都市型農業にチャレンジする「青葉ファームランド」の挑戦1
全国地域生活支援機構では、障害者就労の拡大に向けて、積極的に事業に取り組んでいる施設運営者の方々に、定期的に取材させて頂き、障害のあるご本人・ご家族の方や、施設の方に向けて情報発信をしております。
都市型農業にチャレンジする就労継続支援B型施設「青葉ファームランド」の挑戦シリーズをお伝えします。
このシリーズも第3弾となりました。今回は、横浜で都市型農業にチャレンジしている「合同会社 青葉ファームランド」の三堀代表に取材をしてきました。民間企業出身の三堀代表が、どのようにして、利用者の方々と事業を展開しているのか、その挑戦する姿をお知らせします。
●取材日:2019年1月8日
●場所:横浜市青葉区鉄町
今回の取材は5部構成になっております。
第1部.青葉ファームランドを作るキッカケ・苦労話、働く環境の工夫
第2部.なぜ、シイタケ栽培を事業に選んだのか?
第3部.シイタケ栽培の現場レポート
第4部.乾燥野菜づくりの現場レポートと三堀さんがこれから目指すところ
第5部.横浜市議会議員 横山先生に聞く「横浜市の障害者就労の現状と都市型農福連携事業」について
についてお知らせいたします。
●取材にご協力頂いた方及びインタビュアーのご紹介
はじめに
1.青葉ファームランドさんのご紹介
「青葉ファームランド」様は、2018年1月より、横浜市青葉区鉄町で就労支援B型施設を営んでおられ、代表は三堀泰広さんです。
現在、シイタケの栽培をされており、3人の利用者様から事業をスタートして、1年後には13名。地元の高級スーパーやJA様などに販路をしっかり築いておられます。
この2019年2月には、JA所属の若手経営者が集まる「青年の主張」の全国大会で、ファイナリストにもなった注目の経営者の方です。
今回は、三堀代表に、青葉ファームランドさんを立ち上げるキッカケや、立ち上げまでの苦労話、そして、現在の事業内容や今後の事業展開についてお聞きしました。
2.横浜市青葉区の状況
三堀代表とのインタビューの中で、横浜市青葉区は人口31万人。そのうち、障害者手帳を持っている方は9000人程度。障害者就労という面からは、行政にも、地域住民の方にもまだまだ浸透していない状況であるとお聞きしました。
では、早速、インタビューの内容です。
第1部 青葉ファームランド立ち上げのキッカケや苦労話と働く環境の整備
1.青葉ファームランドを作ろうと思ったキッカケは?
加藤
三堀さん、こんにちは。この度は取材の件、ご快諾頂き、ありがとうございます。今日は、色々とお話を聴かせて頂きたいと思います。よろしくお願いします!
今回は、特に、障害のあるご本人・ご家族にとって、働く場として、農業のお仕事はとても興味のある分野だと思います。また、就労支援施設を運営している又はこれから運営する方にとっても、農業の分野は大変、興味があることと思います。
本日は、色々、詳しく教えて頂きたいと思います。よろしくお願いします。
三堀
こちらこそ、よろしくお願いします。
加藤
さて、三堀さんがこの「青葉ファームランド」さんを経営しようと思ったキッカケを教えて頂けますか?
三堀
私は高校を卒業後、羽田空港で荷物のバゲージの作業を3年ほど行い、その後、港のほうに移りトレーラーの運転をするなど10年ほど従事しておりました。
そんな時、2011年に東日本大震災が起きました。日々仕事をしている中で、時代が、そして、消費者が「安いもの」から、「安心・安全なもの」を求めていることを日々実感していました。
この時から、物を運ぶ側から、いつか作る側に回ってみたいという想いに駆られていました。特に、当時、私の子供はまだ小さく、食べさせるものは、「安心・安全なものを食べさせたい」という想いがありました。
それで、後先考えず、もう計画もなしに農業を始めることにしました(笑)。
幸いにも、ここに先祖の土地があったことも事業を始める後押しにもなりました。
加藤
最初は、どんなものを?
三堀
最初は、実家横の倉庫でタモギダケというキノコ栽培から始めました。
まずは、そこで一度試しにやってみて、そこから、力を付けることが重要と考えました。
特に大事なのが売り先です。まずは、出口をしっかりしないといけない。入口は、誰でも簡単に入れます。しかし、出口をしっかりし決めて行うことが重要だと思っていました。
加藤
最初は、ご自身で事業をスタートされたのですね。
しかし、そこからなぜ、障害者就労に?
