障害者雇用促進法の改正と障害のある方の一般企業への就労への道
はじめに
障害者雇用促進法の改正と障害のある方の一般企業への就労について。障害のある方が持つ能力に注目が集まり、社会での活躍の場も広がっています。障害のある方の職業の安定を図ることを目的に制定された障害者雇用促進法。この法律では、企業等に、障害のある方の雇用義務と雇用にまつわる必要な対応を求めています。2018年4月の改正では、これまでの身体障害と知的障害に、精神障害が加えられました。この結果、障害者雇用率が引き上げられ、雇用する義務のある企業が増加するとともに、雇用する障害のある方の人数も増えることになりました。
ここでは、2018年4月に改正ポイントを中心にまとめてみました。
1. 障害のある方の就労状況 ~一般企業への就労のハードル
2. 障害者雇用促進法とは? その制定の背景と主なポイント
3. 障害者雇用促進法の2018年4月の改正ポイント ~ 障害者雇用率の引き上げ
最後に
1. 障害のある方の就労状況 ~一般企業への就労のハードル
日本は人口減少社会に突入したと言われています。内閣府が発表しているデータによると2017年時点で日本の総人口は1億2千万人あまりで、2065年には8千万人台にまで人口減少が進むと推計されています。
このような中で、団塊世代の大量退職もあり労働人口は減少、AIなど科学技術の進展による補完は見込まれているものの、人手不足は大きな社会問題にもなっています。
一方で、技術革新は、これまでは実現が難しかったことを可能にする側面もあります。「新たな技術を活用できるモノ・サービスづくり」という視点、つまり、創造力が必要になってきているということでもあります。
このような中で、量・質の両面から、障害のある方の能力の発揮に注目が集まるようになってきつつあるのです。
内閣府が公表している障害者白書の平成25年版によれば、従業員5人以上の規模の事業所に雇用されて働いている障害のある方は、身体障害のある方で34.6万人、知的障害のある方は7.3万人、精神障害のある方は2.9万人となっています。
この人数は、くり返しになりますが従業員5人以上の事業所への就業人数に限られています。
また、同調査報告のコメントとして付されている「精神障害のある方は、障害のあるであることを申し出ずに働いているのでは?」との推測も、ある程度はあてはまると言えますが、障害のある方の一般企業への就業率が高いとは言えない状況にあるのは間違いないでしょう。
ただ、そうではあっても、雇用数、実雇用率ともに年々増加しているのも事実なのです。
参考
厚労省ホームページ
平成29年障害者雇用状況の集計結果
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000187661.html
内閣府ホームページ
平成28年障害者白書
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h28hakusho/zenbun/pdf/ref2.pdf
2. 障害者雇用促進法とは? その制定の背景と主なポイント
このように、少しずつ障害のある方の雇用が拡大している背景に、障害者雇用促進法の存在があります。障害者雇用促進法は、正式名称を障害者の雇用の促進等に関する法律と言い、障害のある方の職業の安定を図ることを目的に制定された法律です。
前身となっている法律は、1960年に制定された身体障害者雇用促進法です。ただしこの法律の制定当初は、障害のある方の雇用は努力目標とされており、義務化されたのは15年以上も経った後です。
その後1987年に名称変更され、1998年に、身体障害のある方に加えて、知的障害のある方の雇用が法的にようやく義務化されました。このように、障害のある方の雇用に関する法律は、5年程度ごとに見直され、一部改正が繰り返されてきたという経緯があります。
「図-障害者雇用促進法のポイント」
障害者雇用促進法で定められている主なポイントは、次のとおりです。
障害者雇用促進法では、一定規模以上の民間企業、国・地方公共団体・特殊法人、教育委員会といった組織の性質別に、その事業主に対し、別途算出・定められる障害者雇用率に相当する人数の障害のある方を雇用することが義務づけられています。
たとえば障害者雇用率が2%に定められている場合、50人以上100人未満の従業員のいる企業には、一人以上の障害のある方を雇用する義務が発生するということです。
納付金制度とは、障害者雇用促進法に定められた障害のある方の雇用の義務を企業等の事業主に果たさせるための、いわば「動機づけ」にあたるようなしくみのことです。事業主に対する経済的な面での調整制度で、次の大きく2つのことが定められています。
1) 納付金・調整金
障害者雇用率に基づき発生する障害のある方の雇用義務に対し、それを達成できなかった企業には、不足人数分の経済的負担が求められています。義務を果たせなかった場合に、罰金のようなものを国に納付することが求められるということです。
その一方で、障害者雇用率を上回って障害のある方を雇用する企業に対しては、上回った人数分の金銭が支給されることになっています。つまり、障害のある方を多く雇用すれば雇用するほど、その企業には多くの支給金が交付されるということです。
2) 助成金制度
障害のある方の雇用環境整備にあたって、企業向けにさまざまな助成制度が用意されています。この助成制度には、以下のようなものがあります。
・雇い入れた場合の助成
・施設等の整備や適切な雇用管理の措置を行った場合の助成
・職業能力開発をした場合の助成
・職場定着のための措置を実施した場合の助成
障害のある方が職業生活を営む上で必要となること、という視点から、地域の就労支援関係機関において、その支援を行うしくみを整備することが定められています。具体的には以下のようなものが整備されています。
1) 障害のある方の状態や状況に応じた職業紹介、職業指導、求人開拓等:
ハローワーク
2) 専門的な職業リハビリテーションサービスの実施(職業評価、準備訓練、ジョブコーチ等):
