障害のある方が事件・事故の加害者となるリスクとその対策

障害者トラブル 加害事故
成年後見制度

はじめに
 障害のある方が事件・事故の加害者となるリスクとその対策について。障害の有無に関わらず、社会で生活するということは、事件や事故のリスクと背中合わせという面があります。また、交通事故などを例にとればわかるように、誰もが事件や事故の加害者になる可能性も否定できません。

ここでは、日本における犯罪や事故の動向を押さえつつ、障害のある方が事件や事故の加害者になる可能性と、万が一の備えとして、成年後見制度の活用や保険などの活用の仕方などをまとめました。



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1. 社会で生活する = 事件・事故に遭遇する可能性も高まるという現実
(1) 障害のある方の社会での活躍の場の広がり

① ノーマライゼーションという考え方の広がりとインクルーシブな社会

誰もがそれぞれを尊重し、支え合い、多様性を認め合える社会であること、は、障害の有無に関わらず、誰もが実現したい社会だと言えるでしょう。

「インクルーシブな社会」とは、「共生社会」とも呼ばれ、これまで必ずしも社会参加できるような環境になかった障害のある方などが、積極的に参加・貢献していくことができる社会のことを言います。

これは、「違いを吸収して全体を均一化することや、障害の有無によらず誰もが平等に生活する社会を実現する」という考え方である「ノーマライゼーション」を出発点としていると言えます。

このような考え方・目標は日本だけでなく、世界的に広がっている共通のものです。

【関連記事】
障害者の方が暮らしやすい社会づくりノーマライゼーションとは?
https://jlsa-net.jp/sks/sgs-nmlz/

② 社会環境への影響

インクルーシブな社会、ノーマライゼーションの考え方は、社会の環境整備に影響を与えています。

たとえば、法律面での整備、バリアフリーやユニバーサルデザインの考え方の取り入れ、インクルーシブ教育の導入などは、その代表的なものでしょう。徐々にではあるものの実現の段階に入ってきたと言い換えられるかもしれません。

③ 障害のある方の教育環境・就業環境の変化

「図-障害のある方の活動・活躍の場の広がり」
障害のある方の活動・活躍の場の広がり

このような考え方の広がりもあり、障害のある方が社会で活躍できる場も広がりつつあります。

1) 教育環境
 教育現場では、障害のある方の自立や社会参加に向けた主体的な取り組みを支援するという視点で「特別支援教育」が取り入れられています。

障害のある方が、持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善・克服するための指導をしようというのが「特別支援教育」です。具体的な形として、特別支援学校の他、特別支援学級、通級指導教室などがあります。

その中で、障害のある方、ない方が共に学ぶしくみとして、インクルーシブ教育も取り入れられています。障害のある方の学び方、学びの場が広がっているということであり、それに伴い、活動・活躍できる場も広がっているということになります。

【関連記事】
インクルーシブ教育とは? ~その基本的な考え方と背景にあるもの
ttps://jlsa-net.jp/hattatsu/inclusive-kyouiku/

2) 就労環境
障害のある方の就労数も増えています。企業に義務づけられている障害者雇用率の引き上げが影響している面があるものの、2017年度の障害のある方の就職者数は、前年度比4.9%増の9.7万人で、過去最多となっています。

障害のある方の民間企業への就労数は、厚労省が発表した2017年6月のデータでは495,795人。

障害のある方は、全体では936.6万人と推計されていることから(2016年、厚労省)、その就労率はまだまだ高いとは言えないものの、徐々に障害のある方が社会で活躍する場が広がっていることは間違いありません。

(2) 活躍の場が広がることの表と裏

もちろん、障害の有無に関わらず、活躍の場がある、広がるということは、素晴らしいことです。 一方で、社会での活躍の場が広がるということは、その分事件や事故のリスクも広がる、高まると言えます。他者との接点、物との接点など、さまざまな接点が拡大するからです。

