強度行動障害の症状と原因、構造化アプローチの有効性
はじめに
強度行動障害の症状と原因、構造化アプローチの有効性について。強度行動障害は、正しい理解がされていない面があります。その理由の一つとして、そもそもそれを知らないということの他、「障害」という言葉がついているがために生じる誤解、また、そのメカニズムの理解の不足があることなどが考えられます。
ここでは、強度行動障害とは一体何か? ということを中心に、見られる症状や、その症状の原因として考えられること、その対応として有効とされている方法などについてまとめています。
1. 強度行動障害とは?
「図-強度行動障害とは?」
強度行動障害を、行動障害児(者)研究会は、
「精神科的な診断として定義される群とは異なり、直接的他害(噛み付き、頭突き等)や、間接的他害(睡眠の乱れ、同一性の保持等)、自傷行為等が通常考えられない頻度と形式で出現し、その養育環境では著しく処遇の困難な者であり、行動的に定義される群。
家庭にあって通常の育て方をし、かなりの養育努力があっても著しい処遇困難が持続している状態。」と定義し、さらに、「家庭にあって通常の育て方をし、かなりの養育努力があっても著しい処遇困難が持続している状態」としています。
この定義は、整理すると次のように言い換えることができるでしょう。
① 強度行動障害は、うつ病といったような精神障害・疾患の名称ではない
② 強度行動障害は、さまざまな養育上の努力をしていても、行動面の問題が継続して見られるものである
③ 強度行動障害で見られる行動面の問題には次のようなものがあるが、必ずしもこれらすべてが見られるわけではない
1) 噛み付きや頭突きといった他者に対する直接的な「他害」行為
2) 「睡眠の乱れ」や、「ある特定の物や状況に対して異常に固執し、その状態を一定に保とうとする同一性の保持」といった間接的な「他害」行為
3) 自らの体を物理的に傷つけること、毒物や薬物の摂取やアルコールの過剰摂取などの「自傷」行為
強度行動障害に見られる症状、つまり、具体的な行動には、上記にあげたものの他にも、「器物などの破壊」「体を清潔に保たない、清潔な衣服を着用しないといった非衛生的な行動」「食べ物ではないものを口に入れる異食」などがあるとされています。
強度行動障害のある方の人数は、はっきりとしたことがわかっていません。というのも全国的な規模での調査が行われていないからです。ただ鳥取県で実施された調査からは、知的障害のある方が対象となっている療育手帳の交付数の1%程度であることが推計されています。
全国での療育手帳交付数はおよそ80万程度とされていることから、8000人程度の方に強度行動障害があると考えられます。
【関連記事】
知的障害のある方を支える福祉サービス ~ 療育手帳制度とは?
https://jlsa-net.jp/ti/chi-fservice/
参考:
厚労省
強度行動障害がある人
公益財団法人鉄道弘済会 総合福祉センター弘済学園
行動障害への支援
http://www.kousaikai.or.jp/school/service/behavior/
リハビリテーションセンター
発達障害に関係する資料 強度行動障害支援者研修資料
2. 強度行動障害のとらえ方 ~ 背景やそのメカニズム
強度行動障害は、先に見た通り、その人数さえもはっきりとわかっていないのが現実です。つまり、わかっていることが少ないのです。
一方で、まったく研究がされて来なかったかと言えばそうではありません。
これまで強度行動障害は、知的障害や自閉症傾向との関連が中心に研究されてきたという事実があり、実際強度行動障害が見られやすい方は、知的障害の程度が重く、かつ、自閉症に見られる特徴が強い方であることがわかっています。
「図-強度行動障害のメカニズム」
強度行動障害に見られる行動は、次のような回路が作られることで起こると考えられます
疾患などを含むご本人の特性により、周囲からの情報が正しく受け取れなかったり、非常に強く不快な刺激として感じられたりする
↓
「わからない」といった感情や不安感といった不快な感情が生じる
↓
