりますが、モノやサービスを提供する立場であるという点は共通しています。
1) 特例子会社とは?
特例子会社とは、企業や地方自治体が障害のある方を雇用することを目的に設立する子会社です。
すでに見た通り、企業や公的機関は、障害者雇用促進法の下、障害のある方を雇用する義務があり、法定雇用率を満たす必要がありますが、特例子会社は別法人でありながら、障害者雇用促進法内では親会社の一事業所とみなされ、親会社の法定雇用率に算入できるのです。
特例子会社は2017年6月時点で464ありますが、企業が特例子会社を設立するには、一定の要件を満たし、かつ、厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。
2) 企業が特例子会社を設立する理由
企業が特例子会社を設立する理由としては、法定雇用率に算入できる以外にも、
・「障害のある方のために会社を設立している」という企業イメージのアップをはかれる
・あくまで別法人であるということから、親会社とは異なる採用方法、労働条件を設定できる
・親会社やグループ会社から、同種の仕事を一括で発注できる
・社員一人ひとりの特性を把握するという雇用管理のノウハウを蓄積できる
といったものが考えられます。
3) 障害のある方にとって、特例子会社で働くことのメリット
一方、障害のある方にとってのメリットとしては、次のようなものが考えられます。
・障害のある方の能力に見合った仕事が毎日安定的にあり、社会で活躍していることを実感できる
・親会社とは別の労働条件ではあるものの、福祉サービス事業所の利用などと比較すれば給与が高く、賞与や退職金制度といった人事制度が整備されている場合がほとんどである他、親会社の福利厚生施設の活用などができる
・一人ひとりに合わせて雇用管理が行われる
障害者雇用促進法は、その名のとおり、障害のある方の雇用を促進することを目的とした法律です。そのような理由から、障害のある方の雇用義務を企業等の事業主に果たさせるため、いわば「動機づけ」にあたるようなしくみが整備されています。
そのしくみが、納付金制度です。この納付金制度では、大きくは次の2つが定められています。
1) 納付金・調整金
障害者雇用率に基づき発生する障害のある方の雇用義務に対し、それを達成できなかった企業等には、不足人数分の経済的負担が求められています。義務を果たせなかった場合に、罰金のようなものを国に納付することが求められる、ということです。
その一方で、障害者雇用率を上回って障害のある方を雇用する企業等に対しては、上回った人数分の金銭が支給されることになっています。つまり、障害のある方を多く雇用すれば雇用するほど、その企業等には多くの支給金が交付されるということです。
2) 助成金制度
障害のある方の雇用環境整備にあたっては、企業等向けにさまざまな助成制度が用意されています。この助成制度には、以下のようなものがあります。
・障害のある方を雇い入れた場合の助成
・障害のある方が働きやすいよう、施設等の整備や適切な雇用管理の措置を行った場合の助成
・障害のある方の職業能力開発をした場合の助成
・障害のある方の職場定着のための措置を実施した場合の助成
「図-就労支援事業とは?」
就労支援事業は、障害者総合支援法に基づく、福祉サービスです。しかし、対象としているのが「就労」という性質上、モノやサービスの生産も同時に行っています。
つまり、2つの性質を持つ、ということです。就労支援事業には、就労移行支援、就労継続支援の大きくは2つの形態がありますが、いずれも「民間の団体などが、国に代わって事業として行っているものだ」ととらえると、わかりやすいでしょう。
1) 就労移行支援
一般企業への就労を希望する65歳未満の障害のある方に対して、生産活動や職場体験などの機会の提供を通じて、就労に必要となる知識や能力の向上のための訓練や、就労に関する相談などの支援を行うものを言います。訓練が中心の福祉サービスの位置づけであるため、工賃が支給されることは少なくなっています。
【関連記事】
就労移行支援とは?
https://jlsa-net.jp/syuurou/syuro-ikou/
2) 就労継続支援
一般企業等での就労が困難な方に、働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うものを言います。
就労継続支援は就労継続支援A型と就労継続支援B型の2つのサービスに分かれていますが、その大きな違いは、障害のある方との雇用契約があるかないかという点です。
雇用契約がある就労継続支援A型の場合、そこで「働く」障害のある方へは賃金として給与が支払われる一方で、雇用契約のない就労継続支援B型の場合、そこで「働く」障害のある方へは支払われるのは作業に対する手間賃である工賃です。
この差は時給に換算すると明らかで、平成25年度には前者が1時間あたり737円であるのに対し、後者は178円となっています。
【関連記事】
就労継続支援とは?
