セサミストリートの「ジュリア」から自閉症を理解する
はじめに
セサミストリートは2019年に、放送開始から50年を迎えました。その徹底した世界観を通じた番組づくりにより、世界の放送業界で数々の賞も受賞してきました。そんなセサミストリートが今、力を入れている領域とも言えそうなのが「自閉症」です。ここでは、セサミストリートの中で、自閉症がどのように扱われているのかを中心に見つつ、その世界観からどのようなことが学べそうであるかを見ていきます。
1. セサミストリートとは?
2. セサミストリートに登場した自閉症のある子ども「ジュリア」
3. 自閉症とは? ~ 自閉症の一般的な特徴
4. 自閉症を理解して、そして、認める、接するために
最後に
1. セサミストリートとは?
「図-セサミストリートとは?」
「セサミストリート」は、アメリカで誕生した子ども向け教育番組で、その理想を、「子どもは社会全体の宝」「子どもたちの可能性がすべてに優先する」と掲げています。
エルモ、オスカー、クッキーモンスター、グローバー、ビッグバード、など、マペットと呼ばれるキャラクターたちと、アラン、ゴードン、スーザン、ボブ、マリアやルイスといったヒューマン・キャストと呼ばれる実際の人間の俳優のキャラクターたちがさまざまな物語をくり広げます。
いずれの物語も、子育て支援や教育に関する啓発・意識改革を行っていくことを目的とされ、またその世界観を反映するものとなっています。
セサミストリートが誕生したのは1969年です。以来、150以上の国と地域で放映された他、世界の放送業界で権威と歴史のあるエミー賞を、2015年までに164個受賞。これはテレビ番組の受賞数の最多記録なのだそうです。
他にも、毎年のように新たな賞を受賞するなど、さまざまな記録を更新し続けてもいます。
日本では、1971年にNHKでの放映が始まり、2004年の3月までアメリカ本国のオリジナル版の放映が続いた他、2004年10月から3年間は、日本の子どもたちが置かれている環境と問題点に合わせた共同制作版の番組制作と放映が、テレビ東京系列で行われました。
現在は、YouTubeに公式チャンネル「セサミストリート日本公式」で、プログラムが見られるようになっています。
https://www.youtube.com/channel/UCEQUPKIGWd9gCitecH1S_fA
「相手を尊敬する心や思いやりが大事にし、また、全ての子どもが教育を受けられることも重視している」とは、番組制作責任者の言葉。これが日本での放映が、地上波放映からYouTubeでの放映に切り替わった一つの理由ととらえることもできるのかもしれません。
これまでセサミストリートの舞台は、ニューヨークのとあるダウンタウンの架空のストリート「セサミストリート」とされてきました。つまり、実在する「通り=ストリート」ではなかったわけです。
が、誕生から50年を迎える2019年、ニューヨークの中心部に、正式にその名のついた「通り」が誕生し、大いに話題となっています。
その場所は、ウェスト63rdストリートのブロードウェイからセントラルパークの西側までの区間。まさにニューヨークのど真ん中とも言える場所が「セサミストリート」となり、通り名のついた標識が設置されたのです。
その事実だけを取ってみても、セサミストリートの影響力の大きさを物語っているのではないでしょうか。
参考:
セサミストリート
セサミって?[セサミストリートとは?]
