障害者の方が暮らしやすい社会づくりノーマライゼーションとは?
はじめに
障害者の方が暮らしやすい社会づくりノーマライゼーションとは?障害のある方が、困難や課題を抱えることになるのはナゼでしょうか。この疑問に対して、「社会のしくみや制度、基盤に問題があるからだ」とする考え方にノーマライゼーションがあります。
ノーマライゼーションの考え方を取り入れると、私たちの暮らす社会の大きな課題を解決できる可能性があります。
ここでは、そのような大きな可能性を秘めたノーマライゼーションとはいったいどういったものか? ということを中心に、その考え方などについて、まとめています。
1. ノーマライゼーションとは
「図-私たちが今生活している社会」
私たちが暮らす社会は、いわゆる「健常者」と呼ばれる方を中心としたマジョリティの方に合わせて整備されてきたという歴史があります。このため、障害のある方を含むマイノリティの方にとっては、暮らしにくい、生活しにくい、生きにくいといった面があることが否定できません。
このため、より良い社会をつくるには、マイノリティに位置づけられてきた方々にとって問題となっている、社会のしくみや基盤を変えていくことが必要になると考えられます。ノーマライゼーションは、そのような社会の変革を具体化するためのアプローチ方法として生まれた考え方です。
ノーマライゼーションとは、「生活環境や地域生活が、可能な限りマジョリティの方々が受けられるものと近いか、あるいはまったく同じになるように、生活様式や日常生活の状態を、障害のある方を含むマイノリティの方々に適した形で整備すること」と言えます。
つまり、障害があることによって困難や課題があるのだとすれば、それは社会のしくみや基盤、制度などを変える必要があるということであって、障害自体が問題なのではなく、まして、障害のある方が社会に合わせるというようなことではないという考え方です。
この考え方は、デンマークのミケルセンによって初めて提唱され、スウェーデンのニィリエにより理念として整理・成文化され、原理として定義づけられました。
参考:
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
ノーマライゼーションと障害のある子どもの教育
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_c/c-44_0/c-44_0_03_12.pdf
東北福祉大学 通信教育部 With ホームページ
【社会福祉キーワード】 ノーマライゼーション
https://www.tfu.ac.jp/tushin/with/200803/01/03.html
2. ノーマライゼーションの8つの原理
ニィリエが示したノーマライゼーションの原理は、「ノーマライゼーションの8つの原理」としてまとめられています。
「図-ノーマライゼーションの8つの原理」
障害の有無を問わず、同じように一日一日を、一定のリズムを持って過ごせるような環境をつくるということです。
たとえば、朝起き、着替え、食事をし、やりたいこと・やるべきことをやり、一日を終え眠りにつくということが、一人ひとりの意思によってできるということで、自分の意思に反して、あるいは、同意なく、サービスを提供している側の都合で食事をさせられるといったことがないということでもあります。
人は、自宅だけでなく、学校や職場でも生活しています。そして、その生活には、休日も含めた一週間のリズムがあります。つまり、複数の場での活動を、一定程度のリズムを持って過ごせるような環境は、障害の有無を問わず必要だということです。
一年という単位で私たちの暮らしを見ると、長期の休暇といった生活の変化があります。また、季節の変化は、食事でも、行事やスポーツなど、さまざまな楽しみをもたらします。
一年の普通のリズムとは、障害の有無で、このような変化や楽しみが制限されるようなことがあってはならないということです。
幼少期の子どもにはその時期の子どもなりの、青年期には青年期なりの、社会に出て責任を持つようになった大人には大人なりの、老齢期には老齢期なりの、それぞれの時期で興味関心事があるものです。
たとえば、子どものころはただキャンプをすることが、青年期にはオシャレに気を配ることが、社会に出てからは仕事や家庭への責任が、老齢期には思い出がといったように、成長とともに興味関心事が変わるでしょう。
このような変化を、誰しもが同じように経験できることが必要だということです。
好きなところに住み、好きなことをやり、それをすることを家族の方や友だちに限らず、誰にも非難されるようなことがなくできるということです。