それを理解してもらおうとするが、伝えたいことを、言葉以外の表現や行動を通じて伝えようとする
↓
自分の期待した効果が得られない
↓
「わからない」といった感情や不安感といった不快な感情が増幅する
ご本人の特性により上記のような回路が築かれ、それが何度もくり返されることで強化されていってしまい、その結果として、強度行動障害に見られるような行動をすると考えられるということです。
上記のような回路が作られ、さらに強化されてしまうという強度行動障害の背景にあるのは、ひと言で表現すると、「強度行動障害のある方の特性と環境がうまく合っていない」ということになります。
つまり、強度行動障害に見られる行動は、周囲を困らせるための行動ではなく、「ご本人が困っていることのサインだ」ととらえられるということです。
「図-強度行動障害、その根にあるもの」
自閉症も含、障害のある方は、知覚が鋭敏過ぎる方が少なくないと言われています。つまり感覚過敏の方が少なくないということです。
人が物事を知覚するには、「①体のさまざまな部位で、周囲の情報という刺激を受け取り、それが、②神経系を脳に伝わり、③脳がその刺激を情報処理して、感覚として受け取る、知覚する」というメカニズムが働くわけですが、感覚過敏は、「刺激の受け取り方」、「それを伝達する神経系」、「その刺激を受け取った脳の情報処理」のいずれかが過剰に働く状態なのです。
つまり強度行動障害は、感覚過敏などの知覚の違いにより、周囲からの刺激や情報を、一般的なものとは異なる受け取り方をしており、その不快さをうまく表現できないために、その状態を改善できないことがくり返されているということ。
つまり、感覚や知覚の違いが強度行動障害のそもそもの原因なのではないかと考えられるわけです。
感覚・知覚の違いに気づくには、刺激に対する反応に違いがあることを知ることが大切でしょう。その例を以下にあげてみます。
1) 聴覚への刺激に対する反応
ある特定の音などに対して耐えられない方もいれば、周囲の人が嫌がるような音にも無反応な方もいる。
2) 視覚への刺激に対する反応
キラキラ光るものなどに魅せられる方もいれば、パソコン画面の光が受け入れられない方もいる。
3) 触覚への刺激に対する反応
ちょっとした肌触りの違いが気になり、特定の衣類しか着ようとしない方もいれば、肌触りなどはまったく気にならない方もいる。
4) 味覚への刺激に対する反応
ある特定の味しか好まない、逆に特定の味が苦手などの理由により、極端な偏食が見られる方もいれば、好き嫌いがまったくないという方もいる。また成長とともに対象が変化する方もいる。
5) 嗅覚への刺激に対する反応
香水や整髪料の匂いに過敏な方もいれば、食べ物の臭いなどが気になる方もいる。
6) 痛覚への刺激に対する反応
注射などに異様なほどの恐怖心を覚える人もいれば、痛みに対してまったく無頓着な人もいる。
7) 前庭感覚への刺激に対する反応
強い揺れや動きに対して過度な恐怖や不安を感じる人もいれば、飛び跳ねたりくるくる回ったり、あるいは、トランポリンを跳び続けたりといった刺激が大好きという方もいる。
8) 固有感覚に対する刺激への反応
物をうまく運べなかったり、着脱に時間がかかったりする人もいる。
参考:
厚労省
リハビリテーションセンター
3. 強度行動障害のある方の支援
強度行動障害の対策は、これまでにさまざまな方法論などが検討されてきています。ただ、その取り組みは始まってまだ30年程度しか経っていません。他の疾患や障害などと比較してもそれほど長い期間、研究対象とされてきたものではないのです。
このため、標準的な支援というものは確立されてはいません。とは言え、各方法論などで共通するポイントは明らかになっており、以下の6つの枠組みでの支援が重要だと考えられるようになってきています。
① 構造化された環境の中での支援
② 医療と連携をしながらの支援
③ 強い刺激を避けた、リラックスできる環境での支援
④ 一貫した対応のできるチームによる支援
⑤ 自尊心を持ち一人でできる活動を増やす支援
⑥ 地域で継続的に生活できる体制整備の推進による支援
上記の枠組みの中で、わかりにくいのは構造化ではないでしょうか?
