睡眠障害とは? 治療と予防のポイント
はじめに
睡眠障害とは何か。睡眠障害の治療と予防のポイントについてお知らせします。さて、健康のために睡眠はたいへん重要です。睡眠は、心身の疲労回復をもたらすとともに、記憶を定着させる、免疫機能を強化するといった役割も担っています。
つまり良質な睡眠は、活力ある日常生活につながるのです。一方で、睡眠に問題を抱える日本人は多くいると言われています。
ここでは、睡眠における問題が慢性化している状態である睡眠障害について、睡眠障害の種類や睡眠障害により問題になること、睡眠障害にならないためのポイントなどを中心にまとめています。
1. 睡眠障害とは?
睡眠障害と言うと「眠れないこと」を真っ先に思い出すかもしれませんが、実際には様々な病気の総称で、睡眠に何らかの問題がある状態を言います。
睡眠障害は日本の国民病とでも言えるようなもので、たとえば不眠で言えば一般成人のうち2割程度が悩んでおり、約15%が日中の眠気を自覚しているとの調査結果があります。
つまり1500万~2000万人の人が睡眠に関する悩みがあるということであり、睡眠障害全体で言えば、その数はさらに多くなると予想されるのです。
「図-睡眠障害」
睡眠障害は睡眠に関連した多種多様な病気の総称ですが、大きく分類すると不眠症・過眠症・睡眠時随伴症の3つがあります。
睡眠障害の中で最も多いのがこの不眠症です。不眠症とは眠ろうとしているのにどうしても眠れないという状態が1カ月以上に渡って続き、日中の生活の質の低下が、不眠による心身の不具合・不調によって引き起こされている状態を言います。
心配事があるとき、試験前、旅行先など、人は誰でもが「眠ろうとしているのに眠れない」という経験をするものです。しかし通常は、数日から数週間の内には自然と眠れるようになるものです。
一方で不眠症は自然に眠れる状態にならず、日中に、倦怠感・意欲低下・集中力低下・抑うつ・頭の重さ・めまい・食欲不振など、さまざまな不調があらわれます。
なお、不眠症は次の4つのタイプに分類することができます。
1) 入眠障害
なかなか寝つけない、寝つきが悪いというものです
2) 中途覚醒
眠りが浅く、途中で何度も目が覚めてしまうというものです
3) 早期覚醒
早朝から目が覚めてしまうというものです
4) 熟眠障害
ある程度眠っているのに、ぐっすりと眠れたという満足感である休養感が得られないというものです
過眠症とは、夜間に十分に寝ているにもかかわらず、日中強い眠気が生じるものの総称です。代表的なものに、ナルコレプシーがあります。ナルコレプシーには、次のような特徴的な症状が見られます。
1) 睡眠発作
日中に強烈な眠気に襲われ、眠り込んでしまうという症状です
2) 情動脱力発作
笑ったり怒ったり驚いたりといった強い感情に伴って、「膝が笑う」「腰が抜ける」と表現されるような体の一部が急に脱力してしまう症状です
3) 入眠時幻覚
寝入りばなに見る現実的で鮮明な幻覚のことで、「金縛り」と呼ばれるようなものもその代表的な症状の一つです
睡眠時随伴症とは、いわゆる「寝ぼけ」行動の総称で、寝ぼけなどの運動面の問題としてあらわれるものと、夜尿や睡眠時無呼吸症候群など自律神経の問題が主なもの、その他のものとして悪夢など、3種類の症状に分類できます。
「図-睡眠障害の問題点」
睡眠の目的は疲労の回復であり、そのために重要になるのは十分な時間と、規則的な睡眠のリズムと言われています。
つまり、疲労を回復するのに必要な睡眠時間が確保できていない、シフトワークなどによる規則的な睡眠ができないといったことが、睡眠障害を引き起こすきっかけとなるということです。
日本人の睡眠時間は、子どもたち、就労者を中心に世界で最も短く、平日・週末問わず慢性的に寝不足状態の方が多いと言われています。このことが実は生活習慣病の発症にも影響しているのではないかと考えられています。
実際、慢性的な睡眠不足は、日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています。
たとえば、健康な人でも4時間睡眠、つまり寝不足をたった二日間続けただけで、10時間たっぷりと眠った日に比較して食欲が増大するとする調査結果があります。
これは、食欲を抑えるホルモンであるレプチン分泌が減少し、逆に食欲を高めるホルモンであるグレリン分泌が亢進するためです。
この結果からだけではなく、慢性的な寝不足状態にある方は、糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病を患いやすいことが明らかになっています。
また体内時計と生活時間との間にずれが生じ、体内時計にとって不適切な時間帯に食事を取ることも生活習慣病の原因のひとつになると推測されています。
夜間に活性化するタンパク質があるのですが、このタンパク質は脂肪を蓄積し分解を抑える作用を持っているのです。
睡眠障害自体がそもそも生活習慣病を引き起こすとも考えられています。たとえば、生活習慣病を患っている方は、以前から睡眠時無呼吸症候群や不眠症の方が多いことが知られています。
また、その他にも高血圧・心不全・虚血性心疾患・脳血管障害にかかりやすくなったり、交感神経の緊張によるうつ病などの精神障害の発症リスクを高めたりすることが、多くの研究によって明らかになりつつあるのです。
健康づくりに大切な視点は複数あります。栄養・食生活の管理、適度な身体活動・運動、禁煙・節酒などが、生活習慣病である糖尿病・脂質異常症・高血圧・高尿酸血症などの原因になっているとされていることは多くの方がご存知でしょう。
実はその他に、十分な睡眠の確保が重要ともされているのです。このことは、厚労省が推進する21世紀における国民健康づくり運動、通称健康日本21でも語られていることです。
不十分な睡眠が直接引き起こす可能性があるものが睡眠障害。だとすれば、睡眠障害はそもそも生活習慣病と言い換えても良いものだ、ということです。
参考:
厚労省ホームページ
健康日本21
http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/top.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