地域障害者職業センター
3) 就業・生活両面にわたる相談・支援:
障害者就業・生活支援センター
1) 障害のある方に対する差別の禁止
当然と言えば当然のことですが、雇用の分野において、障害を理由に差別的取扱いをすることを禁止することが明確に定められています。
【関連記事】
障害者差別解消法 障害のある方への差別という問題
https://jlsa-net.jp/sei/sabetukaisyouhou/
2) 合理的配慮の提供義務
事業主には過重な負担にならない程度に、とはいえ、障害のある方が職場で働くにあたって生じる困難を取り除いたり、軽減したりすることが求められています。
職場における障害のある方への合理的配慮の例としては、次のようなものがあります
<職場における合理的配慮の例>
・車いすを利用する方に合わせて、机や作業台の高さを調整すること
・知的障害のある方に対して、口頭だけでなく絵や図を用いて説明すること など
【関連記事】
合理的配慮とは? ~障害のある方が普通に生活できる社会づくり
https://jlsa-net.jp/hattatsu/gouritekihairyo/
3) 苦情処理・紛争解決援助
差別や合理的配慮にあたって、障害のある方と雇用する職場との間で何らかのトラブルが発生する可能性もあります。そのような場合を想定し、以下のことが必要と定められています。
・事業主に対して、差別や合理的配慮に関する雇用する障害のある方からの苦情を自主的に解決する努力義務があること
・紛争にまで発展する場合を想定し、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律の特例(紛争調整委員会による調停や都道府県労働局長による勧告等)を整備すること
平成29年の厚労省の集計によれば、障害者雇用率を達成した民間企業の割合は50%で、前年比1.2ポイント上昇しています。公的機関や独立行政法人なども含め、雇用障害者数、実雇用率は過去最高となっています。
一方で、障害者雇用率の未達成企業は45,471社あり、不足数が0.5人または1人である企業(1人不足企業)が、67.3%。また、障害のある方を1人も雇用していない企業(0人雇用企業)が、未達成企業に占める割合は、58.7%となっています。
つまり、義務を達成している企業と未達成な企業が混在する状態にあるということです。
参考:
電子政府の総合窓口 e-Govホームページ
障害者雇用促進法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=335AC0000000123&openerCode=1
厚労省ホームページ
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
平成29年障害者雇用状況の集計結果
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000187661.html
3. 障害者雇用促進法の2018年4月の改正ポイント ~ 障害者雇用率の引き上げ
「図-障害者雇用率の算出方法の変化と影響」
ここまで見てきたように、障害者雇用促進法では、企業等に障害者雇用率に基づく障害のある方の雇用を義務づけています。障害のある方を雇用する必要があるかどうか、また、雇用する必要のある人数は何人かを算出するとき用いる障害者雇用率の計算方法は、上図のとおりです。
2018年4月以前、障害者雇用率の算出には、身体障害のある方と知的障害のある方のみが対象となっていましたが、これに精神障害のある方が加わることになりました。つまり、2018年4月の改正とは、この障害者雇用率の算出方法の変更のことであり、算出する際の対象に精神障害のある方を加えるということでもあります。
先の計算式を見ていただければわかるとおり、分子に精神障害のある方が加わることになります。このため、障害者雇用率が引き上げられることになります。つまり、これより障害のある方を雇用する義務のある企業が増え、また、一企業あたりで障害のある方を雇用する必要のある人数も増えることになるということです。
なお、2018年4月からの障害者雇用率と、それ以前の障害者雇用率とを比較すると、次のようになります。
<障害者雇用率>
また障害者雇用率は、2021年3月までのいずれかのタイミングで、さらに0.1%引上げられることが決まっています。
2018年4月の改正で、民間企業に適用される障害者雇用率が2.2%になった結果、企業規模(働く人の人数)に応じて、それぞれ次の人数の障害のある方の雇用義務が発生することになります。
<2018年4月~の企業規模ごとの障害のある方の雇用義務数 ~目安~>
※時短勤務者の扱いなど、企業規模・雇用義務数ともに厳密なものではない点に注意
障害者雇用率算出と雇用対象義務の対象となる「障害者」は、障害者雇用促進法の中で次のように定義されています。
一 次に掲げる視覚障害で永続するもの
イ 両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異状がある者については、矯正視力について測ったものをいう。以下同じ。)がそれ ぞれ0.1以下のもの
ロ 一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもの
ハ 両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
ニ 両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
二 次に掲げる聴覚又は平衡機能の障害で永続するもの
イ 両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上のもの
ロ 一耳の聴力レベルが90デシベル以上、他耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの
