知的障害のある方の就労 ~社会での自立と活躍への道

知的障害

はじめに
知的障害のある方が社会で自立し活躍する場として、就労、つまり「働く」ということがあります。

ここでは、知的障害のある方が、働こうとするときに考えたいことや実際に就労へ向けてどんなルートがあるのか。職業訓練機関や社会福祉施設の紹介や、就労に向けたポイントなどをまとめています。



【障害のある方・ご家族向け】
日常生活のトラブルからお守りします!
詳しくは下記の無料動画で 


JLSA個人会員「わたしお守り総合補償制度」
 無料資料請求はこちらから




1. 知的障害の方が就労する上で、最も大切なこと ~生活面・就労面の両面から、「できること」「できないこと」を明確にする

「図-就職するときに考えること」
知的障害の方が就労する上で、最も大切なこと

社会で働く・活躍するために、最も大切なことは何でしょう? やはり、自分が最も輝ける場所はどこか? そして、やりたいことは何か? ということではないでしょうか。

とはいえ、それは相手があっての話であるのも事実。ただ「ここがいい」「やりたい」だけでは、相手である職場と良い関係を築くことは難しい面があります。

そこで、いわゆる一般の方が就職する場合でも必要になるポイントと、障害があるから考える必要があるポイントとを分けて考えていくことが重要になりそうです。

(1) 就職するときに考えること

一般の方が就職先候補を選ぶとき、まずは自分の興味や関心、将来やりたいことなどを考えるのではないでしょうか? 

そして、待遇面や勤務地や勤務時間などの条件などを下に候補を絞りこんでいく。これは知的障害のある方であっても同じなのではないでしょうか? 

履歴書の一般的な様式も思い浮かべてみてください。経歴などに加え、特技を記入する欄があったのでは? 

このように考えると、やはり、まず大切なことは自分のやりたいことが何か? ということであり、それが希望する企業側のニーズと合致するのかどうか? ということでしょう。

【関連記事】
障害者就労 「強みを発揮して」就労するということ
https://jlsa-net.jp/syuurou/sgswork-strong/

(2) できることと、できないことは何か?

次に考えるのは、障害があるからこそ、重点的に考える必要のあるポイントです。具体的には、物理的に、あるいは客観的にみて、何ができて、何ができないかということでしょう。

いくら就職したとしても、またその職に関しては能力を発揮できたとしても、それが続けられる条件や環境を整え、維持できないと長い期間のうちに無理がたたったりするなど、問題が発生する可能性が高まってしまいます。

できること、できないことを洗い出すときは、「できないこと」は、不可能・やるには支援が必要・できるようになっても大幅に時間などの労力がかかること・努力でできることの4段階程度に分けて考えるとよいのではないでしょうか。

① 生活面

仮に「朝、起きることがどうしても不可能」というケースを考えてみましょう。

他の面は全く問題なく、むしろ優秀、なんでもできるとしても、「朝起きられないこと」は、就業面で多くの問題を生じさせてしまう可能性が高まります。例えば、重要な打ち合わせに度々遅れるなど。

いくら素晴らしいアウトプットをできても、その後活躍すること自体が厳しいものとなってしまいます。このような場合、就業時間に大きなルールがないような企業を選択すべきでしょう。

生活面でできないことがあるなら、それを条件に就労先を考えることはとても重要なことです。

② 就労面

仮に「大きな音がするような環境で大きなストレスがかかる」というような場合、常に機械の音がするような工場などでの就労は難しいと言えるでしょう。

一方で、静かなオフィススペースでするような仕事が中心ならば、能力を発揮することは十分可能と考えられます。

知的障害のある方にとって就労環境は就労先の選択に非常に重要な要素と言えるでしょう。個別のワーク用ブースを用意している企業等もありますので、「実際の就労環境」を確かめることも就労先の選択には欠かせないチェックポイントと言えます。

2. 社会での自立と活躍への道

「図-知的障害のある方が社会で働く・活躍するためのルート」
知的障害のある方が社会で働く・活躍するためのルート

「できること」「できないこと」が、ある程度明確になると、次に考えるのは、どんなルートをたどって活躍の場を探すかということになります。

知的障害のある方が、各学校の卒業後、社会で働く・活躍するためのルートには、大きく図のようなものがありますが、「このルートが最適」というものは残念ながらありません。

また、「一度決めたらその道を歩むべき」ということでもないでしょう。今の世の中全般として、終身雇用ではなくなってきています。その意味でも、ある程度は地道なトライ&エラーを繰り返す場合があると言えます。