たとえば、企業に就職した場合、自宅から会社に移動する場合が多いでしょう。公共交通機関を使い移動するということだけを見ても、他者との接点も増えますし、電車やバス、自転車などの物との接点も増えます。会社では、さまざまな部署があり、よく知らない他者ともやり取りをする必要が出てくる場合もあります。

このような一つひとつの接点における事件や事故のリスクは、決して高いものではありません。とはいえ、社会での接点が増えれば増えるほど、その加害者なのか被害者なのかは別として、事件・事故に遭うリスクが高まることは否定ができないのです。

【関連記事】
障害のある方の社会での活躍の場の広がり
https://jlsa-net.jp/hattatsu/sgs-katusyaku/

参考:
文科省ホームページ
特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

厚労省ホームページ
平成 29 年 障害者雇用状況の集計結果
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/0000187725.pdf
障害者の数
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_b_h28_01.pdf

2. 障害のある方が加害者となった事件・事故
(1) 日本で起きている事件・事故の数

 法務省が公表している平成29年版犯罪白書によれば、日本で起きている犯罪件数は2016年の1年間で、刑法犯が99万件あまりで、その7割以上が窃盗です。また、交通事故は49万件あまりとなっています。

このように、日本という社会の中では、日々数多くの事件や事故が起きています。障害のある方にとっても、事件や事故が無縁の存在ではないことは、誰もが想像できることでしょう。では、具体的にはどのような事件や事故があるのでしょうか?

以下では、障害のある方が「加害者となった」犯罪に注目して見ていきます。

(2) 障害のある方が「加害者となった」犯罪の具体例

法務省が受刑者施設の入所者を対象に行った調査によれば、知的障害のある方が加害者となる犯罪は、窃盗、強制わいせつ・同致死傷、放火及び殺人の比率が高いこと、また、総検挙数に占める割合としては、窃盗、無銭飲食などの詐欺が多いことがわかっています。

(3) 障害のある方が加害者となった犯罪の数

 障害のある方が加害者となった犯罪の数を正確に調査したものはありませんが、犯罪の具体例で見た法務省の調査によれば、知的障害のある受刑者の割合は2.4%となっています。

この調査のみで、知的障害のある方の犯罪を語ることはもちろんできません。同じように、これを障害のある方が加害者となる犯罪の全体像としてとらえることは不可能です。とはいえ、社会との関わりの中で、障害のある方が犯罪・事故の加害者になる可能性があることは、事実として冷静に受け止める必要があるでしょう。

参考:
法務省ホームページ
平成29年版 犯罪白書
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html
平成29年版 犯罪白書の概要
http://www.moj.go.jp/content/001240287.pdf
平成28年版 犯罪白書 (高齢者・障害者犯罪)
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/mokuji.html
知的障害を有する犯罪者の実態と処遇
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00072.html

3. 事件・事故の加害者になると何が起きるか?

「図-事件・事故の加害者となってしまったら・・・」
事件・事故の加害者となってしまったら・・・

(1) 対物ならその物への、対人ならその人への補償が必要になるという事実

 事件や事故の加害者になった場合、どのようなことが必要になるのでしょう? 

一つには、罪に服すというもの。刑務所、少年院などへの服役や罰金などのことで、刑事罰と呼ばれるものです。

もう一つは、損害賠償、つまり補償です。物を壊したなどの場合であれば、その物自体を補償することが必要ですし、人に何らかの危害を加えた場合には、その被害を受けられた方に対する補償が必要になります。これは、刑事罰以上に当然のことと言えるかもしれません。

責任能力の有無で、刑事責任が問われなかったり、軽減されたりといったことがあることをご存知の方も多いでしょう。

民事の不法行為についても、責任能力がないと判断されると、加害者となった方自身は損害賠償義務を負担することにはなりません。ただ、保護者の方などの監督義務者が、加害者自身に代わって責任を負う必要が出てくる場合があります。

