知能指数(IQ)とは?
はじめに
知能指数(IQ)は、世間一般でもよく耳にする指標です。その一方で、TV番組等で「IQ○○の問題」、「この人のIQは○○」といったように誤解を与えかねない使われ方がされている面がある指標であることも否定できません。ここでは、本来は慎重に取り扱う必要のある知能指数について、知能指数とは何か? それは何を表しているか? どのようにすれば有効に扱えるのか? といった点を中心にしつつ、実際の利用のされ方などを含めてまとめています。
1. 知能指数(IQ)とは?
「図-知能とは?」
知能指数(IQ)は、知能を数値として表現したものです。では、知能とは一体何でしょうか?
実は知能には、さまざまな定義があり、唯一絶対の定義はありません。以下にお示しするのは、世界大百科事典での定義をわかりやすく表現し直したものです。
ここでは大きくは3つのものに分けて考えることができるとされていますが、他にも6つに大別できるといったとらえ方があるなど、さまざまな分類の仕方やとらえ方があります。
1つ目のとらえ方は、「適応力」とする定義です。ここでは、知能は、新しい場面や困難な問題に直面したとき、本能的な方法ではなく、適切かつ有効な方法で順応したり解決したりする能力のことを指しています。
つまり、直感のようなものではなく、論理立てて対応策を考えるような力とでも言えるかもしれません。
2つ目のとらえ方は、「抽象的思考力・推理力・洞察力」といった能力であるという定義です。言語や記号などを用いて、概念のレベルで思考していく能力のことを指します。
つまり、実際に目に見えるような具体的な事象で考えるのではなく、抽象的な事柄で考えていけるような能力と言い換えられるでしょう。
3つ目のとらえ方は、知識や技能を、学習という経験によって獲得することができるかどうかということを表す「学習能力」が知能だという見方です。
知能指数は、IQとも呼ばれ、現在では平均値を100においたときの「同年齢の集団内での位置」を数値で表したものが一般的に利用されています。
ひと言で言えば、「知能を、数値で表したもの」ということです。なお、「同年齢集団内での位置」から数値化された知能指数の場合、70~130の間に95%程度の方が位置することになります。
一方で、既に見たように知能というものはさまざまなとらえ方があり、また、そのとらえ方の幅が広いため、単に知能指数と言っても必ずしも同じ意味を表しているわけではないという点で、その取扱いには注意が必要です。
知能検査を初めて開発したビネーによる、知能検査利用の際の3原則
このように、本来知能は知能指数というたった一つの数値でとらえるにはあまりに多くの問題がありますし、まして、たった一つの検査のみでとらえられるものではないと言えます。初の知能検査を開発したビネーもその点は大いに意識しており、次のような基本原則を示していました。
① (知能検査による)得点は、実用に役立つように考案されたもので、知能の実体ではない。得点はいかなる知的機能についての理論を証明するものでもないし、その数値が永続的なものであることを示してもいない。
② (知能検査における)尺度は、特別な支援を必要とする障害のある方を特定するための大雑把な経験的指標で、ランクづけするために考案されたものではない。
③ 特別な支援が必要であると認められた方について、その原因が何であれ、特別な訓練による改善に力点を置いて尺度を利用すること。よって、知能指数を有能・無能を判別するようなものとして用いられてはならない。
つまり、知能検査とその結果である知能指数は、目的や年齢などに応じて使い分ける必要があるものだということです。実際、知能検査には複数の検査方法がありますし、また、小学校入学後に受けることの多い知能検査は、一人ひとりに「最適な教育」を行いつつ、また、必要な支援をできるようにすることが目的となっています。
参考:
世界大百科事典 知能
https://kotobank.jp/word/%E7%9F%A5%E8%83%BD-96392
新潟大学 ホームページ
WISC-Ⅳの分析と活用
http://www.ed.niigata-u.ac.jp/~nagasawa/WISC.pdf
浜松学院大学 ホームページ
学校教育における知能検査の利用
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180225105028.pdf?id=ART0010364779
2. 知能検査の目的と知能指数の基準としての利用
知能検査を初めて考案したビネーがその基本3原則で示すとおり、知能検査は、評価そのものを目的にしているわけではなく、まして、人の能力の序列化を目的にしたものでもありません。
知能検査の目的は、その方の発達の状態や困難な状況に関して、知能指数という客観的な情報を得ることです。つまり、知能検査の結果得られた知能指数を判断材料の一つとして、最も適切な指導は何か、どのような支援が必要かを考えていくことが目的だということです。
知能検査の種類によっても異なりますが、知能検査の結果は得られる情報には以下のようなものがあります。
① 一人ひとりの方の知能面での発達の状況が、その方の年齢にふさわしい程度まで発達しているか
② 一人ひとりが持つさまざまな能力について、発達状況にバラツキがないか
知能検査によって導き出される知能指数(IQ)は、たとえば、基準として以下のような場面で用いられています。たとえば、特別な支援の検討が必要な方を抽出するための客観的な指標として用いられているということです。
世界保健機関(WHO)の<ICD-10>(国際疾病分類第10版)では、以下の基準を知的障害の程度判断に利用しています。
2005(平成 17)年度知的障害児(者)基礎調査結果の概要(平成 19 年 1 月 24 日)で、知的障害の定義は「知的機能の障害が発達期(おおむね 18 歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」とされています。
この中で、知能指数は、知的障害があるかどうかの判断基準の1つとなっており、その程度区分は以下のように設定されています。なお、知的障害の程度を判定するもう1つの基準は、日常生活能力です。
知的障害のある方が利用できる手帳制度に療育手帳があります。この交付基準として知能指数が利用されています。
【関連記事】
知的障害のある方を支える福祉サービス ~ 療育手帳制度とは?