障害があることによって、ある特定の場所にしか住めない、やりたいと思っていることがあるのにできない、やろうとすると非難されるといったようなことが社会のしくみが整っていないことが起こらないようにするということです。
子どもも大人も、同性と、そして異性と、より良い関係を作ろうとするものです。障害があるという理由だけで、「同性とだけの関係」しか構築できないというのは、それは決してノーマルなものではありません。
障害の有無に関わらず、男性も女性もいる世界に住むことは非常に重要なことということです。
基本的人権の尊重を上げるまでもなく、基本的な公的財政援助を受けられ、そのための責任を果たすことは、社会の構成員である以上、権利であり、義務でもあるとする考えです。
その必要に応じて、手当や年金などの保障を受け、経済的安定をはかることがあったとしても、それ自体が健全で平和な、夢のある社会づくりに必要なしくみでもあります。
障害があるという理由で、ご本人の意思に反して、特定の地域に作られた大規模施設などでの生活を強いられるようなことがあってはならないということです。
「図―ノーマライゼーションの4つの原則」
ニィリエによりまとめられた8つの原理について、さらに整理すると、次の4つの原則として整理することができるという考え方があります。
障害の有無に関わらず、誰もが、その時代・その場所で主流となっている生活条件に近い「ノーマルな生活」をおくる権利を行使できるよう、社会環境を整備することが必要だということです。
ご本人の意思に反して、分離されたり、管理されたり、囲い込まれたりするなどして生活させられることは、「ノーマルな生活」とは言えませんし、そのような生活を課す社会もノーマルではないと言えるでしょう。
つまり、社会参加するのに、特定の方、つまり、障害のある方が通常以上の努力を求められるのはおかしいということです。それは社会の側が解決すべき課題としてとらえ、実際に解決していく必要があるということです。
なお、「インクルーシブ」とは、「包括的」という意味で、「障害のある方も、そうでない方も、同じ権利や義務が、同じ程度の努力をするなどの条件の下で行使できるそれだけの器の広さがある」というような意味として、とらえることができます。
ノーマライゼーション以前の考え方では、障害のある方々は、そうでない方が発想し整備した教育や福祉を「与えられる存在」ととらえられがちでした。一方、ノーマライゼーションの下での教育・福祉は、障害のあるご本人の主体性と選択の自由によって行われるべきものと考えられるようになっています。
この原則は、エンパワメントという考え方と密接な関係があります。エンパワメントとは、「社会福祉サービスの利用者・消費者がより力を持ち、自分たちの生活に影響を与える事柄や問題を自分自身でコントロールできるようになることを言います。
このため、障害のある方の自立という言葉や利用者がサービスを選択するということ、障害のある方の保障されている権利の擁護といった点とも結びつくものと言えるでしょう。
【関連記事】
インクルーシブ教育とは? ~その基本的な考え方と背景にあるもの
https://jlsa-net.jp/hattatsu/inclusive-kyouiku/
障害があることによって、日常の生活や社会での生活をおくる困難は、一人ひとり異なり、多様であるとも言えるでしょう。逆に言えば、それを解決する方法も、多様であり、個別的なものになるということです。
つまり、障害のある方の能力や障害別に教育するのではなく、一人ひとりに着目して、必要な援助を行うことが必要だということです。
参考:
高知市ホームページ
ノーマライゼーションの八つの原則(ニィリエ)
http://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/29/keikaku-1-norma.html
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
ノーマライゼーションと障害のある子どもの教育
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_c/c-44_0/c-44_0_03_12.pdf
3. ノーマライゼーションにまつわる誤解
「図―ノーマライゼーションにまつわる誤解」
より良い社会づくりに向け、ノーマライゼーションの考え方は、非常に有効なものだと考えられています。そのため、さまざまな施策に取り入れられつつあります。一方で、不十分な理解により、誤解が生じる場合もあります。
以下のようなノーマライゼーションに関する誤解には、十分注意が必要と言えるでしょう。