三堀
たまたま、ある集まりで、たまプラーザ(横浜市青葉区にある駅)に在住されている方と知り合う機会がありました。実は、その方の息子さんは障害があるというお話をお聞きしました。お話を伺っている中で、その方は、お1人で行政と相談しながら、障害者就労の支援をされているとのこと。共感する部分がたくさんあったことも受けて、一緒に「やりませんか」とお声かけしました。
しかし、いざ、事業をスタートしようとすると、なかなかお互いのスタンスの違いが出てきてしまい、共同で事業を進めることはできなくなってしまいました。
ただ、私としては、「障害者の方とともに、農業を行う!」と周りに宣言もし、協力も頂きつつあったので・・・。もうそこは、引くに引けない、やめるわけにはいかない状況でした。
「やるしかない!」。そんな想いで、もうがむしゃらに事業を進めました。
加藤
なるほど、そういう状況だったんですね(笑)。
三堀
この青葉ファームランドは、今年(2019年)の1月で丁度1年になります。(2018年)1月1日に就労支援B型施設の認可を得て、1月は準備、2月から本格的にスタート。当初、3人の利用者さんからスタートしました。
我々は、障害者雇用は素人で、障害者の方の特性がわからない状況でした。福祉のプロではありませんが、この施設を運営する際の一番の基本を「皆さんに、来て楽しく仕事をして頂く事」というところを大事にして作業にあたってもらっています。
やっぱり、来て嫌な顔をして作業をされるのも、こちらもつらいですし、「楽しいな」と思ってやってもらうのが一番いいのかなあと思ってスタートしました。
2.青葉ファームランドを立ち上げまでの苦労話
加藤
では、立ち上げ時の苦労話を教えて頂けますか?
三堀
この(横浜市青葉区)鉄町辺りは、農業の調整区域の中でも農業振興政策の中で、農地に建物が建てられないという問題があります。本来ならば、作業所、事業所を一体で建てたいのですが、建物を建てることができませんでした。そこで、専門の方と協議をして、(近所の駅)市が尾に事務所を置くことにしました。
本来ならば、一体型の方が効率も経費の面からも良かったのですが、手続きに時間がかかってしまうことを考慮して、市が尾に事務所を置くというワンクッション置いて、事業を立ち上げることにしました。
加藤:
実際、どの位に期間が掛かったのでしょうか?
三堀:
3年以上かかりました(笑)。
実は、当初、手続きを自分で行っておりました。こういったことに精通している方に頼めば良かったのですが、そもそも誰に、どのように相談すればいいかわからなかったのです。
なので、自分が全部資料を作成していました。しかし、なかなかうまいこと行きません。はじめに建築課行って、今度は安全課行って、また福祉課行って・・・。こういう差し戻しが結構ありましたので、本当に大変でした(笑)。
そんな時、就労B型の申請に強い行政書士さんと出会うことができました。
そうしたら、実にすんなり進みまして(笑)。
加藤:
どのぐらいの期間で?
三堀:
たった4か月。
加藤:
3年かかったところを4か月で!
三堀:
4か月です(笑)。 こういうのもタイミングなんだと思いました。
加藤
事業をスタートされる際、次に、大事なのが利用者様にどう来てもらうか?という問題があるかと思います。どのような活動をされたのでしょうか?
三堀
はじめに、3人からスタートしました。現在(2019年1月)、13名になっています。
加藤:
そんなに! すごいですね。
三堀:
こればかりは、募集をして「どうぞ」と来るものではないのではありません。
自分達でチラシを配って、認識をしてもらうことが重要です。
最初は各区役所に相談しました。そこから、基幹相談支援センターにチラシを配り、そこから都筑区、港北区、緑区など、福祉の専門の事業所など思い当たるところ全部チラシを配りました。
今は、養護学校にも行っています。養護学校は今、麻生養護学校など3校にも募集をしております。それで、ようやくこの1年かけて13名の利用者の方に来て頂いております。
加藤
地道な活動をしっかりされているんですね。
三堀
はい、地道にやっております(笑)。
それから、我々と一緒に働く際には、まず、ご本人の方にうちに来て頂き、体験して頂きます。ちなみに、親御さんも来られたりします。とにかく、ご本人には、第一歩を踏み出して欲しいと思っております。
ただ、立ち上げた当初に、お一人の方が「責任が重たい」ということで辞めてしまいました。
この時、仕事を押し付けるのではなく、「本人が来たい」と思ってやらないと、なかなか続かないのが福祉なのかな?という面があることに気付かされました。
3.働きやすい環境づくりとものづくりの工夫、そして、営業努力!