http://sesame-street.jp/about/index.html
YouTube
セサミストリート日本公式
https://www.youtube.com/channel/UCEQUPKIGWd9gCitecH1S_fA
財形新聞
米ニューヨーク市に「セサミストリート」が実際に誕生
https://www.zaikei.co.jp/article/20190505/509211.html
2. セサミストリートに登場した自閉症のある子ども「ジュリア」
「図-セサミストリートにおける自閉症の扱い方」
そのような教育番組であるセサミストリートに、2017年から登場しているキャラクターに「ジュリア」がいます。ジュリアは自閉症のある4歳の子どもという設定です。
ジュリアとビッグバードとが初めて出会う場面である「Meet Julia・ジュリアの紹介(https://www.youtube.com/watch?v=uJEM_fQfcCg&t=4s)」。
話しかけても、ハイタッチを求めても反応してくれないジュリアに「嫌われたのではないか?」と落ち込むビッグバードに、ヒューマン・キャラクターであるアランが、「ジュリアは自閉症なんだ」と説明します。
さらに、「自閉症って何?」とたずねるビッグバードに、「何か聞かれても、すぐには答えられないことがある」「期待している返事や対応をしてくれないこともある」「みんなとやり方が違う、ジュリアスタイルがある」「時々、みんなには理解しにくいことをすることもある」と続けます。
日本でも、特に幼児向け番組には、あいさつすることに無頓着だったり、謝ることがニガテだったり、人と話すのがニガテだったり、特定の物事へのこだわりが非常に強かったりと、さまざまな個性を持つ人物が登場するのではないかと思います。
「個性豊か」と表現できる一方で、「少し風変り」と表現することもできる人物たちを登場させることで、「いろいろな人がいる」「みんな違う」「それがいい」というメッセージを込めているのではないかと思います。
と同時に、自閉症をはじめとする障害に関する知識が少しあると、「ひょっとしたらこの子は、自閉症の子どもを参考にしているのかもしれない」と思う場合もあります。ただこれは、「そうなのではないか?」という推測に過ぎません。
セサミストリートが「Meet Julia・ジュリアの紹介」で扱ったように、「○○には自閉症がある」と明言するようなセリフは、ほとんどの場合で出てこないのではないでしょうか。
一方、アメリカでも、ジュリアの登場がさまざまなメディアで大きく取り上げられたり、SNSで話題を集めたりするなど、大きな反響を呼ぶ出来事になったとのこと。
つまり、このような「自閉症と正面から向き合う」と表現できるようなスタイルは、お国柄と言うよりはむしろ、セサミストリートの大きな特徴と言った方が良さそうなのです。
そして、このようなスタイルだからこそ、自閉症というものについて、「こういう面がある」「このような場合もある」と、「直接的に」表現することができ、子どもであっても「自閉症とは何なのか?」を理解しやすい面があるのではないかとも考えられるのです。
セサミストリートは、自閉症に関して紹介するサイトも運営しています。
こちらは残念ながらすべて英語ですが、子ども向け、保護者の方向けのそれぞれの動画の他、オンラインブックやプリントして使える自閉症啓発に関する教育グッズなどを見たり、ダウンロードしたりすることなどができます。
なお、ジュリアのマペットの操作と声を務めているステイシー・ゴードンさんは、自閉症のある子どもを持つお母さん。
「(お子さんの)友だちが、テレビを通して(ジュリアという)キャラクターを知っていたら、(お子さんの)その行動を目にしても驚かなかったかも。遊ぶ時にはみんなと違う行動をすることがわかっても、それをやめさせようとするのではなく、それでいいんだと考えてくれたかも」と、インタビューで話しています。
毎年4月2日は、国連の定めた「世界自閉症啓発デー」なのですが、厚労省は2日から8日までの一週間を「発達障害者啓発週間」と位置づけ、自閉症だけでなく、発達障害全般に関するの理解促進のためのシンポジウムの開催やシンボルカラーの「青」を使った全国各地のランドマークのブルーライトアップなどの集中啓発活動を行っています。
2018年のこの活動で、厚労省はセサミストリートを啓発活動のポスターに起用しました。
実際に起用したのは、ジュリアの他、その良き理解者とされるエルモとクッキーモンスターで、そのポスターは、全国の自治体を通じて、学校、保育所、福祉関係施設、地域の公民館等に加え、医療機関や鉄道会社に、7万部配布されたとのことです。
参考:
セサミストリート
セサミって?[セサミストリートとは?]
