精神障害のある方を支える教育のしくみ(全体像)

精神障害

はじめに
精神障害のある方を支える教育のしくみとなる全体像をお知らせします。精神障害のある方やその保護者の皆さんにとって、教育に関することは最も気になることの1つでしょう。

ここでは、精神障害のある方ご本人にとっての教育だけでなく、精神障害に関する日本社会全体の教育状況やしくみ・制度に関する大まかな情報をまとめています。



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1. 情報を入手する習慣と具体的に相談する習慣を
(1)誤解される「精神障害」

残念ながら、日本における「精神障害」は、大きな誤解を受けている面があります。ひと言で「精神障害」と言っても、細かい分類まですると500もの種類のものがあります。それぞれの障害には、それぞれの症状があり、また、その程度は人それぞれです。

さらに、発達障害などを含む広い意味で精神障害をさす場合や、行政上対象となる方を特定するために用いられる狭い意味での精神障害をさす場合があったりと、その使われ方も異なる場合が多いという実態があります。これらのことが、大きな誤解を発生させるひとつの原因となっているとも言えるかもしれません。

「図-「精神障害に対する誤解」が生じる原因のひとつ 広い意味での「精神障害」と狭い意味での「精神障害」」
「精神障害に対する誤解」が生じる原因のひとつ 広い意味での「精神障害」と狭い意味での「精神障害」

(2)「精神障害」に関する情報へのたどり着きにくさ

例えば、厚労省は、広い意味での精神障害の1つである「発達障害」について、次のような誤解が発生しているとしています。

診断名に対する誤解
障害の予後についての誤解
支援方法についての誤解
まちの中で見られる行動への誤解

参考:
厚労省ホームページ 政策レポート 発達障害の理解のために 
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html

このように、日本人全体の正しい理解を促す発信を積極的に行ってはいます。が一方で、これらの情報に、どれだけの方がたどり着けるかという問題があります。

(3)情報を入手する習慣が必要 = 具体的な相談ができるように

情報へのたどり着きづらさは、精神障害のある方やその保護者の方などにとっても同じ状況と言えます。教育を含め、障害のある方への福祉サービスは充実する方向です。

しかし、そのほとんど全てが申告に基づく認定制です。そこでまず重要になるのは、最新の情報を入手することと、悩みや困り事をなるべくはっきりさせて具体的に相談すること、と言えるのではないでしょうか。

2. 精神障害のある方の教育:方針は国、実際に行うのは都道府県・市区町村や各機関

教育を受ける権利は、憲法で保障されているものです。もちろん、精神障害のある方も例外ではありません。これを実際に行うには、しくみづくりやサービスの提供などだけではなく、法整備なども必要であり、これらは各機関で役割分担され、実施されています。

(1) 国(内閣府・文科省・厚労省など)

障害のある方への教育についての方針を示す、法律を制定するなど、しくみや制度の柱になることを決める役割が中心です。なお、精神障害のある方を教育面で支える主な法律には、以下のものがあります。

精神障害者基本法
精神保健福祉法
障害者総合福祉法
発達障害者支援法
児童福祉法
学校教育法
障害者雇用促進法
など

(2) 都道府県・市区町村(都道府県庁・市区町村の役所・教育委員会など):

各地域の実情に合わせて、しくみや制度を整備し、教育に関するサービスを提供します。つまり、障害のある方へのサービスの詳細を決めたり、障害のある方の相談に対応したり、サービス申請の窓口対応をしたりする、ということです。

他にも、地域住民の教育を国と共に担当する地域の各機関が、定められたとおりサービスを実施しているか、管理・監督することなども役割になります。

(3) 各サービスの実行者(各種学校、組織、民間企業など):

学校を中心とした公的機関の他、民間企業などもサービスの提供を行っています。

以上のように、それぞれの機関が、精神障害のある方の教育を支えています(というよりは、障害のある方を含めた人々の教育を支えています)。

とはいえ、たとえば義務教育や高校・大学教育、生涯学習を含む教育の振興を文科省が、子育てや労働に関しては厚労省がそれぞれ担当するなど、支える機関によって役割範囲の違いがあったり、担当機関の引継ぎが発生するタイミング(例えば就学タイミング)があったりします。

3. 教育の対象は、精神障害のある方ご本人だけではない

「図-精神障害のある方を支える教育のしくみ」
精神障害のある方を支える教育のしくみ
「精神障害のある方を支える教育」は、障害のある方ご本人向けの教育制度やしくみだけがあればよいというわけではありません。前述のとおり、「精神障害」に対する社会での誤解が大きければ大きいほど、精神障害のある方は「社会での生活がしづらい」と感じられるでしょう。