加藤:
勤務体系とか、工夫されていることはありますか?
三堀:
うちは、9時半開所で、10時からこちらで作業して頂きます。1時間作業をして、10分休憩を取ってまた作業をする、という形です。障害者の方の特性上、集中力を持続させることはなかなか難しいことがあります。
発達障害やダウン症の方は、持続力が長いのですが、精神障害の方は、すぐに疲れてしまう傾向があります。ただ、農作業(シイタケの栽培や収穫や袋詰め)は楽しいらしく、しっかりお仕事をして頂いております。
なお、うちは、受け入れ体制として、三障害(精神・知的・身体)の方に対応しています。現在、人数的には精神障害の方が多いです。
加藤
今、青葉ファームランドさんでは、どのようなものを作られているのでしょうか?
三堀
シイタケがメインです。
加藤:
他には、どんなものを。
三堀:
今、乾燥のお野菜に力を入れています。というのも、私は今後、乾燥野菜が食卓の主流になっていくと思っています。
共働きの世帯や独り暮らしのお年寄りが増える中、大根1本買って、にんじん、キャベツも買っていく時代ではなくなってきているように感じております。
今、スーパーに行くと、一袋の中にカットされたミックス野菜が売れています。簡単に調理してすぐに出せることが求められる時代になってきていると感じています。また、お年寄りが増える中、重たい野菜持ち運ぶのは、とても大変です。しかし、乾燥野菜であれば、持ち運びも便利です。ということで、乾燥野菜に今、力を入れております。
この乾燥野菜の取組は、農協の青壮年部の仲間の協力してもらっています。余った野菜を「教材費」として提供してもらって、乾燥野菜にチャレンジしています。少しでも、付加価値の高いものにチャレンジし、工賃アップにつなげていきたいと思っております。
このカット野菜の取組は、農協の仲間達が、私が障害者就労に取り組んでいることを理解してくれていることも大きいです。乾燥野菜の話をすると、「それなら、協力するよ」という形で、野菜を提供してもらっています。
そして、実は農協さんにも協力してもらっています。近くのJA横浜 中里支店では、実際に販売のスペースも頂いて、販売を行っております。
加藤
三堀さんの取組みが、三堀さんを中心に、渦巻きのように、周りの方がドンドン吸い寄せられているようですね(笑)。
さて、お話を聴いていると、私はとても大事なポイントがあるように思いました。それは、販売という視点です。
私は、こういう取材をしていると、いくつかの障害者就労支援施設の方とお話を頂く機会があります。この時、福祉の視点が強すぎて、作ったものを「販売する」視点が薄いように感じるときがあります。
自分達が作れるものを売ろうとするのみで、販売努力をしていない。福祉目的で作業させるのが目的化してしまっているように感じるときがあります。とくに、営業努力をあまりしないという状況です。
三堀さんの話を聴くと、自分達のお客様は誰なのか? そのお客様は何を求めているのか? そのために、どういうものを作り出せばいいのかを実に良く考えて、事業をされていることがわかります。
三堀
その視点はとても重要ですね。実は、事業は誰でも簡単に行うことができます。しかし、出口(販売)をしっかり作っていかなければなりません。
我々は、今、農協さんを通して、御客様は誰なのかを知り、農作物や加工品を提供しています。そして、あざみ野ガーデンズ(近隣の方が愛用するちょっと高級な商業施設)のファームドゥさんにも、我々のシイタケを置いて頂いております。
こういうところに、商品を卸せるような力がついてきたと自負しております(笑)。
加藤
就労支援施設の運営で大事なことは、福祉的な側面はもちろん重要ですが、やはり、作ったものをどのように売るのか、販売や営業戦略が重要だということです。実は、この販売、営業努力ができていない施設が多いように感じております。三堀さんのような方が、今後、どんどん出てきてもらいたいと思います。
第1部は、ここまでとなります。
第2部は、なぜ、シイタケ栽培を事業に選んだのか? について、三堀様にお聞きした内容を掲載しております。
第2部はこちらから https://jlsa-net.jp/syuurou/afl2/
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