http://sesame-street.jp/about/index.html
YouTube
セサミストリート日本公式
https://www.youtube.com/channel/UCEQUPKIGWd9gCitecH1S_fA
Meet Julia
https://www.youtube.com/watch?v=uJEM_fQfcCg&t=4s
Bringing Julia to Life
https://www.youtube.com/watch?v=HhzfHVmSLRU
SESAME STREET
Sesame Street and Autism
https://autism.sesamestreet.org/
TV Guide’s official YouTube channel
How Sesame Street Addresses Autism Through Julia
https://www.youtube.com/watch?v=n0Tx6jxmq_s
Autism Live
Sesame Street “Julia” Puppeteer Stacey Gordon
https://www.youtube.com/watch?v=5IYyRtBw8hI
厚労省
発達障害の啓発に『セサミストリート』の人気キャラクターを起用
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000194959.html
3. 自閉症とは? ~ 自閉症の一般的な特徴
「図-自閉症スペクトラム障害の一般的な特徴」
これまで、「セサミストリートが自閉症を正面から扱っていること」を見てきました。ここで、改めて、自閉症とは何か? を見ていきます。
自閉症は、近年では、アスペルガー症候群などとともに、本質的には同じひとつの障害単位であると考えられるようになってきています。実際、疾患や障害を分類するマニュアルである「DSM-5」では、自閉症スペクトラム障害という診断名で統一されるようになっています。
「スペクトラム」とは、「連続体」という意味。ひと言で言うなら、切れ目が不明確で、分けられない、あるいは、分けにくいという特徴があると言えるかもしれません。
その典型的な特徴である自閉的特徴には、対人関係・コミュニケーションの障害、興味や行動の偏りやこだわりの大きくは2つがあります。
社会で常識とされるようなことや、暗黙のルールといったものに無頓着であるという特性です。
この特性により、その場の空気や相手の様子などを読むことができない、周囲に配慮しながら行動することができない、あいさつや礼儀をわきまえない、間違っていても謝らない、といった行動に結びつきがちです。
そのため、ご本人には全く悪気はないのに、「非常識」「自己中心的」と見られやすくなり、他人の怒りをかってしまうことにつながる場合が多くあると言われています。
一方でこの特性は、周囲に関係なく自由な発想ができる、孤立してもやり続けられる・やり遂げられる、周囲の感情に惑わされないといった、長所となることでもあります。
自分の興味のあることや、頭に浮かぶことを次々話す、といった特性です。
この特性は、相手に興味があるかないかに関わらず話し続ける、相手の話はまったく聞かず一方通行で話す、相手が話している途中で他のことを始める、といった行動に結びつきがちとされています。
また、仲間と一緒に何かをやるといった場面で他人の言うことはまったく聞かなかったり、休憩時間と勉強時間などの切り替えができずに話し続けたり、といった問題を起こす場合もあるようです。
一方でそれは、印象に残ったことを率直に話せる、独特の言い回しなどが面白い、あることについてとことん話を続けられる、といった長所にもなることと考えられます。
決められた手順や一度決めたルールなどに徹底してこだわる、という特性です。
このため、突然のスケジュール変更や中止、ルールの変更、などを極端に嫌がり、時にパニック状態になったりする場合もあると言われています。これは、次に何が起こるか、どんなことが起きる可能性があるか、といった想像力を働かせることがニガテであることが原因と考えられます。
また、例外を認めなかったり、他人の誤りを許さなかったり、といったことも、同じ特性が原因であらわれがちのようです。
ただ、この特性は、物事に真剣に取り組む、単純作業などを嫌がらずに続けられる、規則正しく生活できる、記憶力が高いなどの長所となってあらわれるとも言えるのです。
他にも、自閉症のある方は、さまざまな刺激に対して過敏であるケースも多いようです。たとえば、音、光、色、臭いなど、さまざまなものが考えられますが、これにも個人差があるとのこと。
自閉症スペクトラム障害なら、すべての方が同じように、刺激に対して過敏というわけではないという点に注意が必要と言うこと。つまり、一人ひとりということです。
【関連記事】
自閉症スペクトラム障害とは?https://jlsa-net.jp/zhi/z-spectrum/
自閉症とは? ~その特徴ととらえ方の広がり、支援のあり方https://jlsa-net.jp/zhi/ziheisyou/
参考:
内閣府
自閉症・発達障害の理解と対応
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/pdf/soudan/04/s6.pdf
厚労省
発達障害の理解のために
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html
国立精神・神経医療研究センター
http://www.ncnp.go.jp/
公益社団法人日本心理学会
医学的見方から― ASD の診断基準
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/10/67-5-8.pdf
4. 自閉症を理解して、そして、認める、接するために
上記のような自閉症の特徴を理解することは、自閉症のある方と接する際の大きなヒントになると言えるでしょう。