睡眠障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_sleep.html
厚労省 e-ヘルスネットホームページ
睡眠障害
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-027.html
睡眠と生活習慣病との深い関係
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html
不眠症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
睡眠時随伴症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-025.html
国立精神・神経医療研究センター 睡眠医療プラットフォーム
過眠症
http://sleepmed.jp/platform/entry15.html
2. 睡眠障害、こんな症状が見られたら
睡眠障害のサインや症状は、不眠、日中の過剰な眠気、睡眠中に起こる異常行動や異常知覚・異常運動、睡眠・覚醒リズムの問題、の大きくは4つにまとめられます。以下のような症状を自覚していたり、周囲の方から指摘されたりしている場合、専門医の診察を受けることが大切になると言えるでしょう。
不眠症である可能性があります
夜十分眠っているのに日中眠い場合、過眠症である可能性があります。
むずむず脚症候群である可能性があります
概日リズム睡眠障害である可能性があります
睡眠時無呼吸症候群である可能性があります
睡眠時随伴症である可能性があります
周期性四肢運動障害である可能性があります
参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
睡眠障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_sleep.html
厚労省 e-ヘルスネットホームページ
睡眠障害
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-027.html
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 ホームページ
「睡眠障害」
http://www.seikatsusyukanbyo.com/statistics/disease/dyssomnia/
3. 睡眠障害の治療
睡眠障害は睡眠に何らかの問題があるさまざまな病気の総称であるため、その中にはさまざまな疾患が含まれているのですが、その疾患によって治療法が異なります。
よって症状、診察や検査から、その原因となる疾患が何か診断を受けること、原因に応じた治療を受けることが重要です。
不眠治療は睡眠薬を用いた薬物療法が中心です。副作用の心配をされる方も多いようですが、現在治療に用いられる睡眠薬は不安や緊張・興奮をやわらげて眠りに導くもの。
よって自然に近い眠りが得られ、副作用も少なく安心して使えることがわかっています。ただし、アルコールと一緒に摂取しないなど、医師の指示に従った服用が重要です。
重症度によって治療法が異なりますが、治療においては経鼻的持続陽圧呼吸療法(鼻CPAP療法)や口腔内装置などが使われます。肥満がある場合は、気道をふさいでいることなどが考えられるため、一定程度のダイエットが必要と考えられます。
また飲酒や睡眠薬が症状を悪化させると考えられるため、抑制が必要と言えます。
抗てんかん薬や抗パーキンソン病薬などを使った薬物療法が一般的です。
まずは夜間に十分な睡眠をとり、規則的な生活を取り戻すことが重要と考えられます。昼休みなどを利用して、短時間の昼寝をうまく取り入れることも検討するとよいとされています。
その重症度によっては眠気に対して中枢神経刺激薬が使用されることがあります。
ストレスなどが関与している場合があると考えられています。よって、ストレスの発散・軽減する習慣を身につけることがまずは大切と言えます。睡眠中の寝ぼけ行動がある場合は、危険に配慮した寝室環境づくりも必要です。
症状次第では、薬物療法として、睡眠薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬などが使われる場合があります。
体内時計を整える、あるいはリセットすることがまずは大切と考えられています。一日のリズムづくりには、朝、太陽の光を浴びることが効果的とされています。休日でも同じ時刻に起きることも大切です。
また、睡眠薬やサプリメントは専門医の診察を受けた上で利用すべきと言えます。
参考
厚労省ホームページ
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
睡眠障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_sleep.html
厚労省 e-ヘルスネットホームページ
睡眠障害
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-027.html
不眠症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
睡眠時随伴症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-025.html
国立精神・神経医療研究センター 睡眠医療プラットフォーム
過眠症
http://sleepmed.jp/platform/entry15.html
日本睡眠学会 ホームページ
睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン~出口を見据えた不眠医療マニュアル~
http://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf
日本神経治療学会 ホームページ
標準的神経治療:不眠・過眠と概日リズム障害
https://www.jsnt.gr.jp/guideline/fuminkamin.html
4. 睡眠障害にならないために大切なこと ~ 厚労省が提示する12の指針