(2) 補償のために必要になること ~ 交渉・手続きなどの必要性

「加害者となってしまった、きちんと補償したい」と考えていたとしても、考えただけで補償ができるわけではありません。補償をするための行動が必要になるということです。

補償をするための具体的な行動としては、対物であればその所有者や弁護士などその代理人と、対人であれば被害に遭われた方ご本人やその代理人と、必要な交渉・話し合いが必要になります。

また、交渉・話し合いを行う上でも、交渉・話し合いを受けて実際の補償を行う場合でも、それぞれに必要な手続きがあります。

たとえば交通事故であれば、事故証明書、事故発生状況報告書、被害に遭われた方の診断書などの書類が、補償の手続きを行う場合に最低限必要になります。他にも被害に遭われた方の状況、交渉の内容によっては、必要となる書類も手続きも変わってきます。

このような交渉・手続きについて、個人があらゆる事件や事故の可能性を想定して事前に準備することは現実的ではないでしょう。

(3) 社会的制裁という問題

 刑事罰を受け、また、補償をすればそれで済むというものでもないこともまた事実です。

① 現代社会の社会的制裁の特徴

事件や事故の加害者になった場合、社会的制裁があるという点が見逃せません。社会的制裁とは、たとえばバッシングや辞任・辞職などにあたるようなもので、法律には則っていないものの、他者からさまざまな罰や対抗措置を受けるものを言います。

WEBサイトやSNSの炎上など、ご存知の方も多いことでしょう。インターネットの普及などもあり、情報の拡散スピードが飛躍的に上がり、また、その情報普及範囲も拡大した近年は、社会的制裁の威力は強力なものになっています。

悪人探しのような風潮も含め、万が一事件や事故の加害者になった場合、どの程度の社会的制裁を受けることになるのかを予想することは、非常に難しい面があります。

また必ずしも正しい情報に基づくものではないこと、個別の事情など何ら考慮されずに行われる場合があるという点で、適切な対応が必要な問題であるという側面もあります。

② 地域生活への影響

社会的制裁は、地域で生活することにも影響を与えます。その範囲は、加害者となった方だけではなく、保護者の方を含むご家族の方、支援をされている方にも及ぶ可能性があることを否定できません。

その結果、それまで生活していた場所では日常生活を営むことができなくなる場合があることも、事実として存在しています。

③ インターネット上などでの生活への影響

中には、現実社会での生活ではなく、インターネット上でのヴァーチャルな生活が中心となっている方もいらっしゃるでしょう。ただ、ここでの生活も、平穏なままではいられない場合が多いと考えられます。

特に、多くのサービスを利用されている場合、個人の情報を提供することがサービス利用の条件になっている場合がほとんど。事件や事故という現実の情報が、何らかのサービスで取得された場合、別のサービスの情報とつながり、結果的にご本人が特定されてしまうといったことが考えられるということです。

④ 加害者となったご本人への影響

罪を犯した、事故の加害者になってしまったということだけでも、加害者となった方ご自身に多くの影響を与えるでしょう。

しかし、ここまで見てきたような事実は、ご本人が罪をきちんと償っている場合であっても、大きな影響を与える可能性が否定できません。既にある障害の症状の悪化や、別の精神疾患や精神障害を引き起こす可能性もあるということです。

参考:
公益社団法人 みやざき被害者支援センター
刑事手続きの流れ
http://www.miyazaki-shien.or.jp/victim/flow/

4. 万が一を考える ~ 障害のある方が事件・事故の加害者になるリスク

社会で生きるということは、それだけ事件や事故の加害者になるリスクも高まるという一面があります。もちろん、社会と関わらずに生きるという方法もあるでしょう。

ただ実際には、ほぼすべての方が、社会との関わりなしに生きることはできないと言えます。たとえば、お金を使って物を買うということ一つをとっても、社会が関わっていることは明らかです。

とすれば、障害のある方にとっても、事件・事故の加害者になるリスクを考慮しつつ、社会と関わりながら生活することが重要になると言えるでしょう。ではどのような点を考慮すればよいのでしょうか? その視点として、少なくとも以下の4つが考えられます。

(1) 「事件・事故の加害者になる」というリスクを正しく認識する

まずは、「事件・事故の加害者になる可能性は、自分にも、ご家族の方にもある」ということを、正しく理解することです。このことを事実として受け止められれば、障害のある方やそのご家族にとっても、万が一に備えた対策が必要であることを理解できるのではないでしょうか? 