ただそれは、本当にやりたいこと考えるという意味では、むしろ良いことと考えることもできるかもしれません。

参考:
文科省ホームページ 特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/013.htm

3. 社会で活躍する道1 ~一般企業への就職

一般企業への就職には、一般枠での就職と障害者枠での就職との大きく2つの方法があります。

(1) 一般枠での就職

採用~就業~その後の社会人生活に至るまで、一般の方と同一の条件で歩む道です。特に軽度の知的障害のある方の場合、気づかぬまま、あるいは気づいていても、このルートを選んでいらっしゃいます。

① メリット

何らかの問題が発生しない限り、企業側に知的障害があることを告知をする必要がありません。障害があることを知られたくないというような場合、この道を選ぶことは可能です。

② デメリット

まず採用において、いわゆる一般の方と同じ土俵で競争することになります。また、採用後も、本来なら必要な支援が得られにくい状況になると言えるでしょう。

【関連記事】
障害者雇用促進法の改正と障害のある方の一般企業への就労への道https://jlsa-net.jp/syuurou/koyousokushinhou2018/

(2) 障害者枠での就職

障害のある方が社会で活躍できることを促す法律として、障害者雇用促進法があります。障害のある方に対する差別の禁止や文章のみではなく必要に応じて図式化して説明するなどの合理的な配慮の提供義務を企業に課す法律です。

また、所定の従業員数を超える企業は、知的障害を含む障害のある方を一定数雇用する義務があります。

2018年度からは、これまでの従業員数50人以上の企業から45.5人以上の企業へと、対象が拡大されます(実際には5年間の猶予期間が設定されています)。

① メリット

障害者枠という特別な枠組みの中で就職が可能です。人気の企業などは、一般枠での競争倍率が数千倍になるようなケースもあります。

このような企業への就職を希望する場合でも、障害者枠での就職であれば、競争する相手は障害のある方々に限られ、その結果、競争倍率が一般枠と比較すれば低いというようなケースも考えられます。

また、企業側も障害者枠で採用することで、国からの助成金などを含めた様々な支援が得られるというメリットもあります。

② デメリット

障害があることを、就職希望先企業に通知する必要があります。

参考:
厚労省ホームページ 障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html

4. 社会で活躍する道2 ~職業訓練校に通い就職を目指す

職業訓練校とは、社会で活躍するために必要な技能を身につけるための専門機関です。公的機関が運営する職業訓練校の他、国などから委託された民間企業などによる職業訓練コースなどがあります

(1) 公的な職業訓練校

障害のある方を対象とした職業訓練の専門校である障害者職業能力開発校が全国に19校、設置されています。うち、国立機構営校が2校、国立県営校が11校、県立県営校が6校あります。

① 国立機構経営校 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構について

高齢・障害・求職者雇用支援機構は、高齢者の雇用の確保、障害者の職業的自立の推進、求職者その他労働者の職業能力の開発及び向上のために、高齢の方、障害のある方、職を求められている方、事業主等に対して総合的な支援を行っている独立行政法人です。

職業訓練校のうち国立機構営校2校を運営しています。

1) 中央障害者職業能力開発校・吉備高原障害者職業能力開発校
同校では、知的障害のある方向けに、以下のようなコースを設置しています。(※ただし、2校の間で設置されているコースは異なります)

販売・物流ワーク、ホテル・アメニティワーク、オフィスワーク、事務・販売・物流ワーク、厨房・生活支援サービスワーク

また、その他にも、以下のような障害の有無に関わらない職業訓練を実施しています。
・メカトロ:機械CAD・電子技術・組立技術など
・建築:建築CAD
・ビジネス情報:IT系スキル、会計等

2) 地域障害者職業センター
就職を希望する知的障害を含む障害のある方に、以下のような支援を行っています。

・本人の希望等を踏まえながら職業適性を評価、必要な支援内容などを含む個別の「職業リハビリテーション計画」を策定する
・その職業を行う上での課題把握やその改善、職業に関する知識の習得、社会生活技能等の向上を支援する
・就職後の職場適応に関するアドバイスの実施する

地域障害者職業センターは、全国各地に設置されています。この施設は障害手帳の有無に関わらず利用できるとのこと。自分のできること、できないことを客観的に把握したい場合など、利用を検討してみるのもよいでしょう。

