認知症予防の脳トレに、外国語教育は効果的?
はじめに
認知症予防の脳トレに、外国語教育は効果的なのか。2025年には日本人のうち700万人が発症するとも言われている認知症。高齢者が患うものばかりではなく、若年性のものもあることから、社会的に大きな関心事となっていることは、みなさんもご存知でしょう。この国民病とも言えるほどの認知症を予防する、あるいはその進行をおさえる手段は世界的にも複数考案されています。
ここではその一つとして注目されている「外国語学習」を中心に、なぜ外国語学習が認知症の予防やその進行を遅らせることにつながるのか、その他の方法も含めた、予防法や進行の抑制方法のポイントなどについてまとめています。
1. 認知症予防や対策に脳トレ
認知症とは、生まれた後、いったん正常に発達した脳の細胞や神経機能が、さまざまな原因により、死んでしまったり、働きが悪くなったりすることで、「記憶・判断力の障害などが起こることで、社会生活や対人関係に支障が出ている状態(およそ6か月以上継続)」を言います。
その原因はさまざまあると言われていますが、「脳の疾患である」ということが何よりポイントです。
「脳の疾患」なのですから、「脳に良いことをすれば、認知症の予防になったり、認知症の進行を遅らせたりすることができるのではないか?」と考えるのは、非常に単純な発想ではありますが、極めて重要なポイントであるとも言えます。
認知症の症状は、その中核症状としての「記憶障害:自分が体験した過去の出来事に関する記憶が抜け落ちてしまう」「理解・判断力障害:日常生活の些細なことでも判断することができなくなる」「実行機能障害:ある目標に向かって、計画を立てて順序よく物事をおこなうことができなくなる」「見当識障害:時間・場所・人物や周囲の状況を正しく認識できなくなる」の4つの症状と、妄想、幻覚、せん妄、徘徊、抑うつ、人格変化、暴力行為、不潔行為、排泄物をもてあそぶといった行動・心理症状があるとされています。
これらの症状に対応する「脳のトレーニング」をすれば、認知症の発症予防に、また、認知症の進行を遅らせることにつながるのではないか・・・。このような発想の中で注目を集めているのが「脳トレ」と言えるでしょう。
参考:
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
日経電子版
アプリで脳トレーニング、コタツの中でも頭スッキリ
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO12706530Z00C17A2NZ1P01?channel=DF130120166121
2. 認知症対策に外国語教育
2013年、神経系医学の学術誌である「ニューロロジー」に、「複数の言語を話すバイリンガル、マルチリンガルの方は、そうでない方と比較して認知症の発症が最大5年遅い」との研究結果が報告されました。
そして外国語の学習は、たとえそれが短期間であっても、記憶力・言語能力・判断力・計算力・課題遂行力など、ものごとを理解して適切に実行するための機能である認知機能、つまり、脳に良い影響を与えることがわかってきたというのです。
「図-認知症対策としての外国語教育1」
外国語の学習と言うと、「外国語を流暢に話せるようになること」「外国語を使ってコミュニケーションができるようになること」をイメージするかもしれません。しかし、ここではそれが重要なのではありません。
外国語の学習は、話す・聞く・書く・読む・他者とコミュニケーションしようとするといった、認識力や判断力などあらゆる知能を総動員することから、外国語を理解しようと努力すること自体が脳にはたらきかけ、ひいては脳全体の運動になるということなのです。
「図-認知症対策としての外国語教育2」
また、認知症では、その障害が故に、先に見たような症状が発生するため、「できないことが増えていく→自分自身に自信を失う」という回路が働きがちだと言われています。
そのような状況に対して、たとえ2、3の単語であっても、それを覚えることができれば、「新しい情報を覚えることができた、できる」という実感を得ることになります。そして、ご本人がそれを事実として受け止め、また、次の目標を持つことにもつながります。
つまり外国語学習という新しい学びとその成果は、それがたとえ小さなものであったとしても、認知症を患った結果陥りがちな負の回路を断ち切り、「やればできる」といった自信を持つことにつながる面があると考えられるというわけです。
ここで注意が必要な点が1点あります。それは、他の脳トレに効果がないと言っているわけではないという点です。ただ、よく脳トレとして利用される数独やクロスワードパズルといったものは脳の一部の機能を使うもの。脳全体を使うという意味で、外国語学習の効果が高いのではないかととらえられているということです。
その点から考えれば、他にも多くの認知症予防に効果のあるトレーニングが存在するのではないかとも考えられます。たとえば、歌を歌いながら楽器を演奏するといったことは、その一つの例として考えられるでしょう。
「バイリンガルの方は認知症の発症が最大5年遅い」とする研究成果に着目し、高齢の方向けにバイリンガル教育を行う企業として誕生した「リンゴ・フラミンゴ」というスコットランドの社会的企業は、国中の高齢者施設やデイサービスなどで講座を開き、高齢の方向けに外国語を教えているとのこと。
その取り組みは、認知症の進行や脳の老化を遅らせる革新的な取り組みとして注目を集めているのだそうです。
では、外国語学習はどの程度、認知症予防や認知症の進行を遅らせることにつながるのでしょう? 定性的な事例として、以下のようなものがあるとのこと。
「重度の認知症のある女性は、何カ月も言葉を発さず、外国語であるイタリア語学習の講座でもじっと座っているだけだった。しかし、5回目の授業のあと、「チャオ」と声に出した。そして、最後の授業では、その言葉を紙に書き留めた。その方が何かを書いたのは、2年間で初めてのことだった」
「学ぶのには遅すぎる」と、一般的には考えられているものがあります。言語はその一つかもしれません。しかし、その目的をとらえなおせば、そうとばかりも言えない。むしろ、「何かを学ぶのに、遅すぎるということはない」ことを示す事例と言えるのかもしれません。
「リンゴ・フラミンゴ」は、ただ漫然と外国語の講義を高齢の方向けに実施しているわけではないことには注意が必要でしょう。実際に次のような点をポイントとして講座を展開しているとのこと。
1) 文字の大きいテキストを作る
2) 多くの記憶術を取り入れる
3) 対象となる高齢の方が理解しやすいシチュエーションをつくる
身体的な動きや、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった五感にはたらきかけるなど、脳の複数の部位が使われるようなプログラムであることが重要、ということです。具体的な事例としては、ある料理を作るにあたって、食材に触ったり、調理したり、飾り付けしたりしながら、関連する単語を学習し、講座の最後には作ったものをみんなで食べる、といった方法が考えられます。
参考:
Wiley Online Library
Does Bilingualism Influence Cognitive Aging?