構造化とは、生活や学習などのさまざまな場面で、その意味を理解し、自分に何が期待されているのかをわかりやすく伝えたり設定したりするための方法で、特に「自閉症教育」の中では、従来から重視されてきた手法です。構造化の目的は、次のように整理することができます。
1) 理解をサポートする
人は、あまりに「自由にやってよい」と言われると、かえってどうしたらよいのかわからなくなったり、不安になったりする場合があるものです。強度行動障害のある方は、その傾向が非常に強いと考えられます。
そのため「いつ」、「どこで」、「何を」、「どのようなやり方で」、「どうなったら終わりなのか」、「次に何をすればよいか」という6つの情報を視覚的に示せば、理解をサポートでき、それまで抱えていた不安も軽減されると考えられています。
2) わからないことや不安などから生じる混乱を事前に防ぐ
強度行動障害がある方の多いと呼ばれる強い自閉症のある方は、場の読み取りや先の見通しを立てることが苦手なことが多いとされています。
そのため、幼いころから自分で考えて行動したことに対して、人から思いもよらない叱責を受けてしまう経験をしてきている場合が多いとのこと。
よって、「何をどのようにしたらいいのか」といった具体的な指示で活動や生活の中のしくみの理解を促せば、混乱を事前に防ぐ方法になると考えられています。
3) 必要な情報に注目できるようにする
様々な刺激を受け取ってしまったり、その逆に興味を持った所だけに目が行ってしまったりすると、本来焦点を当てるべき所を見ることができなくなってしまう場合があります。
落ち着いて今やるべき事柄に焦点を当てることが難しくなることが、問題となる行動につながるということです。よって、今必要となる情報のみに注目できるようにすることが大切だと考えられます。
4) 集中できるようにする
何に注目してやるのかに加えて、今やるべきことを、どれだけやれば終わるのか、いつ休めるのかといった先の見通しが立つと安心できますし、同時に集中力がアップすると考えらます。
5) 自立に向けて、自分で行動できるように促す
ここでいう自立とは、上手に周囲の人に助けを求めることが出来るということ。ただ、言葉による表現や理解が苦手な場合、同時に助けを求めるが苦手とも考えられます。
よって、構造化された状況の中で視覚的に整理された情報を頼りにして生活することが安心を生むと考えられるということです。
具体的な構造化の視点としては次のようなものがあります。
1) 物理的構造化 ~ 活動する場の視覚化
物理的構造化とは、家具、ついたて、カーペットなどを使い、各空間を物理的に区切ることで、各空間や場面で何をすればよいかを視覚的にわかりやすくすることを言います。たとえば教育の場で一人ひとりに必要となる「活動」には、大きくは次の4つがあります。
・勉強や作業をする
・遊ぶ
・その日や「この後」何をすればよいのか、個別のスケジュールを確認する
・感情的になったときなどに冷静になる
つまり、上記の4つの活動を行う場をそれぞれ用意し、その活動を行う場が視覚的にわかるようにすることが必要になるということです。
ただし、それぞれの場を作ればそれで良いというわけではありません。上記の3点目にある「スケジュールの確認」をあらゆる活動の「中継点」ととらえた上で導線を考えれば、日々の活動の流れがスムーズになる「各活動の場」を配置しやすくなります。
この考え方は学校の教室のような教育の場だけでなく、家庭でも応用できるものと言えるでしょう。
2) 時間の構造化
時間の構造化とは、その日のスケジュールなどの可視化と言い換えてもよいでしょう。
このとき重視すべきは、本人が落ち着いて、主体的に活動できるようにすること。よって、内容や順番を視覚的に示す、 「始め」と「終わり」を明確に示すなど、一人ひとりの理解度に合わせて、活動予定について見通しを持てるようにしていくことが重要になります。
やることを視覚的に示していくことで、見通しを持てるように工夫していくことになりますが、このような工夫が、不安に思うことなく、安心して学習や作業に取り組むことにつながるのです。
3) 活動の構造化 ~ 活動そのものの視覚化
活動の構造化は、時間の構造化の一部と考えても良いかもしれません。
あえて分ける場合、時間の構造化が1日の活動全体の流れであるのに対し、活動の構造化は、1日の各活動一つひとつを要素に分解し、何をするのか、どうするのか、どうなると終わりになるのかといったことをより具体的に示すことととらえれば、わかりやすいでしょう。
たとえば、カバンと財布を示すことで外出活動を行うことを示したり、学習に必要となる道具を机の上に並べる順に示したりといった方法です。つまり、ある活動と必要となる行動とを紐づけ、主体的な行動を促すということです。
その際課題や活動の手順書などが多すぎるとわかりにくかったり、混乱したりする場合もあると考えられます。
指で指し示す、実物を提示する、写真や絵で示す、文字のカードで示す、文章で示すなど、一人ひとりの状況に合わせて「しくみとして工夫すること」が重要と言えるでしょう。
4) 言語環境の構造化
言語による指示に統一感を持たせることです。「表現手法」という幅広いとらえ方の中で、ある意味では「言葉の視覚化」と言える部分があります。
言語環境の構造化で大切なことは、一人ひとりの状況に合わせて「一度でわかる伝え方」にすること。