https://jlsa-net.jp/ti/chi-fservice/
厚労省のガイドラインでは、障害の程度及び判定基準を重度(A)とそれ以外(B)に区分しています。
1) 重度(A)の基準
・知能指数が概ね35以下であって、次のいずれかに該当する者
食事、着脱衣、排便及び洗面等日常生活の介助を必要とする。
異食、興奮などの問題行動を有する。
・知能指数が概ね50以下であって、盲、ろうあ、肢体不自由等を有する者
2) それ以外(B)の基準
重度(A)のもの以外
療育手帳の交付認定は、上記の厚労省のガイドラインに対応させる形で、各都道府県がそれぞれ基準を設定し、実際の運用を行うことになります。たとえば東京都の場合、療育手帳である愛の手帳の交付基準を以下のように設定しています。
東京都の場合、知能指数が75以下の方が療育手帳の交付対象となっていますが、70以下を交付対象としている自治体もあります
参考:
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所ホームページ
アセスメントについて
http://forum.nise.go.jp/soudan-db/htdocs/index.php?key=muy7v5g0c-477
厚労省ホームページ
知的障害児(者)基礎調査:調査の結果
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/101-1c.html
障害者の範囲
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1031-10e_0001.pdf
東京都福祉保健局 東京都児童相談センター・児童相談所ホームページ
愛の手帳
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/ji_annai/a_techou.html
3. 知能指数の利用の応用
知能指数は、評価することそのものを目的にはしていません。とはいえ、指導・支援の検討のみにしか使えないというわけでもありません。たとえば、次のような発達障害の診断の場面などで知能検査やその結果である知能指数が利用されています。
自閉症スペクトラム障害は対人コミュニケーションに困難さがあり、限定された行動、興味、反復行動といった点が特徴的な障害です。自閉症スペクトラム障害では、知的障害を伴わない場合があります。つまり、知的障害の有無を明らかにしつつ、必要な支援を検討するということです。
【関連記事】
自閉症スペクトラム障害とは?
https://jlsa-net.jp/zhi/z-spectrum/
ADHDは、不注意・多動性・衝動性の3つの症状が特徴的な発達障害です。この3つの特徴は、必ずしもすべてが表れるわけではありません。ADHDは必ずしも知的障害を伴わないため、それを明らかにしつつ、ADHDであることに対する困難に対して、必要な支援を検討することになります。
【関連記事】
注意欠陥多動性障害(AD/HD)とは?
https://jlsa-net.jp/hattatsu/adhd/
子どもに早期療育を行う場合、その効果を見極める指標として、知能検査の結果の変化が参考にされる場合があります。早期療育とは、発達の遅れが見られる方に対して専門的な教育プログラムやトレーニングを実施することを言います。
学習障害は、全般的な知的発達に遅れがない一方で、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のうちのいずれか、または、複数の能力の習得に著しい困難を示す発達障害です。「全般的な知的発達に遅れがない」ということからわかるとおり、知能検査を受けられると知能指数は正常の発達範囲内を示します。
よって、測定された知能指数と学習到達度との間でギャップが大きい場合など、学習障害の可能性を検討する必要が出てくるということです。
【関連記事】
発達障害の1つ、学習障害とは?