国民が健康的で文化的な最低限の生活ができることは、憲法で保障されています。しかし、精神障害のある方が、障害のあること、それが理解されないことが理由で「社会での生活がしづらい」と感じられているのであれば、社会として解決する必要があります。

このような理由から、精神障害にまつわる教育は、精神障害のある方ご本人だけでなく、サポートされる保護者の方、支援機関、地域社会や企業などにも実施する必要があることがわかります。

4. 発達段階(≒ライフタイムイベント・時期)に応じた精神障害のある方への教育支援(全体像)

次に、精神障害のある方ご本人(及び保護者の方)への教育支援の全体像を見てみましょう。人間は誰しも子どもから大人になり、やがて死を迎えます。この一生におけるそれぞれの時期によって、支援すべき内容は異なります。

「図-発達段階(≒ライフタイムイベント・時期)に応じた精神障害のある方への教育支援」
発達段階(≒ライフタイムイベント・時期)に応じた精神障害のある方への教育支援
(1) 幼少期の主な教育支援

① 早期発見支援:

精神障害は、2次障害を引き起こしやすい障害と言われています。その原因は複数あると言われていますが、たとえば、
1) 精神障害のある方自身が、「できない」ことに心を囚われてしまうこと
2) 精神障害のある方の保護者の方が、「できない」ことに不安を覚え、対応にあたってしまうこと
3) 周囲の理解が得られないこと
4) そもそも併発症状があること
などが複雑に絡み合って引き起こすと考えられています。環境を整えれば絶対に2次障害が起こらない、というわけではありません。それでも、早期発見ができれば、少なくとも1~3の面での問題を小さくしていくことにはなるでしょう。

参考:
国立精神・神経医療研究センター ホームページ
http://www.ncnp.go.jp/nimh/jidou/

なお、精神障害の発見に関する主な制度としては、以下のようなものがあります。
5) 乳幼児健康診査
・1歳6か月児健康診査
・3歳児健康診査
6) 就学時の健康診断

参考:
文科省 ホームページ 特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

② 就学支援:

小学校・中学校への就学について、精神障害のある方は、通常級・通級(通級指導教室)・特別支援学級・特別支援学校などの選択肢の中から、就学先を選択することになります。

1) 通常級:
小学校・中学校で通常の授業を行う学級のことです。

2) 通級指導教室:
通常の学級(通常級)に在籍し、ほとんどの授業を通常の学級で受けながら、障害の状況に応じた特別な指導を、特別な指導の場で行うものです。

3) 特別支援学級
障害の種別ごとの少人数の学級で、障害のある児童一人ひとりに応じた指導を行う学級です。一部の教科の指導は、通常級で行う場合もあります。

4) 特別支援学校
心身に障害のある児童・生徒が通う学校で、幼稚部・小学部・中学部・高等部があります。また障害に基づく種々の困難を改善・克服するために、「自立活動」という特別な指導領域が設けられています。

【関連記事】
精神障害のある方の小学校就学~中学校進学までを支えるしくみ
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-syotyu/

参考:
文科省 ホームページ 特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

5) 就学相談
就学先の選択は、精神障害のある児童本人、保護者、教育委員会との間で相談しながら行うことになります。これを、就学相談と言います。障害のある方ご本人にとって、もっとも適している教育環境は何か? を検討し、準備することが目的です。

6) 経済面での支援
精神障害のある方が義務教育を受ける際、必要となる勉強道具・通学費・給食費など保護者の経済的負担を国や地方公共団体が補助するしくみに、特別支援教育就学奨励費があります。

特別支援学校・特別支援学級に通っているか、通級などの場合でも障害の程度によって支給されます。(保護者方の経済状態も、支給対象か否かの判断材料です)

(2) 青年期の主な教育支援

① 就学支援(進学支援):

1) 高校
高校においては特別支援学級が設置されていないのが現状です。その理由としては、義務教育でないこと、入学試験などを通じて選抜されること、などがあげられます。ただし通級における支援については、文科省が2018年度から運用を開始する準備を進めています。

なお、文科省の調査によれば、中学校で特別支援学級を卒業した生徒のうち、進学する生徒は9割以上。そのうち6割程度が特別支援学校の高等部に進学しています。

【関連記事】
将来の自立に向けた教育 高校進学~
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-koukou/