② 国立県営校・県立県営校

国立県営校・県立県営校は、それぞれ特色のある職業訓練校を目指しながら、障害のある方の支援を行っています。なお、設置されているのは以下のとおりです。

1) 国立県営校:北海道、宮城県、東京都、神奈川県、石川県、愛知県、大阪府、兵庫県、広島県、福岡県、鹿児島県
2) 県立県営校: 青森県、千葉県、静岡県、愛知県、京都府、兵庫県

(2) 民間での職業訓練

企業、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関などが、知的障害を含む障害のある方の職業訓練を受託し、実施しています。職業訓練の内容はとして、以下のコースがあります。

① 知識・技能習得訓練コース(知識・技能の習得)
② 実践能力習得訓練コース(企業等の現場を活用した実践的な職業能力の開発・向上)
③ e-ラーニングコース(IT技能等の習得)
④ 特別支援学校早期訓練コース(特別支援学校在学中から実践的な職業能力の開発・向上)
⑤ 在職者訓練コース(雇用継続に資する知識・技能の習得)

参考:
厚労省ホームページ 障害者の態様に応じた多様な委託訓練の概要
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000066670.pdf
高齢・障害・求職者雇用支援機構ホームページ 障害者の雇用支援
http://www.jeed.or.jp/disability/index.html

5. 社会福祉施設で生活しながら今後を考える

社会福祉施設とは、高齢の方や児童、障害のある方、生活困窮の方などに、社会生活を営む上で必要な日常生活の支援・技術の指導などを行うことを通じて、その方々が自立してその能力を発揮できるようになるよう支援することを目的としている施設です。

(1) 施設数と定員

知的障害のある方の支援施設には、障害者支援施設、旧知的障害者福祉法による知的障害者援護施設があります。それぞれの施設数と定員は以下の通りです。
知的障害者援護施設数と定員

(2) 社会福祉施設からの就業移行

知的障害があると言っても、その程度などは人それぞれです。また、その方なりの成長を通じて、できることがはっきりとしたり、新たな興味関心が見つかったりするはず。

そう考えると、一旦は社会福祉施設を利用するとしても、その後一般企業へ就職することを考えることも大切でしょう。

社会福祉施設のうち、特に障害者施設は、生活介護・自立訓練・就労移行支援・就労継続支援や施設入所支援、共同生活介護及び共同生活援助を行う施設であり、就労移行を支援する施設でもあります。

一方で、社会福祉施設等の障害福祉サービスから一般企業への就職は3%程度というのが現状。

この事実から考えるべきは、社会福祉施設が必ずしも就職支援を得意とはしていなかったり、積極的ではなかったりという現実があるということです。

社会福祉施設を選択する際には、実際に一般企業に就職した方がどの程度いるのか、就労に向けてどんな支援が得られるのかなどを確認することも重要と言えるでしょう。

参考:
厚労省ホームページ 
社会福祉施設
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10-2/kousei-data/PDF/22010804.pdf

障害者の就労支援対策の状況
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/shurou.html

最後に

知的障害のある方に対する国としての支援をまとめたものとして、障害者総合支援法という法律があります。

この法律は、障害者自立支援法などを発展させ、統合された法律。

障害のある方が、法に基づく日常生活・社会生活の支援が得られ、社会参加の機会があり、地域社会において生活していけること、そのために社会的障壁をなくしていくことを総合的かつ計画的に行うよう、その理念を示した法律でもあります。

つまり、知的障害を含む障害のある方に対して、社会全体のこれまでの支援内容が不十分だったこと、そして、その状態を解消しなければならないと国が認めているということでもあります。

そして、不十分だった支援内容を改め、社会を構成する公的機関にも、企業にも、社会で活躍できるよう能力や技能の開発を支援する学校や機関にも、必要な対応を示し、その実行を求めています。

一方別の見方をすれば、知的障害があっても、社会で活躍できるよう努力することが求められているということでもあります。

障害の有無に関わらず、それぞれが自分のできることで、かつ、自分がやりたいことで、能力を発揮する社会を目指す時代であるということもできるでしょう。

またそんな時代だからこそ、誰かに言われたから、周りがこうだからではなく、自分の意志で自分の将来を選択していくことが大切になるのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

文科省ホームページ 特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/013.htm

厚労省ホームページ 
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
障害者の態様に応じた多様な委託訓練の概要
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000066670.pdf
社会福祉施設
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10-2/kousei-data/PDF/22010804.pdf
障害者の就労支援対策の状況
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/shurou.html

高齢・障害・求職者雇用支援機構ホームページ 障害者の雇用支援
http://www.jeed.or.jp/disability/index.html

金森 保智

3,580,715 views

全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