https://jlsa-net.jp/syuurou/syuro-keizoku/
既に見た通り、就労支援事業には2つの側面があります。
<障害のある方の3つの「働き方」>の分類で言えば、「②「福祉サービスを利用」しつつ「就労」する」、あるいは、「③「福祉サービスの利用」の枠内で活躍する」に該当するのですが、いずれの場合であってもその第一義は、障害のある方に働く場や訓練といった「福祉サービスを提供すること」です。
一般企業への就労を希望する方やそれが難しい障害のある方への「サービスの提供」という性質上、その仕事の内容はどうしても製造・梱包・検査といった軽作業が多くなります。
また、仕事を安定して障害のある方に提供する必要がある上、「働く」時間が制限されるため、どうしても賃金・工賃は低くなる傾向があります。
就労支援事業の場合、2つの性質を持つということが、就労支援事業者にとってのビジネスモデルに影響しています。
まずは障害のある方に福祉サービスを提供することに対する報酬を、事業者は得られるという点です。つまり、障害のある方がその事業者を利用すれば、福祉サービスを提供したことにより、その対価を事業者は得られるということです。
その報酬は、利用者個人単位の利用日数(時間)に応じたものになりますが、基本的には利用者が1割を負担し、残りの9割は訓練等給付費として国県市費から支給されることになります。
もう一つは、障害のある方が生産するモノやサービスによる収益です。モノやサービスを生産しているわけですから、それに対する収益があるということです。
このように、就労支援事業を営む事業者には2つの収益源があり、その中から障害のある方への賃金や工賃を支給しているということになります。
実はこのことが、就労支援事業に作業を発注した場合に、一般企業に同様の作業を発注するよりも、一般的には安くなる理由にもなっています。
授産施設とは、障害等により就業能力の限られている方が、リハビリや職業訓練も含めて働く場のことを言います。
生活保護法や社会福祉法に基づき、地方公共団体や社会福祉法人などが設置されるものですが、障害者総合支援法の前身である障害者自立支援法の施行に伴い、その多くは就労移行支援事業、就労継続支援事業、地域支援活動センター事業へと移行、再構成されています。
名称に授産施設・授産所・授産場とついている場合は、旧体系の名残である場合もあるということです。
参考:
電子政府の総合窓口 e-Govホームページ
障害者雇用促進法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=335AC0000000123&openerCode=1
厚労省ホームページ
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
サービスの体系
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/taikei.html
障害者の就労支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000091254.pdf
「特例子会社」制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/tokureikogaisha-gaiyou.pdf
用語の定義
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/09/dl/yougo.pdf
生活保護法に基づく保護施設
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/05/s0510-2e.html
独立行政法人 福祉医療機構
就労継続支援A型(雇用型)
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-21.html
就労継続支援B型(非雇用型)
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-22.html
就労移行支援
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-20.html
最後に
障害のある方の「働き方」には、さまざまな形があります。大きくは、いわゆる健常者と同様の働き方、働くことが同時に福祉サービスの利用であるというもの、そして、福祉サービスの範囲内で活躍する、という3つの形です。
このような「働き方の違い」が、その機会や場を設けている事業者のビジネスモデルの違いにもつながっているということです。
たとえば福祉サービスでもある就労支援事業を営む事業所に作業を発注する場合、一般企業に同様の作業を発注するよりも、一般的には安い費用となります。これはビジネスモデルの違いが生んでいる差であると言い換えることもできるでしょう。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
電子政府の総合窓口 e-Govホームページ
障害者雇用促進法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=335AC0000000123&openerCode=1
厚労省ホームページ
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
サービスの体系
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/taikei.html
障害者の就労支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000091254.pdf
「特例子会社」制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/tokureikogaisha-gaiyou.pdf
用語の定義
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/09/dl/yougo.pdf
生活保護法に基づく保護施設
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/05/s0510-2e.html
独立行政法人 福祉医療機構
就労継続支援A型(雇用型)
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-21.html
就労継続支援B型(非雇用型)
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-22.html
就労移行支援
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcp
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