そして、セサミストリートがジュリアを通じて示す「自閉症と正面から向き合うと言えるような態度」と、「自閉症のある方への接し方」が、その基本として最も重要なことと言えるのではないかとも考えられます。
具体的な「接し方」としては、たとえば次のようなものが考えられるわけですが、その基本にあるのは、「相手を尊敬する心や思いやりを大事にする」という、セサミストリートの基本的な姿勢・考え方と言えます。
(1) 簡単で、短い言葉で伝える
(2) いっしょに楽しむ
(3) 話したいことは黙って、しっかりと聞く
(4) ルールを守っていないときは、静かに教える
(5) 急な予定変更などを避ける
そもそも目指すべきは、このような接し方ができるようになることであり、あるいは適切な接し方を考えられるようになること。
その目的を優先するのであれば、より直接的に自閉症を扱うこと、つまり、「自閉症とは何か?」を直接的に表現するというセサミストリートの手法は、遠回しに「いろいろな個性を持つ人々がいる」と伝えるよりも有効である可能性が高いのではないかとも考えられるのです。
参考
内閣府 ホームページ
自閉症・発達障害の理解と対応
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/pdf/soudan/04/s6.pdf
YouTube
セサミストリート日本公式
https://www.youtube.com/channel/UCEQUPKIGWd9gCitecH1S_fA
Meet Julia
https://www.youtube.com/watch?v=uJEM_fQfcCg&t=4s
Bringing Julia to Life
https://www.youtube.com/watch?v=HhzfHVmSLRU
Autism Live
Sesame Street “Julia” Puppeteer Stacey Gordon
https://www.youtube.com/watch?v=5IYyRtBw8hI
最後に
セサミストリートは、アメリカで誕生した子ども向け教育番組で、その理想を、「子どもは社会全体の宝」「子どもたちの可能性がすべてに優先する」と掲げています。いずれの物語も、子育て支援や教育に関する啓発・意識改革を行っていくことを目的とされています。
セサミストリートには、2017年から自閉症のあるキャラクターであるジュリアが登場しています。
その登場場面である「Meet Julia・ジュリアの紹介」では、ジュリアは「自閉症なんだ」と、非常に直接的な表現で紹介され、続いて「何か聞かれても、すぐには答えられないことがある」「期待している返事や対応をしてくれないこともある」「みんなとやり方が違う、ジュリアスタイルがある」「時々、みんなには理解しにくいことをすることもある」といった特徴が説明されています。
このような取り上げ方は、少なくとも日本においては一般的とは言いにくい方法かもしれません。しかし、そもそもの目的としては、自閉症と気づけるようになることではなく、「では、どのように接すればよいのか?」を考えられるようになることが優先されるはず。
現実問題として、接し方がわからない限り、問題は何も解決しないからです。
また、同じことは、自閉症だけでなく、他の障害にも当てはまりますし、広く「多様性を受け入れる」ことにも通ずるはず。
そう考えると、まずは「〇〇は、こういうもの」という知識を与え、その上でどうしたら良いかを考えさせるような教育手法が、発達段階によってはより有効だと考えられるのかもしれません。
「多様性を受け入れ、その接し方を考えること」のきっかけとして、セサミストリートの日本公式サイトをのぞいてみて、子どもと一緒に考えるアプローチを試してみる価値は大いにあるのではないでしょうか。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
内閣府
自閉症・発達障害の理解と対応
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/pdf/soudan/04/s6.pdf
厚労省
発達障害の理解のために
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html
発達障害の啓発に『セサミストリート』の人気キャラクターを起用
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000194959.html
国立精神・神経医療研究センター
http://www.ncnp.go.jp/
公益社団法人日本心理学会
医学的見方から― ASD の診断基準
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/10/67-5-8.pdf
セサミストリート
セサミって?[セサミストリートとは?]
http://sesame-street.jp/about/index.html
YouTube
セサミストリート日本公式
https://www.youtube.com/channel/UCEQUPKIGWd9gCitecH1S_fA
Meet Julia
Bringing Julia to Life
SESAME STREET
Sesame Street and Autism
https://autism.sesamestreet.org/
TV Guide’s official YouTube channel
How Sesame Street Addresses Autism Through Julia
Autism Live
Sesame Street “Julia” Puppeteer Stacey Gordon
財形新聞
米ニューヨーク市に「セサミストリート」が実際に誕生
https://www.zaikei.co.jp/article/20190505/509211.html
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