https://jlsa-net.jp/hattatsu/gakusyu-syogai/
参考:
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
LD・ADHD・高機能自閉症
http://forum.nise.go.jp/soudan-db/htdocs/?page_id=289
4. 知能検査の方法
「図-主な知能検査の方法」
知能検査には、さまざまな種類のものがあります。知能検査を検査内容で分類すると、言語を用いた課題で知能指数を測定する検査である「A式」と、言語を用いず数字や図形などを用いた課題で知能指数を測定する検査「B式」、「A式」と「B式」とのどちらの要素も取り入れた検査「AB式」に大別することができます。
代表的な知能検査には、次のようなものがありますが、知能検査をする目的や測定する時の学齢、ご自身の障害の内容などに合わせて選択することが大切になります。
「田中ビネー知能検査」は、ビネーが開発し発展させてきた知能検査を日本で利用することを目的に改定された知能検査です。知的な能力をおおまかに把握し、何歳くらいの知的な力をもっているかを知ることに適しています。
ウェクスラー式知能検査は、児童期や成人期においてもっともよく使われる知能検査です。個人の得意・不得意などの特徴を知ることに適しているため、指導や支援の手立てを検討するための資料として広く活用されています。ウェクスラー式には、成人向けのWAIS、児童向けのWISC、幼児向けのWPPSIといったものがあります。
K-ABC知能検査は、その方の得意な課題の処理の仕方である「認知処理の方法」を知ることに適した知能検査です。教育的支援に活かす検査として用いられる場合が多い検査でもあります。
参考:
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所
主な知能検査とその特徴
http://forum.nise.go.jp/soudan-db/htdocs/index.php?key=murmoad8q-476
掛川市ホームページ
発達・知能検査について知ろう
http://www.city.kakegawa.shizuoka.jp/data/open/cnt/3/14316/1/22-24.pdf
5. 知能検査を受けるには?
知能検査を受けることを検討されているようなら、まず保健センター、子育て支援センター、児童相談所、発達障害者支援センターといった相談窓口に相談することをおすすめします。というのも、その背景には何らかの障害を疑われているから知能検査を受けたいのだろうと考えられるからです。
各相談窓口では、知能検査を受けられる公的病院や民間病院を紹介してくれる場合がありますし、知能検査を受けるということ以外に、必要な情報が得られたり、必要な支援を受けられたりする場合もあります。
参考:
東京都福祉保健局ホームページ
発達障害
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/hattatsushougai.html
東京都発達障害者支援センター ホームページ
http://www.tosca-net.com/
最後に
知能指数(IQ)は、一人ひとりに適切な教育をしたり、必要な支援を行ったりする際の「対象化」や、教育や支援の「効果の測定」などで利用される客観的な数値です。ただ、知能指数を測定する知能検査には、「知能とは何か?」というとらえ方の違いもあることから複数の種類のものがあります。つまり、知能指数は目的に合わせて利用すべきだということです。
知能指数は、数字であるがために、一人歩きしやすいものでもありますし、誤った使われ方をされる可能性もある非常に取り扱いの難しいものです。知能検査を始めた開発したビネーが指摘するように、「知能指数は、実用のための大雑把な指標である」という点に注意しながら扱っていくことが非常に重要になると言えるでしょう。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
世界大百科事典 知能
https://kotobank.jp/word/%E7%9F%A5%E8%83%BD-96392
新潟大学 ホームページ
WISC-Ⅳの分析と活用
http://www.ed.niigata-u.ac.jp/~nagasawa/WISC.pdf
浜松学院大学 ホームページ
学校教育における知能検査の利用
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180225105028.pdf?id=ART0010364779
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所ホームページ
アセスメントについて
http://forum.nise.go.jp/soudan-db/htdocs/index.php?key=muy7v5g0c-477
LD・ADHD・高機能自閉症
http://forum.nise.go.jp/soudan-db/htdocs/?page_id=289
主な知能検査とその特徴
http://forum.nise.go.jp/soudan-db/htdocs/index.php?key=murmoad8q-476
厚労省ホームページ
知的障害児(者)基礎調査:調査の結果
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/101-1c.html
障害者の範囲
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1031-10e_0001.pdf
東京都福祉保健局 東京都児童相談センター・児童相談所ホームページ
愛の手帳
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/jicen/ji_annai/a_techou.html
掛川市ホームページ
発達・知能検査について知ろう
http://www.city.kakegawa.shizuoka.jp/data/open/cnt/3/14316/1/22-24.pdf
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