というのも、同じ指示でも言い方が異なることで、何が同じで何が異なるのかなど混乱しやすくなることが想定されるからです。言語環境の視覚化においては他にも以下のような注意点があります。
・その方にとって、わかりやすくシンプルな表現で統一
・具体的に伝える(代名詞や抽象的な表現、あいまいな伝え方をしない)
・否定的な言葉を避け、肯定的な表現に言い換える
例)「廊下を走らない」 → 「廊下は歩く」
【関連記事】
自閉症教育における「構造化」というキーワードとTEACCHプログラム
https://jlsa-net.jp/zhi/zhi-kouzouka/
参考:
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
自閉症教育における指導のポイント
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_a/a-34/a-34_2.pdf
自閉症教育のキーポイントとなる指導内容
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/395/a-34_1.pdf
北海道札幌養護学校 ホームページ
第2章 教育環境
http://www.sapporoyougo.hokkaido-c.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=85
静岡県ホームページ
静岡県特別支援教育体制推進事業 「自閉症の指導」研究実践事例集
https://www.pref.shizuoka.jp/kyouiku/kk-070/documents/jiheisyoujireisyuu.pdf
リハビリテーションセンター
最後に
強度行動障害とは、精神障害・精神疾患の名称ではなく、見られる行動面での問題に関する総称と言えるでしょう。
その具体的な問題となる行動としては、噛み付きや頭突きといった直接的な「他害」行為、「睡眠の乱れ」や、「同一性の保持」といった間接的な「他害」行為、自傷行為があります。
強度行動障害は、養育の放棄などが原因で起こっているものではなく、その根本原因は、知覚や感覚の違いと考えられています。
つまり、知覚や感覚が一般的なものと異なることにより、周囲からの刺激が非常に強いものと感じられ、それを解消しようとしているのに理解してもらえないということがくり返されることにより、あらわれているということです。
この強度行動障害の軽減には、構造化のアプローチが有効と考えられています。
これは、生活や学習などのさまざまな場面で、その意味を理解し、自分に何が期待されているのかをわかりやすく伝えたり設定したりするための方法です。
いずれにしても、強度行動障害が見られる場合には、ご本人は「何らかの困りごとがある」ということ。その根本的な問題に働きかけていくことが非常に重要になると考えられるということです。
なおこの記事に関連するサイト及び資料は下記の通りです。ご参考までにご確認ください。
参考:
厚労省
強度行動障害がある人
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000069196.pdf
公益財団法人鉄道弘済会 総合福祉センター弘済学園
行動障害への支援 http://www.kousaikai.or.jp/school/service/behavior/
リハビリテーションセンター
【資料】強度行動障害に関する研究と支援の歴史
http://www.rehab.go.jp/ddis_pdf/181c.pdf
発達障害に関係する資料 強度行動障害支援者研修資料
http://www.rehab.go.jp/ddis/%E7%99%BA%E9%81%94%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%B3%87%E6%96%99/%E7%A0%94%E4%BF%AE%E8%B3%87%E6%96%99/%E5%BC%B7%E5%BA%A6%E8%A1%8C%E5%8B%95%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E6%94%AF%E6%8F%B4%E8%80%85%E7%A0%94%E4%BF%AE%E8%B3%87%E6%96%99/
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
自閉症教育における指導のポイント
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_a/a-34/a-34_2.pdf
自閉症教育のキーポイントとなる指導内容
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/395/a-34_1.pdf
北海道札幌養護学校 ホームページ
第2章 教育環境
http://www.sapporoyougo.hokkaido-c.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=85
静岡県ホームページ
静岡県特別支援教育体制推進事業 「自閉症の指導」研究実践事例集
https://www.pref.shizuoka.jp/kyouiku/kk-070/documents/jiheisyoujireisyuu.pdf
この記事へのコメントはありません。