ノーマライゼーションは、障害のある人が、障害をお持ちでない人に合わせて行動することではありません。人を変える、人に強いるのではなく、社会の側が社会の課題を解決するというのがノーマライゼーションの考え方です。
ノーマライゼーションは、障害のある方が、支援を受けずに生活できるようになることを目指すということではありません。たとえば、眼鏡があれば、視力が矯正され、不自由なく生活することができる方が多くいらっしゃいます。
この眼鏡にあたる支援やサービスを、一人ひとりの障害の特性や状況に合わせて作っていこう、それを行っていこう、それができる社会をつくろうというのがノーマライゼーションの考え方です。
ノーマライゼーションは、障害の種別や程度に影響を受けるものではありません。重度の障害であったり、重複障害であったりする場合、その課題を取り除くには、その分多くの支援やサービスが必要でもあると考えられます。
何を完璧と言うかという問題もありますが、いずれにしてもノーマライゼーションは、完璧を目指すような考え方ではありません。それぞれの状況に応じて、それぞれに必要な支援を行ったり、環境を整えたり、それができる条件を整えたりといったことをしていこうという考え方です。
参考:
再考・ノーマライゼーションの原理ーその広がりと現代的意味、ベンクト ニィリエ、現代書館
4. 日本におけるノーマライゼーション
ノーマライゼーションの考え方は、日本では1980年代に入ってからの「国際障害者年」の制定をきっかけに広く知られるようになりました。その理解が進む中で、平成7年には、「障害者プラン ノーマライゼーション7か年戦略」が策定されています。
「ノーマライゼーション7か年戦略」では、共生社会、障害のある方の自立支援、バリアフリー化、QOLの向上のためのハード・ソフトの整備、安全な暮らしの確保、インクルーシブ教育など相互理解や交流の推進、国際協力・協調という7つの視点が施策の重点ポイントとして掲げられています。
ここで掲げられたポイントは、名称等含めた多少の変更などはありつつ、今も社会福祉施策の根幹となっているとも言えるかもしれません。
参考:
内閣府ホームページ
障害者プランの概要 ~ノーマライゼーション7か年戦略~
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/plan.html
最後に
ノーマライゼーションという考え方は、実は、障害のある方に対する社会福祉という枠を超え、たとえば、認知心理学やコンピュータ科学、ロボット工学、工業製品デザイン、環境工学、教育学などの分野に取り入れられていっています。
その中で、「人間のいかなる能力も、一定の環境下ではじめて可能となる」という考え方があります。
たとえば思考という能力のうち、計算は、社会においてはその多くが計算機やコンピュータなどの道具を使って行われていますし、また、記憶についても、日記帳やメモ、データなどの他、写真や映像、建物のような形に変えて社会に保存されています。
つまり、計算や記憶といった思考も、社会で生かすには道具や形に変える術が必要とされるということです。逆に言えば、道具が整いさえすれば、障害のある方が普通に生活できたり、能力を存分に発揮できたりということは実現できるということなのです。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
内閣府ホームページ
障害者プランの概要 ~ノーマライゼーション7か年戦略~
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/plan.html
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
ノーマライゼーションと障害のある子どもの教育
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_c/c-44_0/c-44_0_03_12.pdf
東北福祉大学 通信教育部 With ホームページ
【社会福祉キーワード】 ノーマライゼーション
https://www.tfu.ac.jp/tushin/with/200803/01/03.html
高知市ホームページ
ノーマライゼーションの八つの原則(ニィリエ)
http://www.city.kochi.kochi.jp/soshiki/29/keikaku-1-norma.html
再考・ノーマライゼーションの原理ーその広がりと現代的意味、ベンクト ニィリエ、現代書館
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