「図-睡眠障害にならないために」
睡眠障害にならないために大切なこととして、厚労省が「健康づくりのための睡眠指針」の中で「睡眠12箇条」を提示しています。
科学的な根拠に基づく指針でもあることから、睡眠障害にならないためのポイントとも言えますので、その内容を確認してみましょう。
睡眠には心身の疲労を回復する効果があるため、質・量の充実が必要だということです。
適度な運動は入眠を促進するほか、途中で起きてしまうようなことを抑制する効果もあります。また、朝食を摂れば朝の目覚めを促します。「睡眠を中心に日々の生活のリズムを整えるという考え方ができる」と言い換えても良いでしょう。
すでに見た通り、睡眠の質の低下は生活習慣病の原因になりえるものであり、睡眠障害は生活習慣病のひとつとも言えるようなものだということです。
ただ睡眠を取ればよいというわけではなく、しっかりとした「休養感」、つまり、「疲労からの回復感が得られること」が大切だということです。睡眠の質や量を考えるときには、この「休養感」の視点からとらえることが重要でしょう。
加齢に伴い睡眠時間は減ったり、朝型化が進んだりすると言われています。また、夏場と冬場とでは、夜の時間の長さも異なります。
昼寝も含めた睡眠習慣づけは大切ではありますが、このような自然のリズムにも注目し、眠る時刻や起きる時刻、睡眠時間にこだわりすぎることなく、「日中眠気で困るようなことがないよう睡眠をとること」に、より重点を置くとよいと言えるでしょう。
良質な睡眠には、騒音、日当たり、寝るときの明るさ、テレビやラジオの光や音、IT機器やスマートフォンなどのデバイスを遠ざけるなど、睡眠に適した環境づくりも重要と言えます。
若年世代は、世界的にも平日と休日では起床時間が2~3時間違うなど、睡眠習慣が変動しやすいことがわかっています。このことが睡眠の質の低下に影響しますし、それが重症化して睡眠障害につながることもあります。
特に長期休暇などに注意が必要とも言えます。
必要な睡眠時間は人それぞれ。また年齢や時期によっても変わると考えられます。よって、何時間眠るかを目標にするのではなく、睡眠によって十分な休養感を得られることを視点に、睡眠をとらえるとよいと言えるでしょう。
現役世代と違い、日中の活動量が減りがちであるのがここで言う熟年世代と言えるでしょう。
適度な運動は、入眠効果があるだけでなく、途中で起きてしまうことを抑制する効果もありますので、日ごろからの運動習慣が非常に重要になると言えるでしょう。
寝つける時間は、日中の活動の状況によっても変わるもの。
よって、就寝時刻にこだわる必要はないと言えます。むしろ注意したいのは起床時刻。なるべく一定の時刻に起き、朝陽を浴びることが体内時計のリズムを整える意味でも大切になります。
いつもと違う睡眠とは、激しいいびきや呼吸停止、手足のぴくつきや歯ぎしりと言ったものです。たとえばいびきは睡眠時無呼吸症候群などの可能性もありますので、早めに専門医に相談することが大切と言えます。
眠れないことだけでなく、睡眠に関して何らかの困りごとがあるようなら、早めに専門医に相談することが大切です。
参考:
厚労省ホームページ
健康づくりのための睡眠指針2014
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
最後に
睡眠障害は、眠れないことが特徴である不眠以外にも、多くの睡眠の問題に関する問題を総称するものです。睡眠障害は患う方が多いもので、たとえば不眠症などは日本人の2割があてはまるとも言われています。
睡眠の質の低下は、日中の生産性の低下などだけでなく、生活習慣病のリスク、うつ病などの他の精神障害の発症リスクなどを高める可能性があるため、早めに改善することが大切です。
睡眠の質を保つには、厚労省が提示している12の指針なども参考にした睡眠習慣づくりが大切になると言えます。特に起床時刻を一定に保ちつつ、「休養感」に着目した就寝時刻の調整が良質な睡眠には欠かせないと言えるでしょう。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考
厚労省ホームページ
健康づくりのための睡眠指針2014
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
健康日本21
http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/top.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
睡眠障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_sleep.html
厚労省 e-ヘルスネットホームページ
睡眠障害
睡眠と生活習慣病との深い関係
不眠症
睡眠時随伴症
首相官邸ホームページ
(2) 睡眠と健康
https://www.kantei.go.jp/jp/joho/large1/medium5/small1_4/small2_1/small3_2.html
国立精神・神経医療研究センター 睡眠医療プラットフォーム
過眠症
http://sleepmed.jp/platform/entry15.html
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 ホームページ
「睡眠障害」
http://www.seikatsusyukanbyo.com/statistics/disease/dyssomnia/
日本睡眠学会 ホームページ
睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン~出口を見据えた不眠医療マニュアル~
http://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf
日本神経治療学会 ホームページ
標準的神経治療:不眠・過眠と概日リズム障害
https://www.jsnt.gr.jp/guideline/fuminkamin.html
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