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.24158
THE BIG ISSUE JAPAN VOL.345 2018.10.15
高齢者に外国語教育!?
3. 認知症予防やその進行を遅らせるには?
「図-認知症予防の視点」
では、脳トレや言語教育といった「脳のトレーニング」以外に、認知症予防やその進行を遅らせることにつながることに、どのようなものがあるのでしょう?
残念ながら直接的に、また、絶対に認知症にならない方法があると、言うことはできません。また、認知症は、発症した場合には「進行する」と言われています。つまり、これまでに見てきた「脳トレ」や外国語教育も含め、認知症を確実に予防できる、確実にその症状の進行を遅らせられるとは言えないのです。
一方で、認知症は脳の血管の障害、たとえば脳梗塞や脳出血などでも場合によっては生じることが知られています。この事実も踏まえると、脳の状態を良好に保つことは、認知症の予防につながると考えられる、とは言えるのです。
認知症の予防に関連して、以下のような言葉があります。
「Remember、 what’s good for your heart is good for your head.」
「忘れるな! 心臓に良いことは脳に良い」
つまり、認知症になりにくい状態にすることは可能。それは脳に良いことをする、ということで、その一つは心臓に良いことをすることだ、ということです。
言語学習を含め、その他の研究成果を含め、「認知症になりにくい生活習慣」は、以下のようにその一部をまとめることができます。
【関連記事】
認知症を予防する ~認知症予防に有効な生活習慣と呼吸の重要性
https://jlsa-net.jp/kn/ninchi-yobousyukan/
認知症予防に口腔ケアを! 認知症と口腔ケアの関係
https://jlsa-net.jp/kn/kn-koukucare/
参考:
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
日本脳神経学会
ガイドライン
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html
日本認知症学会
http://dementia.umin.jp/index.html
公益財団法人日本看護協会
認知症ケアガイドブック
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/ninchisyo/index.html
the Alzheimer’s Association
https://www.alz.org/we_can_help_be_heart_smart.asp
最後に
認知症を患う方は、2025年には700万人になるとも言われています。認知症はまさに日本の国民病とも言えるようなものであり、また、誰もが患う可能性があるものでもあります。このような状況は日本だけでなく、各国共通していることから、治療はもちろん、予防や症状の進行の抑制に関する研究も盛んにおこなわれています。
そのような中で、「外国語教育が認知症の予防や進行の抑制に効果がある」との研究があります。外国語を学習するということは、話す・聞く・書く・読む・他者とコミュニケーションしようとするといった、認識力や判断力などあらゆる知能を総動員することになります。
つまり、外国語を理解しようと努力することが脳にはたらきかけ、ひいては脳全体の運動になるため、効果が高いのではないかと考えられるということです。また、「単語を覚えられた」といった外国語学習における学びの成果は、「やればできる」といった自信を持つことにつながる面があるとも考えられます。
このように見ていくと、何も外国語学習だけが認知症の予防やその進行の抑制につながるものではないのではないかと推測できます。「何かをやろう、やりたい」という意欲を持ち、実際にそれにチャレンジする。そのような姿勢が、認知症予防や進行の抑制にもっとも重要なことなのかもしれません。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。
参考:
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
日本脳神経学会
ガイドライン
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html
日本認知症学会
http://dementia.umin.jp/index.html
公益財団法人日本看護協会
認知症ケアガイドブック
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/ninchisyo/index.html
日経電子版
アプリで脳トレーニング、コタツの中でも頭スッキリ
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO12706530Z00C17A2NZ1P01?channel=DF130120166121
the Alzheimer’s Association
https://www.alz.org/we_can_help_be_heart_smart.asp
Wiley Online Library
Does Bilingualism Influence Cognitive Aging?
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.24158
THE BIG ISSUE JAPAN VOL.345 2018.10.15
高齢者に外国語教育!?
この記事へのコメントはありません。