ハ 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの
ニ 平衡機能の著しい障害
三 次に掲げる音声機能、言語機能又はそしやく機能の障害
イ 音声機能、言語機能又はそしやく機能の喪失
ロ 音声機能、言語機能又はそしやく機能の著しい障害で、永続するもの
四 次に掲げる肢体不自由
イ 一上肢、一下肢又は体幹の機能の著しい障害で永続するもの
ロ 一上肢のおや指を指骨間関節以上で欠くもの又はひとさし指を含めて一上肢の二指以上をそれぞれ第一指骨間関節以上で欠くもの
ハ 一下肢をリスフラン関節以上で欠くもの
ニ 一上肢のおや指の機能の著しい障害又はひとさし指を含めて一上肢の三指以上の機能の著しい障害で、永続するもの
ホ 両下肢のすべての指を欠くもの
ヘ イからホまでに掲げるもののほか、その程度がイからホまでに掲げる障害の程度以上であると認められる障害
五 心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの
知的障害者更生相談所、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第6条第1項に規定する精神保健福祉センター、精神保健指定医又は法第19条の障害者職業センター(次条において「知的障害者判定機関」という。)により知的障害があると判定された者
【関連記事】
知的障害のある方の就労 ~社会での自立と活躍への道
https://jlsa-net.jp/ti/chiteki-ziritsu/
一 精神保健福祉法第45条第2項の規定により精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者
二 統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)又はてんかんにかかっている者(前号に掲げる者に該当する者を除く。)
出典:厚労省ホームページ 障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vosj.pdf
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精神障害のあるの方の就労 ~社会での自立と活躍への道
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-ziritsu/
最近注目を集める発達障害の場合は、どのような扱いになるのでしょう?
発達障害は、広い意味での精神障害に位置づけられていますが、障害者雇用促進法においても同じく「精神障害に含まれる」とされています、ただし、障害者雇用枠での雇用対象となるのは、精神障害のある方のうち、精神障害者保健福祉手帳を公布されている方とされています。
つまり、発達障害のある方が障害者雇用枠での就職を目指す場合には、精神障害者保健福祉手帳を取得することが必要だ、ということです。
ここまで見てきたように、障害者雇用促進法の2018年4月の大きな改正ポイントは、「障害者雇用率の算出方法の変更」です。よって、企業の側に、「精神障害のある方を雇用する義務が発生しているわけではない」という点に注意が必要です。ただし、障害者雇用率の引き上げに伴い、障害のある方を雇用する義務がある企業は増え、また、雇用する人数も増えることから、精神障害のある方の雇用拡大にはつながると考えられます。
参考:
電子政府の総合窓口 e-Govホームページ
障害者雇用促進法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=335AC0000000123&openerCode=1
厚労省ホームページ
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vosj.pdf
最後に
社会状況の変化の中で、障害のある方が持つ能力に注目が集まるようになり、社会での活躍の場も広がりつつありますが、それを法律面で支えるものに障害者雇用促進法があります。障害者雇用促進法は、障害のある方の職業の安定を図ることを目的に制定されました法律で、企業等に、障害のある方の雇用義務と雇用にまつわる必要な対応を求めています。
障害のある方の雇用数の算出には、障害者雇用率を利用することになりますが、その算出にあたって、2018年4月の改正では、これまでの身体障害と知的障害に、精神障害が加えられました。この結果、障害者雇用率が引き上げられ、雇用する義務のある企業が増加するとともに、雇用する障害のある方の人数も増えることになります。
つまり、障害のある方が社会で活躍できる場の拡大を、量的な側面から法制度面で後押ししているということができるでしょう。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。
参考:
電子政府の総合窓口 e-Govホームページ
障害者雇用促進法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=335AC0000000123&openerCode=1
内閣府ホームページ
平成28年障害者白書
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h28hakusho/zenbun/pdf/ref2.pdf
厚労省ホームページ
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
平成29年障害者雇用状況の集計結果
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000187661.html
障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vosj.pdf
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