逆に言えば、「何も対策をしない」ということは、「事件・事故の加害者になるかもしれないというリスクの理解が不十分」と考えた方が良いと言えるぐらいかもしれません。

(2) ご本人たちだけですべてできるのか? という問題

では、具体的にどのような対策が考えられるでしょうか? 一つ考えられるのは、ご本人だけ、ご本人たちだけで対策をするという方法です。

障害のある方ご自身やそのご家族の方が自ら考えるということは非常に重要なことです。特に、活動範囲などから「どのような事件や事故の加害者になりえるか」を考えることは、必要な対策を考える出発点でもあります。ただ、その対策自体をすべて、ご本人やご家族の方だけでできるかと言えば、それは不可能でしょう。

既に見た交通事故ですらさまざまな手続き・交渉などが必要ですし、それも画一的なものばかりではありません。あらゆるリスクを想定し、ケースごとに対策を考えるということは非現実的なものなのです。

(3) 福祉サービスの限界

福祉サービスを利用しているから大丈夫というものでもありません。福祉サービスが提供しているのは基本的には日常の生活面でのサービスであり、事件や事故の加害者になった場合のサポートサービスではありません。このことは、サービス利用時に交わされている契約内容を確認いただければ理解いただけるでしょう。

(4) 必要なサービスを検討する ~ 専門家の支援を受けるということ

「図-事件・事故の加害者になるという「万が一」の備えとして検討したいこと」
事件・事故の加害者になるという「万が一」の備えとして検討したいこと

ここまでで見てきた事情や視点なども踏まえ、「事故や事件の加害者になる可能性」を考慮し、必要となるサービスを検討・利用することが非常に重要だと言えるでしょう。「サービスを利用する」ということは、「その領域の専門家の支援が受けられる」ということでもあるからです。

① 事件・事故の加害者としての賠償責任・補償のリスクに備えて ~ 保険の検討

事件や事故の加害者になるというリスクに対しては、まずは金銭面の対策が必要でしょう。そこで考えられる対策としては、被害に遭われた方やその所有者への賠償責任に対する保険、損害賠償に関わる弁護士費用に関する保険の利用があります。

たとえば自動車保険は、万が一事故を起こしてしまった場合に、対物・対人への損害を補償するものとしてなじみ深いものでしょう。同じような保険が自動車に限らずあるということです。

とはいえ、障害のある方が加入できる賠償責任に対応した保険は限られているという現実があるという点には注意が必要です。

② 成年後見制度の利用

 成年後見制度とは、障害などの理由で判断能力が不十分な方の保護・支援制度で、ご本人の意思を尊重し、かつ、心身の状態や生活状況に配慮しながら、福祉サービスを利用する際の契約や財産の管理などを行うものです。この制度自体は、事件や事故の加害者となった場合の支援制度ではありません。

ただ、特に法定後見人や市民後見人には、弁護士をはじめ、事件・事故の加害者になった場合の対応等に精通されている方も多く、また、組織化もされていることから、専門的な支援のための橋渡しを行ってもらえる可能性が高いと言えます。

特に交渉・手続き・契約などに不慣れだという場合など、制度自体の利用を検討すると良いのではないでしょうか。

【関連記事】
成年後見制度 精神障害や知的障害、認知症など判断能力が不十分な方を保護・支援する
https://jlsa-net.jp/sks/seinenkouken/

参考:
国交省 自動車総合安全情報ホームページ
自賠責保険について知ろう!
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/index.html
交通事故にあったとき、どうすればいいのか?
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/correspondence.html

厚労省ホームページ
障害者福祉
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/index.html

法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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