参考:
文科省 ホームページ 特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

2) 大学
学業が大きな比率を持つ大学においては、基本的には個々の大学の支援担当者が精神障害のある方の支援を個別に行っています。

・就学まで
病識が乏しい学生へ医療機関への受診を勧めたり、受診の継続を促したりといった支援をしています。

・就学にあたって
多くの大学で、自己申請受けて、個別の支援策を行っています。なお、支援の申請にあたっては、医療機関による診断書の提出を求めているようです。これは、主治医や専門医からの具体的な所見を参考に、どんな支援が必要かなどの環境整備に役立てられるからです。

・復学について
病状の悪化などでやむなく休学した後、復学を希望する場合は、カウンセラーや学校医を通じ、主治医や保護者と連携しながら復学後の環境整備・調整が行われます。

参考:
日本学生支援機構 ホームページ
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/guide_kyouzai/guide/index.html

② 就労支援:

厚労省が中心となって、障害者雇用対策を進めています。この雇用対策の中で、精神障害のある方に対する職業訓練教育や、大学生等の就職におけるインターン制度のような体験教育といった教育制度が設置されています。

これらの制度は、職場における障害全般に関する意識改革などの教育という側面も持っています。

1) 雇用対策
雇用する企業は、雇用する労働者の2.0%に相当する障害者を雇用することが義務づけられています。このことは、障害者雇用促進法で定められています。

この他にも、障害者雇用に関する教育制度、障害者を雇い入れた場合などの助成金の支給、障害者を雇用することでの税制面での優遇など、精神障害のある方の雇用を企業に促すしくみがあります。

2) 精神障害をお持ちの方の就労支援と職業教育支援
主に次のような事業があります。

・ハローワークにおける職業相談・職業紹介
精神障害のある方の個々の状況に応じた職業相談を実施するとともに、福祉・教育等関係機関と連携した「チーム支援」により、就職の準備段階から職場定着まで一貫した支援を実施しています。

・障害者試行雇用(トライアル雇用)事業
事業主が試行雇用の形で精神障害のある方を受け入れることを通じて、精神障害のある方の雇用についての組織内での理解を促し、また、試行雇用終了後には常用雇用への移行を進めることを推進しています。

精神障害の方あるについては、雇入れ当初は週20時間未満の就業から開始する短時間トライアル雇用を実施しています。

・障害者職業能力開発校
障害者職業カウンセラーと職業訓練指導員を配置して、職業評価・職業指導及び職業訓練を一貫した体系の中で実施しています。この開発校に通える在職者を対象としたセミナー方式の訓練の他、休職中の精神障害のある方が職種転換を行うための短期課程の職業訓練などを行っています。

【関連記事】
精神障害のあるの方の就労 ~社会での自立と活躍への道
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-ziritsu

参考:
厚労省 ホームページ 障害者の方への施策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/shougaisha/
東京都保健福祉局 ホームページ 就労支援情報
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/jouhou/shien/index.html
高齢・障害・求職者雇用支援機構 ホームページ
http://www.jeed.or.jp/disability/index.html

(3) 老齢期の主な教育支援

大別すると、障害者施策という面からの教育支援と、社会生活関連施策という面からの教育支援とが考えられます。例えば文科省は、長寿社会における生涯学習の在り方についての検討を進め、制度やしくみづくりを模索している面があります。

ただ、一般の高齢者の方と同様、精神障害のある高齢者の方に対する教育のしくみづくりは進んでおらず、いずれの面からも適当なものがないというのが現状です。

一方で、精神障害のある高齢者の方に、社会の構成員としての役割をさらに発揮いただくことも考えられます。例えば、精神障害のある高齢者の方ご自身の経験やノウハウ、その生き方などを通じて、地域の方々への教育者としての役割を果たしていただくことも考えていけるということです。

まとめ

いかがでしたか? 精神障害のある方への教育については、その方々自身への教育という側面と、社会がその方々から学ぶという側面と、大きくは2つの側面があるのではないかと思われます。

精神障害のある方への教育そのものと、精神障害に関して誤解がなくなるような教育とが両輪となって深化していくことで、相互理解が深まり、よりよいしくみへと変えていくことができるのではないでしょうか。 

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

参考:
厚労省ホームページ 政策レポート 発達障害の理解のために 
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html

国立精神・神経医療研究センター ホームページ
http://www.ncnp.go.jp/nimh/jidou/

文科省 ホームページ 特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

日本学生支援機構 ホームページ
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/guide_kyouzai/guide/index.html

厚労省 ホームページ 障害者の方への施策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/shougaisha/

東京都保健福祉局 ホームページ 就労支援情報
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/jouhou/shien/index.html

高齢・障害・求職者雇用支援機構 ホームページ
http://www.jeed.or.jp/disability/index.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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